3話 フジミヤの肉(半額)
夕暮れのスーパーでは、白いトレーの上に乗せられたものたちの上にシールが貼られる。それは惣菜であったり、魚であったり、肉であったり。
いま、疲れ切った俺の前には黄色と赤で構成された丸い半額シールが貼られた、フジミヤの肉のパックがある。確か家にまだ玉ねぎがあったはずだ。一緒に炒めよう――――そんなことを考えながらカゴに入れる。ビールを入れ、切らしていたコンソメキューブを入れ。その他もろもろを会計し、ふらふらになりながら帰路につく。いつものことだ、このスーパーで買い物をするのも、フジミヤの肉を買うのも。
そもそも、どうしてフジミヤの肉を買うのか。
それは安いからであり、それなりに美味いからであり。それ以上の理由として――――――食べている時に、頭の中にふと小学生の時の同級生の顔が浮かぶからである。
味噌炒めにしようが、生姜焼きにしようが、茹でてポン酢を掛けようが、どう調理しようが頭の中で「彼」の姿が浮かぶのだ。俺と彼は別に親しかったわけではない。ただ数か月の間隣の席で、それで人より接する機会がほんの少し多かった、それだけだ。
人懐こい男だったことは覚えている。目を細めて笑う癖があったことも、覚えている。
ただ彼とどんな話をしたのか、俺は彼のことをどう思っていたのはまでは覚えていない。小学校を卒業したのなんて随分前だから覚えていないのも当然なのだが、彼に関する記憶だけ不自然なほど思い出せないのだ。
思い出せるのは、フジミヤを食べている瞬間だけ。
だから俺はきっと明日もフジミヤを買うし、食べる。
それは食べているうちに彼のことをもっと思い出せるかもしれない、という理由だろうか。
――――――いや、ただ単に。「美味しいから」。それだけなのかもしれない。
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