第36話 閑話 バンディエルの混乱

「何なんだよこれは!」


 葉子から貰った箱を手に、魔石を潰し魔力を吸収していく。


「意味が分かんねぇ!」


 小粒だが上質のその魔石は、葉子が“水まんじゅう”と呼んでいたスライムの魔石だ。


 だが、ただのスライムではなかった。



 『不可触スライム』



 見た目は普通のスライスと何ら変わりはない。


 だが、不可触スライムだった場合は、物理的に触れたが最後、それが例え間接攻撃だろうと追尾され、全てを飲み込みその身に吸収し尽くされてしまう、触れてはならぬ物の代名詞みたいなヤツだ。


 だから魔術で倒すのが定石だが、魔術だって基本的な火・水・土・風は全く効かない。


 アイツにそれをどうやって倒したかを聞いたら、さも得意げに『フリーズドライよ!』と言いやがった…。


 まずその言葉の意味が分かんねぇんだよ!!『凍らせて』、『乾燥』?そんなんで倒せる様な魔物じゃねぇぞ?!


 詳しく聞こうと思って尋ねても、返って着た答えが……


『最初は医療品の為に開発されたと確か聞いたわ。それからインスタントコーヒーにも使われてね。少しずつ技術が進歩して、お野菜や様々な食べ物にも応用されて来たの。対象を真空状態にして、気圧を下げて、水分の昇華をすると出来上がるのよ。水まんじゅうに掛けたら、魔石だけを残せると思ったからやってみたの!それにしても魔術って、道具や機械が無くてもそれが出来るんだもの。本当に凄いわ!』


 ………全く理解出来なかった。


「あ〜〜クソ旨え!!」


 上質な魔石に含まれている魔力は、大きさに関わらず、濃厚で芳醇で混じりっけ無い純粋な魔力だ。


 それが468個。


 全部を確認した訳では無いが、この調子だと全てが不可触スライムの物だろう。


 こんなのを取り込んだ食ったら、他のが不味くて手が出せなくなりそうだ。


 しかも、そこで手に入れた『マジックマント』。こんな浅い場所にある訳ねぇ!と、最初は思った。


 だが、魔石を鑑定して納得行った。


 しかも入れ物までがドロップで『マジックボックス』。

 更に所有者限定!巫山戯てるだろ?!


 何なの?アイツ豪運でも持ってんの?


 俺の混乱なんか露ほども知らず、アイツは帰りの道にリポップした魔物を卒無く倒し、どんどん進んで行く。


「あーーーーーー本当、意味分かんね!」


 街に行ったら、マジックブーツを見つけた時みたいにはしゃぎそうで、今から頭が痛くなる。


 ………これは暫くは様子見だな。

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