第10話 突然の襲撃と出会い

 草原と同じ位に川辺も見通しが良く、渓流にならない限り下る事にした。


少しづつ樹々が増え、大きな岩がゴロゴロとしている。

川幅も狭まり、流れも速くなってきた。

もうそろそろ川辺から離れて歩くか、と思案をしていた時、左の肩口に衝撃を受けた。


「!…くっ!」


急な痛みに慌ててその箇所を見ると、肩には矢が深々と刺さっている。

そして、矢が射られた方を見ると、弓矢を持ち嫌な笑いをたたえた男が一人、剣を持って同じ様な表情をした男が二人、100m程先に立っていた。


痺れを感じ、痛みに構わず急いで矢を抜き魔法を唱える。


「全ての毒を除去。傷の治癒。」


初めての種類の魔法だったが、無事発動して効いたみたい……。


だが、安心してもいられない。矢を持った男が、更に射る構えを見せていた。


「最悪な第一村人ね。これは是非も無しってやつだわ。……あいつを貫け、岩の槍!」


私がそう唱えると、弓矢を持っていた男の下から鋭利な岩が出て、男を刺し貫いた。

剣を持った二人は、その音に驚き慌てて振り返っている。


「敵に背を見せちゃ駄目だよね?貫け、岩の槍!」


2日間のサバイバルで耐性が出来ていたのか、自分でも驚くほど冷静で、無慈悲な反撃を返していた。

三人組を岩の上で仕留め、辺りを慎重に探る。


…もう一人いる。そんな気配を感じた。

少しづつ距離を詰める。

ぎゅっと角剣を握り、弓矢の男が居た岩陰の下に素早く周る。


そこに居たのは、首輪を付けられ、木に繋がれた12〜3歳の小さな女の子だった。


「やっぱりクズだったのね。こんな小さな子に酷い事を!」


捕らえられ、自由を奪われていた女の子にゆっくり近づき声を掛ける。


「大丈夫?今外すから待ってね。」


しかし、女の子は、私を見て驚き叫んだ。


「来ちゃ駄目!逃げて!」


えっ?!私は言われて辺りを見回す。

………大丈夫。他には居ない。


「あなたが注意してと言っているのは三人組みの男の事?」

「うん。捕まる前に逃げなきゃ連れて行かれて酷い目に合っちゃう!」

「それなら大丈夫。倒したから。」

「……え?」


女の子は、目をぱちくり大きく見開き、ポカンとしてしまった。

私は女の子の拘束を解き、挨拶をした。


「はじめまして。私は葉子よ。よろしくね。」

「……ヨーコさん。私はミエルです!助けてくれてありがとう!ございます!」

「どう致しまして。でもお家に帰るまではまだ安心出来ないからね。あと、聞きたい事があるの。いい?」

「はい。何ですか?」


まずは、一番気になっている事から。あとは、歩きながらでも聞いて行こう。


「その付けられた首輪。取り方知ってる?」


ミエルは、自分の首に手をやり首を横に振った。


「捕まった時に付けられたの…。“隷属の首輪”だって言ってた…。」

「分かった。ちょっとそのまま待ってて。」


私は岩の上に行き、三人の男の所持品を確認して行く。

三人共同じタグの様な物を首から下げていた……これは身分証明書?

他にはこの国の硬貨?らしきコイン。


剣持ちの一人が、内ポケットに同じ首輪と皮の筒を入れているのを見つけた。

筒を開くと文字と模様が書かれている。


そう言えば言葉は通じるし、文字も読めるね。

これが魔法deクオリティーなのか?

まぁ、不自由しないで済みそう。良かった良かった。


読んでみると、隷属の首輪を付けた者の主を示す証文のようだった。


「あいつで試すか。」


もう一人の剣持ちの首に隷属の首輪をつけてから、魔法を唱える。


「隷属を解除!」


すると、首輪が外れ、その瞬間に証文が燃え上がった。


「よしっ!外せた。魔法で対応出来るなら問題なし。」


次に、二人の羽織っていたマントを取り、洗浄&浄化。

靴もサイズが合わなそうだけど、目を瞑り頂いて行く。

こちらは、消臭&洗浄&浄化のフルコースだよ。


上着も一着頂戴します。洗浄&洗浄!

簡易な袋でも無いよりはましなので、集めて三人分貰って行きます。


何ていうか、このナチュラルに死体追い剥ぎする精神が自分でも説明付かず処理出来ない。

全く忌避感無くやっていた。


これどう言う事なんだろう…?

まぁ、何時までも現場にいては不味いので、自分の検証は後回しにして、さっさと移動しよう。

そして、随分と待たせてしまったミエルの元へ戻る。


「待たせてごめんね!首輪外すからちょっとだけ動かないでね〜。」

「あ!はい!」


ミエルにそう伝え、首輪に触れる。


「……隷属を解除!」


唱え終えると、さっきと同じ様に首輪が外れ、持ってきた証文が燃えた。


「…外れた!ヨーコさん本当にありがとう!」

「いいのよ〜。所でミエルは自分の家の場所はわかる?私はこの辺り不案内だから、地名を聞いても連れて行くのが難しくてね。」

「大丈夫です!まだそんなに離れていないし、連れて来られる時に周り見てたから。」


おぉぅ。こんな状況でも小さいのに偉いね。

家の近所にいたクソガキーズなら、泣いて喚いて使い物にならなかったよ。


「じぁ、とにかく行こう!ここに居ても良くないしね。あ、これ羽織って。」


ミエルに先ほどのマントを羽織らせ、付属のフードを被せた。

自分もマントを羽織り、袋を持って立ち上がる。


「歩きながらでいいかな?」


奴らが持っていた水の入った袋と私謹製スモークウサギをミエルに渡し、先へ促す。

それらを受け取ると、物凄い勢いで水を飲み、一息つくとスモークウサギを口にした。


「……おいひい!」

「ウサギ肉しかないけど、まだ有るからね。」


そう伝え、もう1つミエルに渡し、自分でも同じ肉を齧る。


「ねぇミエル。どうしてあんな奴らに捕まっちゃったの?」


少し俯き、ミエルはここに至るまでの経緯を話し始めた。

彼女の話しでは、この辺りを治めている領主が、男女を問わず未成人の子供(成人は15歳だって!)を集めているそうな。


貧困から自分の子供をその領主へ売り渡す親もいれば、金になるからと子供を攫い、領主へ売る輩もいて、彼女の場合は後者だった。


領主の元に行った子供は、その後が知れず、出て来た者は一人も居ないと言う………。


怖っ!権力に物を言わせて好き勝手やってるパターンか?

しかも禄でもない事してそう……。

絶対に関わらない様にしよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る