第32話 水まんじゅうの詰め合わせ

「何だかんだで、バンディエルの悪態にも慣れてしまったわね。人間の適応能力ってそう考えると凄いわ。魔術にも慣れて来たし、歩くのも……前よりはマシね。これはマジックブーツのお陰かな。……あ、またムカデ。」


 あい変わらず大きいムカデを魔術で両断する。

 半分に切っても、暫くは死なないのよ。確実に倒すなら、やっぱり頭を狙うべきかしら?


 でも、あの手の虫は悪足掻きがセットで、魔石に変わるまでは油断禁物。夏の終りの蝉爆弾みたいよね。


 そして、悪足掻きの終わったムカデの魔石を拾う。


 魔石か……。こうやって倒した魔物が落とす物。ダンジョン外では、魔物の心臓に入っている物。同様に私の中にもあると言われた物。そして、属魔バンディエルの糧。


 バンディエルは、魔石の何を吸収しているのかしら?と言うか、そもそも魔石ってなに?

 単純に考えれば『魔』力の石、かしら?


 ヨクワカラナ〜イ。


 それと、何で私に『属』していたの?一度聞いたけど、偶々だと本人は言っていた。


 親ガチャみたいな物かしら?だとしたら、バンディエルは“ハズレ”を引いたわね。

 だって、この世界の事を普通に知っている人の属魔になっていたら、もっと楽が出来たでしょうから。



 正直、情報不足過ぎて分からない事だらけなのは変わらない。ただ、このダンジョンで目標にしていた『30レベル』まで上げられたら、危険だとしても街へ行こう。


 バンディエルから教えて貰ってる事。それはそれとして、他にも知っておかなきゃいけない事がまだまだたくさんある。


 それくらいに、私は『知らない事を知らない』。


 少なくとも、今迄の常識は通用しなさそうなのと、武器類は魔術以外は至ってシンプルで古めかしい。


 遭遇すれば、漏れなく人を餌認定してくる魔物達。そう!動物に会っていないのよ。普通の動物に。


 しかも魔物はみんな巨大生物に変化を遂げ、この調子で行けば、原始の時代を生きていた恐竜にも会えそうで怖いわ。


 ジュラシックなワールドは、映画だから楽しめるのよ?現実に織り交ぜては駄目だし、対抗手段が無ければ危険が過ぎる。


 ただ、その対抗手段となりそうなのが、この『レベル』と『魔術』よね?


 だとしたら、やはり上げない手はないし、魔術のバリエーションも増やして行きたい。


「あら、久しぶりの水まんじゅうだわ!相変わらずポヨポヨ揺れて…………詰まってる?!」


 偶に現れる、小部屋の様な空間。そこの入り口の穴に水まんじゅうがギッシリと詰まって塞いでいた。


「表面張力で保っている様に見えるわ……。水まんじゅう1個外れたら、一気に雪崩れて出て来そう。」


 バンディエルを呼ぼうかしら…………駄目よ、止めておこう。扉がある訳でも無いし、それに彼に交代してまだ少ししか経っていない。


 機関銃は…うるさいし、どんな魔術が良いかしら?


「よし!収納の魔術のお陰で、食材に使う必要の無くなった魔術が日の目を見る時が来たのね!行くわよ〜『フリーズドライ』!」


 水まんじゅうの氷点が分からないけど、ちゃんとカチコチに凍るイメージを保ちつつ、凍らせた水まんじゅうを圧縮して水分を昇華するのよ!


 大事なのは、『凍結』、『圧縮』、『昇華』のミッツマン◯ローブ!

 わあぁーーー!!ダメじゃない!!魔術中に余計なイメージ禁止!!もう一度、『凍結』、『圧縮』、『昇華』!!


 途中まで人の形を形成しかけたけれど、何とか押し留まってくれたわ!

 もう!!私のバカ!!


 ポヨポヨだった水まんじゅうが、白くもやを被った様相に変化し、少しずつその身が縮んで行った。


 ピキピキと音が聞こえて来たので、圧縮力をほんの少し緩め、さらなる昇華をさせる。


 入り口に詰まっていた水まんじゅうは、既に縮んで床に落ち、小部屋の奥まで見える様になって来た。


 ……呆れた。一体、水まんじゅうは何個いたのかしら?これは、魔石を拾うのが大変ね……。

 腰を痛めないように気をつけよう。






左山葉子(38歳)


レベル30


体力 234/234

魔力 136/272


魔術 イメージクリエイション



属魔 バンディエル

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