第6話 待ち人知らず
喫茶「アムール」では、席に座っていた浩平を驚かせるかのように姿を見せた千鶴は、無表情で浩平を見ていた。
だが、それは一瞬で、すぐに満面の笑みを浮かべた千鶴に、浩平は頭を傾げてしまった。
浩平には、最初の千鶴の無表情が分からなかったのだ。ただ、ゾッとしたものは感じていた。ゾッとしたものを感じながら満面の笑みを見たのだから、違和感があっても当然である。
――一体、どういうことなんだ?
ゾッとするような寒気は、身震いを誘う。千鶴からそんな感覚にさせられたことなど、今までに一度もなかったことだ。まるで金縛りにあったように顔面が引きつっている。きっと表情はこれ以上ないというくらいの苦笑いを浮かべていたに違いない。
千鶴は、すぐに席に座ろうとしなかった。まず、店内を見渡している。そして、ゆっくりと席に着いた。その一部始終は、
――待たされることがなかったので知らなかっただけなのかも知れない。これがいつもの千鶴の行動なのだと思うと、少しイメージに合わないな――
と、浩平に思わせた。
席に着いた時の千鶴は、いつもの表情に戻っていた。
――それでいいんだ――
と、浩平は勝手に思ったが、その気持ちを察したのか、千鶴は軽く笑顔を見せた。それがいつもの千鶴の笑顔だった。
「ごめんなさい。今日は私が待たせてしまったわね」
と、申し訳なさそうに謝っている千鶴の言葉は、どこか事務的だ。
「いや、いいんだ」
それはそうだろう。元から、約束などしていないのだから、詫びを入れられる必要もないからだ。
浩平は、それから先、何を話していいか分からなかった。待ち合わせをしていない相手とバッタリ会って、会話が滞るほど、浩平に話題性がないわけではないが、相手が千鶴であれば、なぜか会話に困ってしまう。
――そういえば、いつも待ち合わせして会っていたんだっけ?
と思ったが、過去の記憶の中に、待ち合わせをしていたわけでもないのに、千鶴が現れたことがあった。あの時は、確か中学の頃だっただろうか? 千鶴は好きな男の子ができたらしく、その男のことをずっと気にしていたのだが、ある日、
「フラれた」
と、言って、泣きながら浩平を訪ねてきたことがあった。
さすがに戸惑ったが、その時の浩平は今から思い出しても冷静だった。
まるで自分が兄貴にでもなったかのように感じていて、千鶴を慰めていた。
――俺にこんな気の利いた言葉が吐けるなんて、思ってもいなかった――
と感じたほどで、ずっとしょげていた千鶴も、次第に平常心を取り戻してくると、まるで浩平と千鶴が恋人でもあるかのような気分になった。
しかし、その雰囲気を打ち消したのも、千鶴の方だった。
すっかり元の千鶴に戻ると、さっきまで、
――誰かを好きだった自分――
が、本当の自分ではないと思うようになったのだ。だから、浩平に対して恋愛感情を抱いてはいけないと感じたのだろう。甘い雰囲気を打ち消すようにおどけて見せ、浩平も我に返って、二人で大笑いをしたのを思い出していた。
「これが俺たちの関係なんだよな」
と、浩平がいうと、
「そうね。浩平と一緒にいると安心する」
まさにその言葉の通りである。
「ありがとう、浩平」
「何かあった時は、俺のところに来ればいい。いつでも元の千鶴に戻してやるさ」
この時ほど、浩平が頼もしいと思ったことはない。千鶴は浩平に対し。ずっとこのイメージを持っていて、イメージがそれ以上にもそれ以下になることもない。要するに、褪せることがないのだ。
千鶴と浩平の関係は、この時に確立した。そのことは浩平と千鶴の間での暗黙の了解として、意識の中に確固たる位置を占めているのだ。
それから、浩平は千鶴に対して違和感というものをほとんど感じたことはない。
――そばにいることがすべて――
そう思うようになったのも、その時からだったであろう。
それだけに、昨日からの千鶴は、まるで他の人になったかのような気がする。実際に会うことができなかった。ヒステリックな千鶴にも慣れていたはずなのに、電話での千鶴の声には、ゾッとするものを感じた。
浩平の目の前に座った千鶴は、笑顔ではあるが、どこか疲れを感じる。同じ笑顔でも、
――これは千鶴の笑顔ではない――
誰か他人が千鶴の顔をしたゴムマスクでもかぶっているような錯覚を覚えるくらいだ。そういう意味では、浩平も自分の顔を鏡で見てみたいくらい、酷い顔をしていると思っている。
――笑えないのに笑っているなんて――
今までに愛想笑いをしたことがないわけではないが。明らかに愛想笑いとは違っている。基本的に愛想笑いは営業スマイルだと思っているからだ。しかも営業スマイルを千鶴の前でするわけもない。そんなことは自分が一番よく分かっていることではないか。
会話がいきなり始まらないことも二人の間には結構あったことだ。しかし、それは会話がなくとも、ツーカーを感じていたい時間として会話のない時間を楽しんでいるだけで、――何を喋っていいのか分からない――
あるいは、
――相手に威圧されて、話す言葉が見つからない――
などという意識は千鶴に対して感じたことのないことだ。
――まるで初対面のようだ――
幼馴染なので気付かなかったが、もし千鶴と知り合ったのが大学時代などだったら、
――何を喋っていいか分からない――
などという感覚に陥ることもあったのではないだろうか?
そんな感覚もないまま、ずっと今まで来たのだと思うと、当たり前だと思っていたことも一つ一つが無意識だったことを今さらながらに思い知らされた気がした。
――今日は、千鶴と初対面のような気持ちになって話をするのもいいかも知れないな――
と感じた。
実際、知っている千鶴とは違っている。浩平の知らない千鶴が顔を出したのかも知れないと思うと、千鶴のことを、もっと知りたくなっていた。
――俺の知らない千鶴?
そんなものが存在するわけはないと思っている自分が顔を出した。
浩平の中で、千鶴に対しての葛藤が始まったようだ。千鶴を疑うことを知らなかった自分にとって、もっと千鶴を知りたいという気持ちは、反則に思えたからだ。だが、千鶴のことをすべて知っていると思うのは、自分の思い上がりだと思っている自分もいる。どちらが本当の自分なのか、いや、千鶴を目の前にしている時には。どちらの自分が表に出ているのか、考えてみることにした。
千鶴の前にいる時は、やはり、
――千鶴のことはすべて分かっている――
と思っている自分がいるのだと、浩平は思っている。だからこそ、千鶴も浩平に従順なのだと思うのだ。
喫茶「アムール」では、普段それほど会話をするわけではなかったが、その日は今までになく、
――何を話していいのか分からない――
そんな日だった。
普段、会話が少ないのは、何を話していいのか分からないわけではなく、
――お互いに、聞いてほしいことがあれば言うだろう――
という気持ちがあったからだ。
余計なことを言う必要はない。必要最低限の言葉から始まって、そこから会話になるのが一番自然である。二人の間にはその自然な雰囲気がいつも漂っている。お互いに顔を見れば分かるというものだ。
浩平は、千鶴とぎこちない会話になったことがなかったわけではない。中学の時に、千鶴に好きな人ができた時、何を話していいのか困っている千鶴がそこにはいた。浩平も何かを話してあげようと思うのだが思い浮かばない。そのぎこちなさが、まるで昨日のことのように思い出された。
その時は、
「ごめんね。好きになった人がいたんだけど、浩平に相談するようなことではないわね。でもいいの、もうその人のことは何とも思っていないから」
「どうしてなんだい?」
「浩平の顔を見ているうちに、どうでもよくなっちゃった」
その言葉にウソはないだろう。ただ、それも半分ウソで、半分本当のことだったのかも知れない。
初めて誰かを好きだという意識を持った千鶴は、自分の中で戸惑っていたことだろう。それを浩平に説明してほしいと思っていたが、それがお門違いであることに気付くと、相談しようとした自分が恥かしくなったに違いない。
千鶴の表情は、申し訳ない中に、情けない顔を滲ませていた。本当は、浩平には見せたくない顔だったに違いない。
浩平も高校に入って好きになった人がいたが、千鶴に相談するような真似はしなかった。だが、千鶴のことだから、ウスウス浩平の態度に気付いていたのかも知れない。何も言わずに見守ってくれていたような気はした。まるで、中学時代の「お返し」をしているかのようだった。
千鶴の顔を見ていると、懐かしさを感じる。
――ずっと会っていなかったわけではないのに――
久しぶりに会ったのであれば、懐かしいという気持ちになるのだが、同じ懐かしいという気持ちとは少し違っていた。
普通に、懐かしいという気持ちには、どこかワクワクしたものが感じられる。懐かしさを感じている人がいるとすれば、その人の顔を正面から見るよりも、斜め前や、横から見てみたいと思うのだ。
その感覚は、
――相手も懐かしいと思ってくれているのであれば、きっと虚空を見つめているはずだ――
という思いが働いていて、相手の顔を見て、自分も同じような気持ちになっているのではないかと感じたいためであった。
しかし、今の千鶴を見ていると、どうも斜め前からや、横からの表情を見せてくれそうにないのだ。真正面から以外の表情が思い浮かばないという気持ちがあるのも事実で、千鶴に感じた懐かしさは、どこか普段と違っているのは間違いない。
千鶴の表情にあどけなさを感じたが、それは、
――何も知らない、無垢な状態――
という意味でのあどけなさだ。
他の女の子であれば、あどけない女の子は魅力的だとしか思わないが、今目の前にいる千鶴には、魅力的という言葉は似合わない。
普段の千鶴であれば、あどけなさは十分に魅力的なのだが、今日魅力を感じないのは、自分がしてほしいと思っている表情をいつもは浮かべてくれている千鶴とは、まるで別人のように感じるからだ。
――千鶴の目には、俺はどんな風に写っているのだろう?
千鶴に懐かしさを感じているのだから、千鶴も自分に懐かしさを感じていてもおかしくはないのだが、その表情からは、
――何を考えているか分からない――
という雰囲気が伺えた。
懐かしさというのは、子供の頃のあどけなさを感じさせるもので、確か、子供の頃の千鶴は、
――何かを考えているように見えていたけど、結局は何も考えていなかったのではないか――
と感じていたのだが、その時の子供が、そのまま今の千鶴に乗り移ったかのように見えるのだった。
何を考えているのか分からないように見えてはいたが、浩平には分かっていた。
――何も考えていないように見せようという意識が、無意識に働いていたのかも知れない――
と感じていた。
まさしく確信犯なのだろうが、今から思えば、子供の頃の千鶴はしたたかだった。そのしたたかさがあることで、人生の浮き沈みを何とか乗り越えてこられたのだろう。人生の浮き沈みを乗り越えるには、必ず何かの力が存在する。それは人それぞれで違うもので。誰かに教えてもらうというような代物ではない。
千鶴の場合は、確信犯的な性格が他の人には分からないように作用していることが、乗り越えるきっかけになったのであって、そのおかげで、まわりから悪い印象を受けることはなかった。千鶴本人には、確信犯であることを自覚できるようになった時、まわりがあまり確信犯について何も言わないことが却って怖かった時期があった。それが、たまにある人間不信だったのだ。
その人間不信が躁鬱の元でもあった。千鶴自身は二重人格だと思っているが、確信犯である性格を考えると、躁鬱だと思う方が理屈に合っている気がするのは、浩平の方だったのだ。
千鶴の性格に関して、自分で考えるのと、浩平の目から見るのとでは、違っていたのを千鶴は知らないだろう。
「この間、お友達の妹に久しぶりに出会ったの」
千鶴が話始めた。
「それは俺の知らない友達かい?」
「多分、知らないと思うわ。私が大学時代にお友達だった人だったんだけど、その友達の妹がね、喫茶店でその頃アルバイトしてたのよ」
浩平は、千鶴の話を上の空で聞いていた。
普段は、千鶴の話を上の空で聞いている雰囲気の時であっても、意外と真面目に聞いているつもりだったが、その日の千鶴の話には、さほど耳を貸そうという気にはならなかった。自分に関係のある話ならともかく、自分の知らない友達の話というのは、真面目に聞く話としての価値がないと思ったからだ。
浩平は苛立っているわけではないが、
――どうして、自分の知らない人の話をするんだ?
今までにも確かに浩平が知らない人の話を千鶴が始めることもあったが、その時は普通に聞けたはずなのに、今日はどうにも乗り気ではない。そんな自分を浩平は、
――やっぱり今日は、最初から一人でいたいって思っていたからかな?
待ち合わせをしていたはずではないところに千鶴が現れた。待ち人でもないのに、普段から一緒にいたいと思った人が現れたのだから、素直に喜べばいいはずなのに、今日の浩平は少し変だ。
確かに昨日待ち合わせをしていて、自分が約束の時間よりも早く来たはずなのに、すでに相手の姿がなかったことは、釈然としないことであった。
それなのに、今日は待ち合わせもしていないのに、目の前に現れた。キョトンとしていると、満面の笑みを浮かべている。こんなに嬉しくて、有頂天になりかねないシチュエーションを迎えたにも関わらず、今さら何を一人になりたいなどと思っていたというのだろう?
そんなことを考えていると、苛立ちが自然に生まれてきた。それは千鶴に対してのものではない。あくまでも自分に対してのものだ。それなのに、自然と苛立ちが千鶴に向いている。甘えが出ているからだろう。
他の人になら、露骨に苛立ちを示すかも知れない。
苛立っている時に、自分の中に抱えこむと、苦しくなるからで、自分の苛立ちをまわりに知られるのは恥かしいことなのかも知れないが、それも仕方のないことだ。
――なるべく苛立たないようにしなければ――
とは思っても、なかなかそうもいかないだろう。
浩平は、千鶴の顔を見ているうちに、千鶴もいつもと違うのが分かってきた。そして、それはここで最初に千鶴を見た時から分かっていたことでもあった。
最初に見せた満面の笑み、あんな笑顔を千鶴がするわけはないのだ。いつも控えめに見せる笑顔が、浩平にとっての千鶴の笑顔であり、ずっと見てきた笑顔であった。
最初こそ、満面の笑みを見た時、こちらもつられて笑顔になり、
――ひょっとしてあれが本当の千鶴の笑顔なのかも?
と思ったほどだが、すぐに打ち消した。
――いやいや、千鶴は俺の知っている千鶴でなければいけないんだ――
と思っている。
浩平の知っている千鶴は、常に控えめで、決して表に出ようとするところがないのだが、なぜか千鶴を気にしている人が浩平以外にも一人はいる。
今日の浩平は、目の前でいつもの千鶴に戻ったと思い、歯の浮くようなセリフを吐いたと思ったが、大体、自分が歯の浮くようなセリフを吐くこと自体がおかしい気もしていた。歯が浮くようなセリフは、千鶴を相手に言えないと思っていたのは、やはり恥かしいからだ。
幼馴染というのは、年月だけではなく、それぞれの感情を年月以上に深いものにしている。そのことは千鶴も分かっているはずで、見ているとお互いの心境が分かってくるのも幼馴染だと思っていた。
しかし、その日の千鶴が何を考えているか、正直分かっていなかった。いきなり自分の知らない友達の妹の話を始めるなど、今までにはなかった。浩平が興味がないことくらい百も承知のはずだからだ。それなのに、わざと話しているように思えるくらい露骨な態度は浩平の中の苛立ちを呼び起こし、沸々と煮えたぎらせる結果になりかかっているではないか。
「その妹がどうしたんだい?」
「まだその喫茶店でアルバイトをしていたのよ。少しビックリしたんだけど、私が忘れていたのに、彼女の方が覚えていてくれて、それが嬉しかったのね」
あどけない表情を浩平に向けた。
「それで?」
わざと、つっけんどんに声を掛けた。まるで突き放すかのようにであった。
「彼女は、前から私のことを知っていて、私が幼馴染の浩平といつも一緒にいるのも知っていたのよ」
「それって気持ち悪くないかい?」
またしても、苛立ちを覚えたが、これはさっきの苛立ちとは違っていた。その妹に対しての苛立ちである。
「そうなんだけど、彼女のお姉さんが、私のことを妹に、大親友のように話をしていたことで、少し気にしてくれていたらしいの。だから、お姉ちゃんから、私のことをいろいろ聞いていたのかも知れないのね」
女同士というのが、どういう関係なのかよく分からない。
浩平は、あまり友達付き合いが得意な方ではない。男同士、女同士、男女の仲、それぞれ、どうしても深く考えてしまう。
「男同士が分かり合いやすくていいじゃないか」
という話をよく聞くが、男の友情など、よく分からない、彼女ができれば、友情よりも愛情を選ぶやつが結構いるからだ。
「まあ、彼女ができたのなら仕方がないか」
と、一人が抜けたことくらい、誰もそれほど気にしていないようだ。
浩平も、そんな中にいたことがあるが、元々男友達の関係など、最初からあまり信じていなかったので、どうでもいいと思っていたが、他の連中までそうだというのには、少しビックリだった。
「だって、明日は我が身だよ。俺に彼女ができて、彼女を取った時、まわりから裏切り者呼ばわりされるのも嫌だからね」
と、ビックリした時の気持ちをそのうちの一人に聞いてみた時に返ってきた返事がそれだった。
「なんだ、要するに自分が可愛いだけか」
と、皮肉を込めて、相手が怒るのも仕方がないかと思いながら口にすると、
「まあ、そういうことだ」
と、怒りもしない。
男同士の関係なんて、しょせんそんなものだ。
しかし、本を読んでもドラマを見ても、男の友情が一番強いように描かれている。
――すると、女同士であったり、男女の関係は、もっと薄っぺらいものなのか?
と思うと、何となく人間関係なんて、考えるだけバカバカしいと思うようになっていった。
千鶴が話し始めた。
「それでね。彼女が浩平さんを紹介してほしいっていうの。会ってみたいっていうことね」
「どういうことなの?」
「彼女のお姉さん、今度結婚することになったのよ。二人はとても仲のいい姉妹だったから、彼女としてはとても寂しいらしいのね。それで、私を思い出してくれたんだけど、私には、浩平がいるでしょう? だから、浩平に会っておきたいっていうのよ」
「じゃあ、僕は千鶴の妹に会うような感覚でいいということかい?」
少し千鶴は考えてから、
「そうね。それが一番いいかも知れないわ。自然な感じがするものね」
と千鶴は答えたが、浩平は少し違和感があった。
――自然というのは、どういうことなんだ? 元々妹でもないのに、妹として……。しかも、千鶴に対してかなり強引な感じを受けるけど、千鶴はそれを断っていない。断れない理由でもあるんじゃないか?
と、余計なことを勘ぐってしまいそうだ。
少し、返事に戸惑ていると、
「すぐにってわけではないし、浩平が嫌なら、それでこのお話は終わりにするから、そんなに深く考えないでいいのよ」
と言ってくれた。
――ここまで言われると、引き受けないわけにはいかないのではないか?
とも、思ったが、
「いや、やっぱりやめとくよ。僕が会う義理ではないような気がするんだ」
浩平は、結論を出そうと考えた時、背筋に身震いを感じた。
今までにこの身震いを感じたことが何度かあるが、身震いに逆らった時はロクなことがなかった。一番ひどい目に遭ったのが、交通事故の時だっただろう。
予知能力とまでは言わないが、虫の知らせというものか、言葉的には、自分の能力によるものなのか、他力本願によるものなのかの違いに感じるが、どちらにしても、自分の本能によるものだという感覚が強いことで、身震いを感じた時は、逆らわないようにするのが一番だった。
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