第6話 魔法を試そう ウサギ肉は初めてです

「サバイバルをマイナススタートで強制させられてるんだから、魔法はお詫び代わりって事で!使って使いまくってやるわよ!」


吊るされたウサギの横で、一人猛った。

綺麗にする魔法しか出来てないのに。


「次は何と言っても水。水よ出ろ!」


両手をつき出し、受けられるようにしながら念じてみた。

さっき洞窟にいた水まんじゅうサイズの水が浮かび出し、手の上に落ちる。


ほぼ溢れたし………。

それでも求めていた水だ!緊張も相まって、カラッカラッに喉が乾いていたので、一気に煽る。


「……ふぅ。美味しい。」


満足出来る量ではなかったが、一息つけた。

いつでも出せるなら焦る必要なし。

先にビシャった足元を何とかしよう。


私の特製袖シューズは、吸水性が高いんだ!

足から外し、水をしぼってから「綺麗になれ!」と魔法を掛ける。

うん。綺麗にはなった。濡れたままだけど。


「乾け!」


原理は不明ですが、乾きました。

本当に不思議。意味解んないけど。

考えるな!感じろ!だったっけ?


14歳位が罹患しがちな病になった人か、熱血な元プロテニスプレイヤーが叫ぶ言葉に出て来そうなセリフがピッタリ。

後は何が出来るか、思いつくまま試すしかないね。


お待たせウサギさん。

さっきの『綺麗に解体』では、『綺麗に』しか効果が出なかった様だ。


『解体』をした事がないからね私。

なので、今度はもう少し具体的に指示をしてみる。


「内臓を全て取り出し、下の穴へ!」


ベチャっと嫌な音が足元でした。

内臓が抜けて、触れていた腹がその分凹んでいる。

そして穴の中には内臓が…。

その内の一つに硬質の出っ張りが見えた。


気は進まなかったが、黒曜石のナイフで切り込みを入れる。

カツ!とナイフが固い物に当たった。

取り出して見ると、例のガラス玉。


「洗浄!」


手ごと洗浄すると、蜘蛛や水まんじゅうより少し大きな乳白色のガラス玉だった。

心臓?の中に入ってた。


この世界の生き物は、重要器官にこんな異物があっても大丈夫なんだね……。

不思議発見だぞ!

これ以上は頭が混乱するから、ミステリーはハンティングしないけど。


ガラス玉は篭に入れ、解体続行。

次が上手く行けば、大変助かります!


「皮よ剥がれろ!」


あぁ!上手く行った!あとは部位毎に切り分けか…。

まな板か、代わりになる物ないかな…。

バナナみたいな大きな葉っぱでも良いんだけどな…。


焼く時の事も考えなきゃだわ。

近くをウロ付き、さっき黒曜石を拾った場所でA4サイズ位の比較的平たい石を見つけた。


「う〜ん。表面をもう少し平らに出来るかぁ。……研磨!……わぁー……魔法って万能。出来たわ。」


ツルピカになった石を見て、便利を通り越して、若干呆れた。


「何ていう魔法かは知りませんが、助かってます。ありがとうございます。」


まな板代わりの石を持ち、何処へともなくお礼をして、戻って行った。

そして、焚き火に出来る木を集め、次の魔法だ。


「種火よ点け!」


すると、小さなパチパチした音から徐々に大きな火へと育ち、しっかりと焚き火が燃え出した。


「やった!錐揉み火起こし回避だ!」


火をおこす際の重労働は知っている(某脱出島テレビ参照)ので、水に続きまた一つ、生きて行く上で必要な要素を得られた。


先に採取したハーブを刻み、浄化した肉を削ぐ要領で適当なサイズにカット。

厚みがあると焼くのにも時間が掛かるので、可能な限り薄くし、ハーブを揉み込んでから、長めに作った串に波状に刺す。

焼いている間もせっせと肉を削ぎ、ハーブを揉み込む迄を繰り返した。


「いぃ匂い〜!もう焼けたかな?」


良い焼き色と匂いが堪らず、いそいそといざ実食! 


「…塩無しの割には、十分美味しい!もっとあっさり味かと思ったけど、以外と脂あるな。」


モグモグ食べながら、次の串を刺す。


「そう言えば、焼き鳥屋さんは火が均一に通る様に肉を刺すって………一串入魂だね!」


興に乗って、食っては刺しを繰り返し、お腹がいっぱいになるまで食べた。

しかし、大物のウサギさんを食べ尽くせるはずもなく、かなりの量がまだ残っている。


「残りは試しにスモークしようか…。…塩があればな〜。」


日の傾きが気になり、急いで残りの準備をする。

寝床は洞窟の傾斜を降りて平らになった場所に決めていた。

やっぱり夜の森は危ないよね。


スモークも洞窟の中でやることにする。

チップには、木肌が白く白樺っぽい木を選び、折った枝を葉ごと組んで、上に被せられる様にした。


今度は肉の上部に串を刺し、均等な間隔で吊るす。

残った骨は、洞窟から離れた所に投げておき、血抜きに使った穴に焚き火の灰を入れ、土を被せた。


「夜行性の動物達よ。洞窟には来ないでね。」


まな板に使った石を抱え、投擲石の篭を持って洞窟に行く。

チップ用の白樺(仮)を魔法で「粉砕、脱水、圧縮!」しましたらば、なんと言うことでしょう。

スモークチップ(板)が、出来たではありませんか。


厚さ約3mmの板は、手でも簡単に折れる仕上がり。

翌日、スモークの仕上がりに家族(1人)の溢れる笑顔が見えるようです。


脳内で、一人劇的な前後を繰り広げ、黙々と作業をしていた。

……サバイバルって、心の防御力も試されるのね。


それにパジャマだしね。

身体的な防御力ほぼゼロだ。


まな板石を厚さ5mmにスライスしまして、その上にチップを砕いて乗せる。

焚き火に火を点け、しばらく待つと熱された石がチップを焦がし煙りが出て来た。


吊るされたお肉をセットし、先ほど葉ごと編んだ枝をその上に、更にウサギさんの皮を被せて、スモークスタートです!


なんちゃってスモークだから、最悪は朝ご飯にするつもり。

洞窟の中は、パチパチと小さく爆ぜる火の音しかしない。


ここは何処なんだろう。


何もしない時間が出来ると考えてしまう。

少なくとも遭遇した動物は、私の知っているそれではなかった。


世界が違う?時代が違う?

魔法が使える事を考えると、世界が違うの方がしっくり来る。


もし、森を抜け出たとして、戸籍もない無所属の私は受け入れてもらえるのだろうか。

言葉は通じるのだろうか。

そもそも人はいるのだろうか。


進まなければ、判らない事だらけ。

先ずは森から人里へ出る事を目指そう。

そこまで考えて、私は眠りに落ちた。

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