初任務13

 一方、ダストシュートで一気に地上へと下りたエバは滑り台のようになった下部から空っぽのダストボックスへと放り出された。底へ背中から落下し痛みが走る。十階もの高さから自由落下するよりは良い方だとはいえ眉を顰め背を浮かせるには十分過ぎる程の衝撃だった。


「終わるなら終わるって言えっての」


 痛みに耐えながらも思わず零れる不満。


「エレベーターが着いた。ベック・タガールが降りるわ」

「あいよ」


 シェーンの言葉に強引に体を起こすエバ。

 一方、エレベーターから降りたベック・タガールは部下二人を後ろに従え外に停まっている車へと歩みを進めていた。

 だが建物から青空の下へ出たのと同時に横から握った拳が一発。防御も身構える時間すら与えられず横顔を殴られた彼は地面へと倒れた。そんな緊急事態に部下の一人、蜥蜴頭獣人リザードマンは銃を取り出すが構えた途端に振り上げられた(依然と刀袋に入ったままの)刀に空中へと弾き飛ばされる。

 その間に銃を取り出していたもう一人部下、牛頭獣人ボモスはエバへ向け引き金を引いた。しかし銃を抜くのを横目で見ていたエバは引き金が引かれる頃にはリザードマンの手を掴み軽々とその身を引き寄せた。それによりボモスとの間に割って入らされたリザードマンがエバの身代わりとなり銃弾全てを受け止める羽目に。

 仲間に銃弾を撃ち込んでしまっていると気が付いたボモスは慌てながら撃ち止めるが、エバはそんな彼へ虫の息のリザードマンを突き飛ばした。同僚とはいえ今は戦いの最中、ボモスはリザードマンの体を横へ受け流す。

 しかし目の前からリザードマンが消え視界が開ける頃には、もう既にエバは間合いにボモスを捉えていた。銃口が再び向けられるより先に鋭く突き出された刀袋越しの鞘尻が鳩尾へ減り込む。ボモスは声にならない声を上げ(銃を持っていない)手を腹部へ持っていくが、痛みに耐えながら銃口をエバに向けようとした。だが当然の如くその手は刀に打たれ銃は手から空中へ。最後はトドメとして顔面を殴り飛ばされた。もちろん刀で。


「動くんじゃねー」


 しかしながら一方で最初に殴り倒されたベック・タガールは既に立ち上がりエバへ背後から銃を向けていた。


「こんなにも俺さまを追い詰めたのはお前らが初めてだ。惜しかったがこれで終わりだな」


 声を聞きながら相手を刺激しないよう緩慢とした動作で振り向くエバ。そしてベック・タガールと向き合うと瞬時に距離を目視で把握した。


「この距離なら俺の方がはえーな」

「銃弾よりもか?」

「いや、お前が引くよりもだ」

「なら試してみるか?」


 返事はしなかったがエバは辺りに流れ始めた沈黙とむず痒い緊張感の中、いつでも動き出せるように意識を集中していた。さながらガンマンの決闘のように睨み合い、その瞬間に備える二人。

 すると(最上階のリサだろう)上空から降ってきたゴブリンが一体、二人の傍へと落下した。それが合図となりほぼ同時に動き出すエバとベック・タガール。動き出しはほんの誤差程度だったが、宣言通り引き金が引かれるより先にエバは銃の戦闘範囲外に潜り込んだ。

 しかしながら空を撃つ銃声は響かず。ベック・タガールは彼女の言葉を信じていたのか引き金は引かず、アタッシュケースで接近してきたエバに殴りかかっていたのだ。

 だがそれすらも読んでいたのか、もしくはただ単純に反応したのか、エバはそのアタッシュケースを更に潜るように躱す。透かさず空振りし無防備となったベック・タガールの脚へ手加減の無いひと蹴りを喰らわせると彼はその場に片膝を突いた。

 直後、ベック・タガールは反撃の為に銃を向けようとするも、それより先に刀の打撃が頬を殴り飛ばす。彼の体は数センチメートル飛んだ。その際アタッシュケースはその場に落とし、銃は地面に落下した衝撃で手元から零れ落ちた。

 二撃分の打撃が口元で別々の傷となり血を流すベック・タガールへエバは余裕の足取りで近づく。その姿に彼はすぐさま傍に落ちた銃へ手を伸ばす――が、指先が触れようというところでエバの足に手は踏みつけられ呻き声が空へ向け飛ばされた。

 そしてエバは手を踏み押さえたまま銃を拾うとベック・タガールへ突きつけた。

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