第2話 喫茶「アムール」と「アルプス」
浩平と、千鶴が待ち合わせをする場所は、大体いつも決まっていた。浩平の家の近くに「アムール」という喫茶店があり、いつもそこで待ち合わせることにしていた。
千鶴も浩平も、待ち合わせに遅れたことはない。どちらが早いかといえば、千鶴の方で、千鶴は人を待たせるのが嫌な性格だった。浩平は、そこまではなく、待ち合わせ時間に遅れるならば問題だが、時間よりも早く到着していれば、先に相手がいても、それは何ら問題がない。
したがって、いつも千鶴が席に着いて待っていて、後から現れた浩平に、満面の笑みを浮かべる千鶴だった。
――やっぱり、待っている人が来てくれた時の感動って最高だわ――
いくら待ち合わせ時間よりも早く来ていても、先に相手に来られていては、こんな嬉しい気持ちを味わうことはできない。千鶴は浩平が自分と同じような性格で、
――相手よりも絶対に早く来てやろう――
などという気持ちになっていたとすれば、それこそプレッシャーだった。
大学時代に焦りがプレッシャーになっていたことを考えると、千鶴はプレッシャーにはかなり敏感な性格である。浩平は、そのことを分かってくれているので、幼馴染とここまで長い付き合いができるのだ。
――浩平と一緒にいる時間が一番ありがたい――
と思っている。
それでも、中学時代くらいは、
――そばにいて当然――
という相手だった。
まるで空気のような存在だと思っていた相手がいなくなるなど、考えたこともなかっただろう。
浩平も同じことを考えていた。
幼少の頃は、千鶴の方がフラフラしていた。いつも苛められている千鶴を浩平が助けていたという、
――正義の味方――
だったのだ。
正義の味方の浩平が、いつの間にか立場が逆転していて、さらに大学に入学してから、また少し立場が逆転しかかった。そのことを、千鶴は意識していたが、浩平の方は、ほとんど意識をしていない。
千鶴は、その意識があるから、浩平よりもいつも先に待ち合わせには現れるのかも知れない。他の人と待ち合わせをしても、待たせるのが嫌ではあったが、その気持ちは浩平を待たせるのとは、また違った感覚だ。
浩平は待たせたからと言って、決して怒るような人ではない。それは千鶴が一番よく分かっているのだが、浩平を待たせたくないのは、怒られるからだという、そんな理由ではなかった。
浩平を待たせるということは、自分が今いる位置から、浩平に見られるということである。それは、浩平に見られたくないところを見られているようで、恥かしさというよりも、悪いことをしている感覚になるのだった。
――きっと浩平は、満面の笑顔で迎えてくれるだろう――
それは、本当であれば、千鶴がしたい顔なのだ。しかも、相手が浩平だからできる顔である。それを立場が逆転してしまっては、まるで自分がずっと浩平と一緒にいたことの意味を忘れてしまうかのような気になってしまうのだった。
そんなことは千鶴の中で、許せることではない。
浩平に見つめられると、何も言えなくなる千鶴だったが、
――浩平に対して優位でいたい――
という思いは、いつも抱いている。
もちろん、小さい頃から抱いていたわけではなく、どこかでそんな気持ちになったのだ。それがいつだったか覚えていないが、ひょっとすると、それが浩平を初めて「男」として意識した時だったのかも知れない。
それまでは、同じ人種だと思っていたのに、相手が異性であることに気付くと、急に見られたくないものや、見せたくないもの。そして、浩平の、
――見てはいけないもの――
などのあることに、気付くようになっていった。
相手に対して優位でいたいなどという気持ち、今までに感じたことなどなかった。
今から思い返しても、
――異性を感じた瞬間が確かにあり、そのことを今でも身体は覚えている――
と思っていた。
千鶴が幼少の頃に苛められていた理由は、フラフラしていたというより「、性格的なものが大きかった。今でもその性格の片鱗は残っているのだが、千鶴は自分で見たモノ、触ったモノしか信じられないというところがあった。
理屈に合わないことや、理不尽だと感じたことを、
――なぜ理屈も分からないことを、黙ってしなければいけないの?
と思っていたのだ。
途中から勉強が好きになる千鶴だったが、小学生の低学年の頃は、勉強がまったくできなかった。
できなかったというより、本人からすれば、
――理解できない――
という意識があったのだ。
たとえば、算数でも、一足す一が二になるという理屈が分からなかった。何かのモノを示して説明すれば簡単に説明がつくことなのだが、なぜか理解できなかったのだ。
最初から疑ってみる性格があったのかも知れない。だが、何かのきっかけでその理屈が分かるようになると、元々のめりこむ性格の千鶴なので、算数が面白くなってきた。
特に算数というのは、
「決まった答えを導き出すためには、途中のプロセスはどんな解き方であっても、理屈が合っていればそれでいいんだ」
という考えを先生が話してくれた。
――自由でいいんだ――
と感じたその時が、千鶴にとっても「きっかけ」だったのだ。
それから千鶴は算数が好きになった。相変わらず他の教科はあまりパッとしなかったが、算数が好きになってくると、自分でもいろいろな公式を考えるようになった。結構それが楽しくて、先生と放課後話をしたりしたこともあった。浩平はそんな千鶴を見て、頼もしく思ったが、さすがに自分から見て、勉強において、千鶴の背中が遠く彼方にかすんでくるようになると寂しさを隠せなかった。だが、それでも、浩平は性格的にあまり気にしないようにしていた。
――千鶴は千鶴、俺は俺――
幼馴染とはいっても、兄妹でもなければ、ましてや同じ人間ではないのだから、当然と言えば当然だ。一抹の寂しさはしょうがないというものだった。
お互いの気持ちが行き違うこともあった。千鶴が落ちて来て、浩平と交差するあたりまで来た時、浩平には、千鶴を受け止めるくらいの気持ちがあったが、千鶴は自分が落ち込んでくることを意識していても、
――転落人生、真っ逆さま――
という意識があったのだろう。まわりが見えていない。浩平も見えていなかった。それだけ浩平が考えているよりも、かなりのスピードでの転落だった。
それでも、奈落まで落ち込まなかったのは、そばに浩平がいたからなのかも知れない。
――そういえば、浩平と同じラインで一緒にいたことってなかったわね――
ふいに浩平のことを思い出した。上を見れば、果てしない。下を見ることも怖くてできない。
そんな時、少し上を見ると、手を差し伸べてくれている浩平が浮かんできた。
浩平はいつもの笑顔を浮かべている。いつでもどこでも同じ笑顔だった。千鶴は、そんな浩平の顔しか知らない。それは浩平が千鶴にだけ見せる顔、他の人はそんな浩平を知らない。どちらかというと、浩平は激情家に見られていたくらいだった。
それでも、千鶴の前で同じ顔ができる。朗らかで、包み込むような笑顔とはこのことだ。
それは、千鶴がどんなに精神的に起伏があっても、浩平にはいつも同じ表情の千鶴が思い浮かんでいるからだ。
千鶴に浩平がいつも同じ表情に見えるように、浩平も同じであった。それが浩平と千鶴の関係であり、幼馴染のまま、ずっと一緒にいられた秘訣なのであろう。
他の人には、到底想像もつくことではない。もちろん、二人は分かっている。ただ、本当の性格がお互いに分かっているかどうかというのは、疑問だった。二人の間では疑う余地がなくとも、二人を客観的に見る目が二人にあれば、もっと違った感覚が芽生えていたかも知れない。それがいいのか悪いのか、今は分からないが、そのうちに分かってくることになるのであろう。
千鶴は、浩平と約束したその日も、遅れることは嫌だったので、「アムール」には、三十分前についていた。その日はなぜか、千鶴の精神状態は不安定だった。今までであれば、どんなに辛いことがあっても、浩平と会えるのであれば、精神的には落ち着いてくるはずだった。
喫茶「アムール」のいつもの指定席、最初に二人で座ったいつもの席、そこはいつも空いていた。
もっとも喫茶「アムール」が満席になることなど、今までに見たことがなかった。人が多い時でもなぜか「指定席」に座る人はいない。ただ、それもよくよく考えてみれば分かることだった。
――この店は常連さんがほとんどのお店なんだわ――
常連というのは、それぞれに自分の指定席を持っているものである。
常連同士仲がいい人もいるが、ほとんど面識のない人もいるようだ。浩平も千鶴も、他の常連さんをほとんど知らないが、たまに見かける人は、快く挨拶をしてくれる。その挨拶の笑顔を見ていると、
――前にも何度も見たことがあるような気がするわ――
と千鶴は感じた。どうやら、常連の人たちはそれぞれに表情を持っている中で、笑顔で挨拶する表情は、あまり変わらないようだ。だから、誰に会っても、
――前にも見たことがある笑顔だわ――
ということになるのだ。
千鶴はそのことに気付いていたが、浩平は気付いていないようだった。
千鶴に比べると、浩平は他人のことには結構疎いようだった。千鶴のことであれば、ほとんど分かるのだが、きっと、浩平は人の好き嫌いが激しいのだろう。好きな人は徹底的に好きなのだが、嫌いな人は、徹底的に嫌いだった。
千鶴の場合も、嫌いな人はいるが、そこまで徹底して嫌いにはならない。これも性格的なものだと言ってしまうとそれまでだが、男性と女性の違いとも言えるかも知れない。
浩平は、精神的に余裕をいつも持とうとしているが、芸術的な趣味があることで、精神的な安定を保っている。
絵を描くことが好きなので、時々キャンパスを目の前に絵筆を動かしている光景を、近くの公園で見ることができる。そんな時の浩平の顔はイキイキしているというよりも、真剣そのもの、まわりが近づきにくさを醸し出している。
さすがにそんな時、千鶴も近づきがたいのだが、趣味の時間を終えた浩平は、一番の至福の時間を過ごすことができた。
その日の浩平は、千鶴と会えるということもあり、昼間、趣味の絵画に勤しんでいた。その時の時間は、思ったよりも長く感じていたが、終わってみれば、あっという間だったのだ。絵が完成したというわけではなかったが、満足のいく時間だったことは間違いなかった。
浩平は、その日、公園でいつものところでキャンパスに筆を落としていたが、
「おや?」
何かいつもと違う感覚を覚えていた。
いつもと同じ場所で描いているのに、その場所が普段と違って感じられたからだ。
その理由が分かったのが、絵を描き始めて、絵に集中し始める少し前のことだった。
――この光景、以前にもどこかで見たことがあったような――
もちろん、ここでの光景ではない。以前に、それもかなり昔の記憶の中で、この場所を見た記憶があったのだ。
いつもここで描いているのに、こんな感覚は初めてのことだった。かなり昔だということは、絵を描こうとしていた場所ではないことだ。
――そういえば、絵を描くスポットにここを選んだ時、何か惹かれるものを感じたような気がするな――
ということを思い出した。その時、以前にも見たことがある光景だという意識はなかったと思う。ただ、
――この場所で描きたい――
と思っただけだった。
それから、この場所がお気に入りとなり、何枚もここで描いていた。
――絵を描くことが趣味ではあるが、本当はここを描きたいと思っているだけなのかも知れない――
とも感じるようになった。
同じ場所で何枚も描いているが、出来上がった作品は、まったく様相が違っている。他の人が見れば、まったく違った場所に見えるのだろうが、それは決して浩平の絵が下手だというだけではない。その時々で、同じ景色であっても、少しずつ違っているものである。
浩平は、その違いを少しでも大きく描きたいと思うようになっていた。他の人が、
「まったく違う場所の絵に見える」
というのを聞くと、浩平は、
――してやったり――
と思い、ニヤリと笑みを浮かべているかも知れない。
千鶴にも以前見せたことがあったが、やはり違うところの絵に見えているようだったが、何か違和感が残っているようだった。
――さすがに千鶴の目は、ごまかせないな――
千鶴の目線がそれだけ浩平に近いということを感じた時、それはそれで嬉しかった。やはり千鶴は、他の人と違うという意識をいつも抱いていたいというのが、浩平の考えだからである。
浩平は、待ち合わせの一時間前には絵画を終えていた。いつもであれば、一旦家に絵画のセットを持って帰ってから、着替えを済ませて、待ち合わせ場所に向かうことにしている。
だが、その日は中途半端であることに気が付いた。家に帰っていては、約束の時間には間に合わない。
かといって、先に行って待っているという気にはならなかった。それは千鶴の性格を知り尽くしている浩平だから考えることだった。
――千鶴は、誰よりも先に来ていないと我慢できない性格だものな――
浩平は、千鶴がいつも落ち着いているのが気になっていた。それは自分の思い通りにことが運んでいる時はいいのだが、うまくいかなくなった時のことを考えると、怖い気がしている。大学時代の千鶴のこともある。もちろん、もうあのようなことはないだろうが、なるべくは、千鶴の考えていることをしてやるに越したことはない。これが浩平なりの気の遣い方なのだ。
浩平は、簡単にできる気の遣い方しかしない。相手に、
――気を遣っている――
と思わせたくない。
もし、そう思わせると、相手が身構えてしまうのが分かるからだ。身構えてしまった相手とどう接していいか分からない浩平は、その時点で墓穴を掘ったことになるのだった。
浩平は、その日、千鶴との待ち合わせに、そのまま向かうことにした。
ただ、それには、時間が中途半端すぎるのだ。どこかで時間を潰せればいいと思っていた。
公園の近くに一軒の喫茶店を見つけた。
――あんなところに喫茶店があったんだ――
と、浩平はいつもこの公園に来ても、被写体である一点しか見ていなかったことを今さらながらに思い知らされた。
喫茶店の名前は「アルプス」という名前だった。
なるほど、表から見ると、まるで山小屋のように見える。木造の建物は、ほとんどが丸太でできているようだった。丸太を見ていると、吸い寄せられる感覚を覚えたのはなぜだろう?
――そういえば、さっき感じた、前にも見たことがある光景という感覚に似ている気がするな――
と思った。
以前にも、似たような喫茶店に入った記憶があったからだ。
確かに考えてみれば、このような山小屋風の喫茶店はさほど珍しくないような気がした。ただ、それはかなり昔のことであって、最近はカフェが多かったりするので、「アムール」や「アルプス」のような喫茶店は、ほとんど見ることができない。「アムール」にしても偶然見つけて、
「こんなところに喫茶店があるなんて、ねえ、寄ってみましょうよ」
と、ウキウキした様子で話す千鶴を見て、顔が緩んだ時のことを思い出していた。
今ここに千鶴がいたら、同じようなことを言うかも知れない。そう思うと、まず中に入ってみることは確定した気分になっていた。
「ガランガラン」
扉を開けると、鈍い鈴の音が聞こえた。なるほど、アルプスのヒツジが首からぶら下げている鈴の音とそっくりである。
店内に入ると、初老の男性がマスターをしていて、一人の女子大生であろうか、アルバイトの女の子がこちらを見て、ニッコリ笑い、
「いらっしゃいませ」
と元気印一番の掛け声で迎えてくれた。
店内には他に客はおらず、それでも、コーヒーの香ばしい香りが、店内に充満していた。木造の建物にコーヒーの香りが染みついているようで、雰囲気としての第一印象には、何ら問題はなかった。
女の子が水を持ってきてくれたが、彼女の顔を見ると、懐かしさを感じた。それは千鶴とは似ていない雰囲気だったが、久しぶりに千鶴以外の女の子にドキッとした瞬間でもあったのだ。
浩平は、今までに千鶴以外の女性と付き合ったことが何度かある。千鶴の方も、浩平以外の男性と付き合ったことがあるのだが、二人とも、長く続いたことはなかった。もちろんその間に、男女の関係になったことはあったのだが、男女の仲になってしまうと、すぐに冷めてしまったのは、千鶴の方だった。
浩平の方が、どちらかというと、情に流されやすいタイプで、一度身体を重ねてしまうと、
――違和感がある――
と、思いながらも、その気持ちを打ち消して、付き合っていこうと考えていたが、そんな感情は相手にすぐに分かってしまうものだった。隠し事は苦手な浩平なので、すぐに気持ちが顔や態度に出てしまう。それはいいことなのか悪いことなのか、浩平には分からないでいた。
そういう意味では、千鶴の方が、どちらかというと冷たい人間のようである。ただ、千鶴の方が、
――熱しやすく、冷めやすい性格――
のようで、千鶴も浩平も相手のことは分かっていたが、意外と自分のことには気付いていないのだった。
浩平の方から、
「付き合ってください」
と言って、告白した相手がいたが、あれは、大学三年生の頃だっただろうか。
名前を幸恵と言ったが、あっけなく
「ごめんなさい」
と言われたのを思い出した。
その時の幸恵に喫茶「アルプス」の女の子が似ていたのだ。
思わずドキッとしてしまったが、彼女には分からなかったのか、事務的に、
「何にいたしましょう?」
と、相変わらず笑顔を向けてくれていた。
「じゃあ、コーヒーで」
と注文し、メニューをたたむと、
「コーヒーを一つ」
と、マスターに向かって声を掛けた。
マスターは黙ってサイフォンの用意をしていたが、浩平は次第に彼女の顔を見ていると、大学時代の記憶がよみがえってきたかのように思えてきた。
喫茶「アルプス」に似た喫茶店が、大学の近くにあった。一時期、ランチを食べに毎日通った時期もあったが、それは大学に入学してすぐくらいのことで、半年もすれば、次第に行かなくなり、二年生になる頃には、誰かに誘われなければ、行かなくなった。
――こんな店は、大学のある近辺にしかないと思っていたが――
このあたりには大学はない。このあたりは完全な住宅街なので、主婦が昼下がりに来るか、営業社員が時間調整にマンガでも読みにくるかくらいしか想像できなかったが、浩平には、この店に常連がいるような気がしなかった。
常連というのは。
――いつも来ている客――
というだけでは常連とは呼ばないと思っている。
――いつも来ていて、常連客同士、情報交換や、店の人と会話があって、初めて常連というのだ――
と思っていたのだ。
店側からはどういう目で見ているのかは分からないが、客として来ている立場から見ると、常連という肩書を得るには、少し閾を高くしなければいけないと感じていた。
そういう意味では、、喫茶「アムール」とは、かなり違う様相を呈している。どちらかというと、この店は、
――初老の男性が趣味でやっている――
というイメージが強い。常連がつかないとすれば場所柄なのか、それともマスターの性格なのかであろうが、マスターはほとんど何も言わないような気がする。まだ初めてきただけでそこまで本当に分かったかどうか疑問だが、何度か通っていると、自分の最初の想像と、あまり変わっていないことに気付くのだ。
なぜ、浩平がこの店に時々通うことになったのかというと、やはり、幸恵に似ている女の子がいるからであろう。もちろん、このことは千鶴には内緒にしておかないといけないと思っていた。
とりあえず、その日は、待ち合わせまでの時間潰し、
――また来てみよう――
と思っただけで、店を後にしたのだった。
店を出ると、だいぶ表は暗くなりかかっていた。遠くに見える家の明かりが暖かく感じられ、今まで暖かい店内にいたはずなのに、何か違和感があるのを感じていた。そのことはあまり気にしないようにして、喫茶「アムール」を目指したのだった。
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