5話 思い出せないタイトルの児童向けオカルト本

思い出せないタイトルの本があります。私がそれを読んだのは小学生の頃でしたので、そう難しい本では無かったと思います。小中学生向けのオカルト本、といえばわかりやすいでしょうか。きちんとルビが振ってあって、挿絵もあるタイプの本です。

その本では日本の怪異や都市伝説を紹介していて、それこそトイレの花子さんとかこっくりさん、口裂け女、人面犬なんかが並んでいました。それだけなら世にありふれたオカルト本と変わりないかもしれません。けれどその本は、「ありふれたオカルト本」には掲載されていないおばけの話や幽霊の話、学校に伝わる七不思議なんかが載っていました。


その中にある、「人肉を提供する男」というページが忘れられないのです。


人が怖い話、の類に入るのかもしれませんが――――――ざっくり書くと、こんな話です。

・普通のお肉売り場に人肉を仕込む

・その肉を手に取った人は、特に何も疑問に感じない。

・とても美味しい。

・彼の提供する「人肉」は、他人を殺して削り取っているわけではなく、自分の肉を削り取って流している


といった内容だったように思います。長らくこの「人肉を提供する男」のことが頭に引っかかって、他のオカルト本やインターネットなども調べてみたのですが一向に出てきません。そこで原点に還ってこの本を読んでみようと思ったのですが、タイトルを忘れてしまいました。こちらの話や、このお話が掲載されている本に心当たりがある方はご協力お願いします。





「――――――――なんだこれ」

ネットサーフィンをしている時に、とある知恵袋で発見したものだ。私はそれを上から下までじっくり読んで首を捻った。こんな話、聞いたことも見たことも無い。私はそこそこオカルトに精通している自負があったが、どうやらまだまだだったらしい。パソコンの脇に置いたココアを一口啜り、ふと考える。

「(…………なんでこいつ、わざわざ自分の肉を切り取ってるんだ?)」

というか、切り取って無事な時点で人間じゃないだろう。あるいは、不老不死とか?

それにしたって痛みはあろう。どうしてそんな自己犠牲みたいな真似をしてまで、人に自分の肉を食わせたがるのか。「何も疑問に思わず人肉を食べてしまう」という部分はちょっとだけ怖いが、わけがわからない部分が多すぎていまいち怖がれない。私は立ち上がり、本棚にあるオカルト本をひとつ手に取る。ぱらぱらと捲ってみたが、そんな男の話は無い。どうやら質問者の力にはなれなそうだ。

「………でも、気になるな」

ここはインターネットの英知を信じよう。私は本を仕舞い、ひとつ息を吐く。すると居間の方から私を呼ぶ声がした。時計を見れば夜七時。部屋から抜け出てリビングに行けば、お母さんが作ってくれたお夕飯が机の上に並んでいた。

「わ!なにこれ、ステーキじゃん!どうしたのこんな………今日、記念日とかだっけ?」

「あはは、違う違う。これね、お隣さんにお裾分けしてもらったの。ステーキにするとおいしいですよ~って言うから、やってみたんだけど…………」

うまくいってるかなあ、と不安そうに母が言うので、少なくとも香りは百点、と返す。

「それにしても肉余らせるとか、お隣さんって何してる人なの?」

「さあ…………知り合いに牧場主でもいるのかねえ……まあでも、なかなか食べられないお肉らしいし食べましょ食べましょ」

「っていうか、私あんまり高級料理に詳しくないんだけど。ステーキってどこの部位なん」

「お母さんもわかんない。でもなんか、フジミヤの腰のあたりのお肉だって」

「へー。あ、お父さん待たなくて大丈夫かな………」

「え~、せっかく焼いたしお母さん食べた~い」

「はいはい………ま、私もおなかすいちゃったし。食べよ食べよ」

「いただきます」

「いただきまーす!」

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