初任務16
微かに弾んだ声の後に鞘の落ちる音が響き、同時にエバが動き出した。今度は彼女が先手を取り、遅れて腕を振り上げるベック・タガール。頭上から降り注ぐ拳の雨を躱しながら足元まで潜り込んだエバは腿を足場に顔の辺りまで少し角度をつけ跳躍。同時に体を上手く使い微かに彼だと分かる程度の顔を蹴り上げた。顎へオーバーヘッドでシュートでも決めるように蹴りを入れたのだ。
更に驚くべきことは、そんな彼女の蹴りで体格差などという単語では言葉も重量も足りていないはずのベック・タガールが蹌踉めき一歩後退りしたということ。
だが天を仰ぎ後ろへよろめきながらもベック・タガールは地面へと落ちていくエバの血を爪甲へ吸わせようと手を動かす。横から猛獣の牙の如く襲い掛かる爪。エバはそれを刀で受け止めようと瞬時に構えるが、案の定と言うべきか彼女の体は地面へ叩きつけられた。
なんとか体を空中制御し着地は成功したもののダメージが全くないというわけではない。しかしそれは今の彼女にとって取るに足らないものでしかなかった。
「流石に空中じゃ受け止めんのはキツいか」
そして、それからもエバはその姿のベック・タガールに対しても引けを取らないむしろ優位を保ちながらの戦いぶりを見せた。だがよろめく程度の蹴撃に浅い刀傷。どれも戦況を動かすには決め手に欠けるものばかり。
「こっちはもうじき片付く。そしたらすぐに向かう」
そんなあまり戦況の進まない戦いが続いていると、通信機にダロンの報告が入る。
「あと数人」
「もう終わる」
正面から突っ込んでくる爪先を刃先で上手く受け流しながら宣言するように返事をしたエバは、地面へ伸びたベック・タガールの腕をひと蹴りし文字通り彼の目と鼻の先へ。
「もうしゃーねーか」
溜息交じりでそう呟くとベック・タガールの右頬を蹴り飛ばした。顔を斜下へ強制的に向かされ左足で倒れぬよう踏ん張る彼にダメージは見られない。そして重心は変わらぬまま空中のエバへ大きく広げた掌を振り下ろす。さながらスケールを大きくしたハエタタキブロック。
だがエバは体を回転させその掌を着地するように受けると、そのままその力を利用し重心のある脚へと突っ込んだ。そしてタイミングを見計らい半円を描くように刀を振る。
エバが地面に滑りながらも着地する頃には、ベック・タガールの腿は鮮血をまき散らし脚は綺麗な断面図で両断されていた。更にその脚には重心があった為、そのままバランスが崩れる。咄嗟に出た片手が地面に着き倒れるとまではいかなかったが。
やはり痛みは殆ど感じていないんだろう。ベック・タガールは叫声を上げてはいたものの血溜まりを生み出している脚など目もくれずエバへ体を支えている方とは逆の手で掴みかかる。
その行動に対しエバは軽々とそれを避けながらもう片方の脚へ向かった。そしてその脚も刀で――という訳ではなくその脚を足場に大きく跳躍するとまるでついでとでも言うようにたった今自分に襲い掛かった腕をあっさりと斬り落とした。重力が纏わりつき地面へと引き寄せられる腕とは相反しエバはそのまま上空へ。
噴水の如く血を噴き出す半分になった二の腕。辺りに響く低い呻き声。流石に体の異常が現れているのかベック・タガールはエバの姿を追えてはいなかった。
一方、徐々に失速しほんの数秒だが空中浮遊したエバは小さな弧を描き次は落下し始める。そしてベック・タガールの頭上まで落ちるとエバは体を捻り上手く回転させながら彼の頭を地面へと蹴り飛ばした。落下と自身のを合わせた力は、一瞬にしてベック・タガールの顔を地面へと到達させ、爆発でも起こったような轟音と土煙を空高くまで上げた。顔は地面へと減り込み片手片足からは依然と血が流れ出している。
そんなピクリとも動かないベック・タガールの前にエバは着地した。
「悪くねーな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます