第4話 千鶴の行動

 次の日になって、浩平は朝、千鶴に電話を入れてみた。

「どうして昨日は来てくれなかったんだい?」

 電話では抑揚を抑えていたつもりだったが、千鶴には、厳しく叱咤された気分にさせてしまったのか、

「何言ってるのよ。私はずっと待っていたわよ。来なかったのはそっちじゃない」

 と、ヒステリー気味だった。

 もし、本当に千鶴が来ていたのなら、浩平の言い方は確かに気に障って当然だ。浩平も千鶴の苛立ちに尋常ではない様子が伺え、

――やはり、千鶴は来ていたのかな?

 と感じた。

 確かめてみるしかない。

 電話では、とにかく千鶴に平謝りをして、何とか溜飲を下げてもらったが、一気に疲れてしまった。それだけにやはり真実を調べてみないと、浩平としても納得がいかない。その日仕事が終わって、さっそく喫茶「アムール」に行ってみることにした。そこで千鶴の写真を見せて、来ていたかどうか聞いてみることにした。

 喫茶「アムール」に連日の登場だった。昨日来たにも関わらず、何か昨日とは、どこかが違っているように思ったのは気のせいだろうか? 店に来た時間帯は昨日よりも少し早く、ちょうど夕凪の時間帯だった。

――昨日、この時間、歩きながら、夕凪についていろいろ考えたな――

 まだ夕日は、建物の影に隠れるところまでは行っていない。夕日の強さが、埃を舞い上げるようで、埃が見えていることで、身体に気だるさを感じるのは、子供の頃から変わっていない。

――子供の頃に、夕凪の時間に気だるさを感じたのは、風がないからだけだと思っていたけど、この埃に気だるさを感じたからなのかも知れない――

 埃のことは意識していたが、気だるさに繋がらなかったのは、あまり風邪を引いたことがなかったからだった。埃を吸えば体調が悪くなるなど当然のこと、それでも子供の頃は、そういう意識もなく遊んでいたものだった。

 一瞬、身震いをしたが、風を感じたからだった。

――これで今日の夕凪の時間は終わりだな――

 と感じた。思っていた通りの、あっという間の時間だった。

 浩平は店の中に入ると、まずいつもの席に腰を掛けた。

「いらっしゃいませ」

 と言って、お冷を持ってきてくれたのも、昨日の女の子だった。昨日はあまり意識していなかったが、その子は最近入ったのだろう。面識はあったが、あまり面と向かって話をしたことがなかった。

――俺を常連として意識してくれているのかな?

 と思ったほどだ。

「コーヒーを」

 いきなり聞くのはまずいと思い、コーヒーを持ってきてくれた時に聞くようにした。

 彼女の後ろ姿を目で追っていたが、彼女の姿が、カウンターに入ってからは、一応マガジンラックからは雑誌を持ってきてはいたが、何気に表を見渡した。

――あれ?

 この光景は昨日見たモノと同じものだ。いや、それよりも何よりも、さっきまでは、まだ夕日が建物に隠れてすらいなかったではないか。それなのに、すっかり表は真っ暗になっている。夕凪の時間が終わってから、日が暮れるまでには、まだまだ時間があるはずだった。建物の影に日が隠れたとしても、明るさの欠片くらいは残っているはずなのに、これはどうしたことなのか?

 我が目を疑うとは、まさしくこのことだった。

 そういえば、以前にも似たような経験をしたことがあったが、あの時は、ちょうど自分が建物に入る時につまずいて、意識を失ったことがあった時だった。自分では、あっという間のことだったような気がしていたのに、人に聞くと、一時間くらい気絶していたと言われた。その時に感じた、

――あっという間――

 というのは五分ほどだった。一時間なら、夕凪から日が沈んでいてもおかしくはないだろう。

 しかし、今日は気を失っているわけでも、途中で意識が飛んでいるわけでも何でもない。

「俺、店に入ってすぐに、この席に着いたよね?」

 などと聞くのもおかしな話だ。それにこれから違うことを聞こうと思っている相手に、この質問はあまりにも突飛であった。

 とりあえず、確認してみたいのは、千鶴のことだった。

 昨日の千鶴の行動を逐一見ていたわけでもないだろうし、プライバシーをそこまで聞くのもおかしい。

――待ち合わせをしていて、すれ違った理由を調べたい――

 という気持ちのそれ以上でもそれ以下でもないのだ。

 十分ほどして、彼女が出来上がったコーヒーを持ってきた。この店はサイフォンから作るので、少し時間が掛かる。だが、それだけにおいしい。店に漂っているコーヒーの香ばしい香りに引き寄せられるように通ってくる客も少なくはないはずだ。

「お待たせいたしました」

 そう言って、トレイにコーヒーと砂糖を持ってきてくれた。さすがにマスターから聞いているのか、浩平がミルクを入れないのを知っているようで、最初から持ってこない。そこまで分かってくれていると、話しもしやすいというものだ。

「あの、昨日、俺が来たのは覚えています?」

 どう切り出していいのか分からず、まず自分を意識しているかどうかを聞いてみた。

 彼女は、少し戸惑いを見せたがすぐに毅然とした態度で、

「ええ、覚えていますよ。昨日、そこの席にお着きでしたよね」

「はい、実は人と待ち合わせをしていて、どうやらすれ違ったみたいだったんですよ」

「それで、少しイライラされていたんですね?」

「ええ、そうなんです」

 彼女は、本当であれば、あまり客の様子をジロジロ観察してはいけないというスタッフと客の暗黙の了解を分かっているのかと思うような答えだが、今の浩平にはその方がありがたかった。

「そうなんですね。確かにお客様のお入りになる前に、その席には一人の女性の方が座っておられましたよ。でも、お客様が来られる十五分くらい前にお帰りになられました」

「十五分も前に?」

 少し意外な感じがして、彼女を見上げた。

「その通りです」

 と言わんばかりの毅然とした態度は、それ以上何も言えないと思われたが、一つ気になったことを聞いてみた。

「よく十五分って分かりましたね?」

「ええ、ここは、ちょうど六時になると、ハト時計が知らせるんです。女性の方が帰られたのが、ちょうど、その六時だったと思うんですよ。それからちょうどオーブンで調理をするのに、十五分のタイマーを付けていて、それが切れた時、ちょうどお客さんが来られたからですね」

 浩平は、十五分前に来たつもりだったのに、十五分遅れてしまっていたということなのか? それではまるで鏡に映った時計のようではないか。まるで夢のような感覚も、浩平に何かを考えさせようという見えない力でも働いているのではないかと思わせるようだった。

 そういえば、目の前に時計があり、今時間を見てみると、実際の時間と針が反対に見えた。目をこすってもう一度見ると、正常だったのだが、今の話を聞かなければ、

――疲れてるんだな――

 ということで済ませるだけだっただろう。

 しかし、どう解釈すればいいのだろうか、浩平には理解できなかった。

 それともう一つ気になるのは、千鶴が六時ちょうどで帰ったということである。約束の時間は六時、少しくらいはいつもなら待っているはずの千鶴が、急に帰ってしまうなど、想像もつかない。

「女性の方は、何かを思い出したように急に席を立ったとか、そういう感じはなかったですか?」

「いえ、そんなこともありませんでしたよ。普通にお支払いを終えて、帰られました」

 千鶴は、何時だと思って帰ったのだろうか? ひょっとすると、六時をとっくに回っていると思ったのかも知れない。喫茶「アムール」の時間がおかしくなっていたのか、それとも、その日、浩平と千鶴を会わせてはいけないという何かの力が働いたというのだろうか。まったく狐につままれたような気分だった。

 確かに、千鶴の様子から察すれば、千鶴の中の時間では、六時を過ぎていたことに間違いはないのだろう。そのことを今朝の電話での応対が示していた。

 自分に非のないところを指摘されたという認識しかなければ、女性であれば、ヒステリックになっても仕方がない。それ以上言っても、責めてしまうことになるだけなので、却って逆効果だ。千鶴の側から調べることは、余計な刺激を与えるだけだ。したがって、店を訪ねるしかないと思っていた。それが正解だったかどうなのかは、今はまだハッキリとは分からないだろう。

 浩平は、それ以上、女の子に何も聞けなくなった。コーヒーを一口含むと、

――あれ?

 昨日と味が少し違っているのを感じた。それは、コーヒーの味が分かっているというよりも、自分の舌が昨日と微妙に違っているのではないかと思い、

――味の違いが苦さにある――

 と感じると、コップに注がれたお冷を、二口ほど口の中に流し込んだ。

 それでも、何か気持ち悪さを感じ、それがまるで鉄分を含んでいるかのように思えたことで、少し吐き気を覚えた。目が痛い感覚があり、それが充血から来るものではないかと思うと、トイレに駆け込みたい衝動に駆られた。

 すぐに立ち上がり、カウンターの奥にあるトイレを目指して入ってみると、トイレがいつもよりも大きく感じられた。

――今日はどうしてこんなにいつもと雰囲気が違うんだ?

 と疑問に思った。しかも違うという点での共通性もない。大きく見えたのはトイレだけで、店内の雰囲気は、却って小さく感じられたほどだ。違う雰囲気を感じるなら感じるで、共通性がないというのは、今までにはなかったことだった。ただ、それがいつと比べてのことなのだろうかと思うと、それもハッキリとしていなかったのだ。

 トイレに入ると、すぐに見たのは鏡だった。

 そこに写った自分の表情は、青ざめていた。確かに自分の顔が普通ではないとは思っていたが、ここまで青ざめているなど、想像もしていなかった。顔半分に影が掛かったみたいになっていて、ちょうど、片方の目が鏡を写して確認することができないでいたのだ。

 蛇口を捻ると勢いよく水が出てきた。手で掬って顔を洗うと、一気に目が覚めた気がした。今度は自分の顔がハッキリと見えた。さっきまで青ざめて見えた顔だったが、頬の部分がほんのりと赤くなっているのを確認できた。

 水が冷たかったのもその理由だ。いつものくせで、最初の水は手で掬うことをせず、しばらく出した後で手で掬うと、本当に冷たい水が流れている。特にこの時期は、暖かい時期がある中で、冷たい時期もあるという不安定な時期なので、冷たさは余計に身に沁みるというものだ。

 目が覚めたという感覚も、店内の暖房が異様に利いていたのも原因かも知れない。というよりも、最近暖房には敏感になっていた。普段でも、暖房の利いていない部屋にいても、たまに汗を掻いてしまっていることがあることに気付いていたが、そんな時は、決まってあっという間に時間が過ぎていることは分かっていた。

 汗を掻くということは、精神的な発汗であれば、そこには何かの焦りが感じられるものである。焦りが感じられると、時間があっという間に過ぎたような感覚に陥るのも当然で、この感覚は間違っていないだろう。

 しかし、何にそんなに焦っているのか、正直自分でも分かっていない。千鶴に関係なく、浩平の中で、何か心境の変化があったというのだろうか? 焦りだけでなく、何か不安に感じることもあるような気がする。特に今まで気持ちに余裕を持って生きてきたと思っていただけに、その戸惑いは、他の人の比ではないかも知れない。

 今まで、千鶴と一緒にいることは当然のように思っていた。幼馴染であり、千鶴のことが誰よりも好きだとか、結婚したいなどと、変化を感じたことがなかった。

――そばにいることだけがすべて――

 それ以上でもなく、それ以下でもない。そばにいるという感覚だけで、心に余裕が持てたのだ。

 しかし最近、他の女の子の視線を感じるようになった。その視線が浩平に少し心境の変化を与えていることは分かっていた。ただ、それでも、そばにいる千鶴に対しての気持ちに変化があるはずもなく、そばにいてくれることが余裕に繋がっているはずだった。

 女性の視線が、浩平のことを気にしている視線で、恋愛感情に結びついているのかどうか、浩平もハッキリとは分からない。もし恋愛感情であるとすれば嬉しいことであり、少し舞い上がった気分にもなるというものだ。

 浩平が今まで、恋愛感情を抱いたことがなかったわけではない。学生時代にも好きな女の子ができて、付き合いたいと思ったことがあったが、結局成就しなかった。

 相手から好かれたことはなく、いつも自分が好きになっては、片想いで付き合うことはなかった。

――付き合わなくてよかったのかな?

 フラれた時はショックでも、後になってすぐに思い返す。それは相手が自分とは合わないと冷静になれば思うからで、

――では相手が誰ならいいのだろう?

 と思った時、

――恋愛感情がなくても、千鶴がそばにいてくれるだけで、それだけで俺にはいいんだ――

 と感じていた。

 その時、心に余裕が戻ってきて、千鶴と一緒にいることで、恋愛など、まだまだ先のことだと思えるようになる。それが、今までの浩平が恋愛感情を持った時の一部始終だったのだ。

 大学を卒業してからは、そんな感情に至ったことはない。仕事が忙しく、覚えることが多いというのと、まわりには自分に合うような人がいないように思うのも大きな理由の一つだった。社会人になると、まわりが見えてくるような気がしてきて、自分に合う相手なのかどうか、分かるようになってきた。

 そして、最近になって気付いたことだが、恋愛感情を抱いた人に対して「片想い」だと思っていたが、違っていたのかも知れない。

 それは、絶えず浩平のそばには、千鶴の存在があったからだ。

 浩平は意識していなくても、相手の女性から見れば。浩平の後ろに他の女性がいれば、それ以上、気持ちに進展はないだろう。

 中には浩平に恋心を抱いていた人もいるかも知れないが、千鶴の影が見えたことで、浩平に、それ以上の感情を抱かなくなったのも当然ではないだろうか。

 浩平としては、千鶴がそばにいることに満足してしまって、他の女性とうまく行かないとしても、それなりに自分に対しての「言い訳」がつくことで、失恋という意識が他の人が感じることと違っていた。もちろん、浩平はそのことを自分で意識することはなかっただろう。

 千鶴が浩平の恋愛の邪魔をしている格好になっているが、

――失恋の痛手は長く続いても、次第に落ち着いてくるものだけど、千鶴がそばにいないとなると、そのショックがいつまで続くか想像ができない――

 と感じたこともあった。

――そうであれば、お互いに結婚を意識するようになったら、どうなるというのだろう?

 浩平は、最近それを考える。

 千鶴がどう考えているかは分からないが、時々、果てしない不安がよぎってくるのは、そのことを考えているからだ。

 浩平は、千鶴との待ち合わせを楽しみにしながら、千鶴に変化がないかを観察するようにしている。少しでも今までと違ったところがあると、そこから不安が生まれ、不安は次第に大きくなり、底が見えなくなるのではないかと思うのだった。

 トイレから戻ってきた浩平が、いつもの指定席に腰かけた時、人を待つという気持ちが分かってきたような気がした。

――いつもここで千鶴が俺を待っていてくれるんだ――

 と思ったからで、窓ガラスの外はすっかり真っ暗な世界になっていることで、吸い込まれそうな気分は、不安を募らせるに十分な気がした。

――こんな不安に陥りそうな雰囲気で、よく待っていられるな――

 と感じたが、それは千鶴が必ず浩平という現れるはずの人を待っているという安心感があることで、大丈夫なのだろうと思った。

 半分は当たっている。確かに浩平が今まで約束の時間に遅れることはなかったし、待っている時間というのも、ほぼ決まっていたから、気持ちにも余裕があったはずだ。

 しかし、半分は浩平に想像もつかなかった。

 千鶴は、ここで表を見ている時、何かを考えているのだが、いつも浩平が現れると、何を考えていたのか、忘れてしまう。それを本人は、

――何も考えていなかったんだわ――

 と思うようになっていて、次第にそれすら感じなくなっていた。

 ここで待っている時間、千鶴の心の中を覗くことは、誰にもできないのではないだろうか。

 そのことを、浩平はその時に感じるようになっていた。いつも千鶴が待っているその場所で浩平を待っているつもりになって考えると、千鶴の思いが手に取るように分かってくる。そう思うと、今にも扉が開いて、千鶴が現れるのではないかと、思えてならない自分がいることに気が付いた。

 時間的には、六時半を回っていた。いつもなら、会話に花が咲いている時間だった。二人の会話は、最初こそ他愛もない話から入る。それはその日にあったことだったり、会社でのことだったり、待ち合わせをする時というのは、無意識にでも、その時に何を話そうかという話題を探しているものだ。それが他愛もないことであればあるほど、気楽に会話ができるというものである。

 その日は待ち合わせをする予定でもなかったのに、

――千鶴と、こういう話をしよう――

 と話題を探している自分に気が付いた。思わず苦笑いをしてしまったが、そのことに気付くというのも、待ち合わせをしていないという意識を持っている証拠だ。ただ、それでも無意識に探しているというのは、心のどこかで、

――千鶴が来てくれればいいのに――

 という願望がある証拠ではないだろうか。

 願望は妄想を作り出す環境を張り巡らすことができる。妄想というのは、環境を張り巡らせることで、抱く気持ちになるのではないかと浩平は思うようになった。

 もっとも、千鶴に対して感じる思いは妄想であることはなく、妄想を抱くのは他の人に対してである。千鶴に対して抱く感情には、それだけ限界があるのだと思っているが、それを最近は一抹の寂しさとして感じるようになっていた。

 浩平は表をまだ見ている。見えているのは、ガラスに映った店内の風景で、表が見えているわけではないのに、どうして表を見ようとするのか、よく分からなかった。暗闇の中で人が歩いていても、見えるか見えないかの中途半端な状況では、蠢いているとしか感じなくなっている。

――表からは、どのように見えているのだろう?

 と、ふと感じた。

 そういえば、店内に入ってくる時、浩平は入口の扉しか意識していない。窓ガラスを見れば必ず千鶴がいるのが分かっているからであろうが、まったく見ないというのもおかしな感じがする。

――目を合わせたくないと思うのだろうか?

 もしそう思っているのだとすると、それは、恥かしさからではないだろうか。しかし、千鶴に対して今さら恥かしいという気持ちもおかしな気がする。それよりも、ガラスを通してなどではなく、生の千鶴の顔を最初に見たいという気持ちが強いからなのかも知れない。そちらの方が説得力があるような気がして、幼馴染らしい考えではないかと思うのだった。

 浩平は、じっと表を見ていると、急に窓ガラスの向こうから視線を感じた。窓ガラス越しの真っ暗な世界で誰がいるのかを確認するのは困難だ。あまり視力のよくない浩平にとっては尚更で、

――気のせいかも知れない――

 と感じたが、それにしては痛いほどの視線だった。

 しばらく視線を感じていたかと思うと、視線が急に切れた。ホッとした気持ちと、残念な気持ちとが複雑に絡み合う中、ふいに店の入り口の扉が開いた。浩平は反射的にそっちを見たが、まるでスローモーションを見ているかのように、扉がゆっくりと開いているのを感じた。

「いらっしゃいませ」

 女の子の声が聞こえた瞬間、扉の向こうにいる人の顔を確認できた。

 最初は、ビックリして一瞬不安がよぎったのを確かに感じたが、次の瞬間、ホッとした気分になった。

――やっぱり、ホッとするんだ――

 と感じて、扉の向こうにいる人を凝視すると、そこに立っているのは、いつものように満面の笑みを浮かべている千鶴であった。

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