3章 海辺にて

 それから、カイリは菖蒲を連れて各地を点々と廻って歩いた。

 桜降る小道や、時に炎天下の海岸なども遊山に歩いた。

 

「アヤメ、暑くはないか?」


「暑いけど、これくらい平気よ。ねえカイリ、私ね、自分が生まれた季節ってこともあるけど、夏が好きなんだ…」


 風に遊ばれる髪を片手で押さえながら笑う菖蒲は、夏空のように朗らかだ。


「…そうだな。夏は、いい季節だよな」


「うん。…よく晴れた青空を見ているとね、胸の中をこう…スッと風が抜けていく。このまま背中に羽根が生えて、どこまでも飛んでいけそうな気がするわ」


「アヤメ…」


「本当にいい季節だわ。このままずっと、この夏が続けばいいのに」


 波打ち際ではしゃぐ菖蒲を、カイリは少し離れた場所から眩しげに見つめていた。

 初めこそ単なる成り行きで始めた旅だが、しかし今となっては想い合い、互いが必要不可欠な仲になっていた。

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