初任務12

「だがこいつは渡せねぇな」

「リサ! エレベーターが動いてる! 誰かがそこに――」


 シェーンが言い切るより先にリサの後方で二つのエレベーターが同時に開いた。中に乗っていたのは銃と様々な接近武器を手にした男達が合わせて二十人程度。獣人、ゴブリン、蟲人。その種族は様々。

 エバはそれを目にした瞬間ベック・タガールを捕えようと動き出そうとするが、それより一歩先に振り返りながら抜いた(背に隠していた)もう一丁の銃口に止められてしまった。


「おっと。動いちゃダメだぜ。お嬢ちゃん」


 そしてそのまま二人から離れたベック・タガールは降りてきた部下の前まで下がるともう安全だと銃を下ろした。


「プランってのは常に何通りも同時進行させるもんだ。残念だったな。――殺せ」


 堂々と背を向けた彼は二人の部下が残ったエレベーターへ乗り込むと閉まりゆくドアの向こうで勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「エレベーターがオフラインになった。何かされたわね。操作は出来ないわ」

「武器を仕舞え」


 シェーンの声を聞きつつ銃を構えた部下に指示されたリサは体の前で刀を鞘に納めた。

 そして右手で納めた刀をアピールするように上げて見せ、その間にこちらへ視線を向けているエバにもう片方の手を使い指示を出す。まず人差し指で自分を指差し親指で後方の部下を指差す。その後、エバを指差し自分の右斜後方を指差した。その指の差す方へ視線を向けるエバ。そこではダストシュートの丸い口が開いていた。


「おいおい。マジかよ」

「こっちを向け」


 タイミングを見計らいつつも指示に従いゆっくりと振り返るリサ。


「奥へ行け」


 一歩二歩。時間をかけ後ろへ。

 すると下りていった方とは別のエレベーターがいつの間にか一度下がっていたらしく到着の音と共にドアを開いた。


「おい、お前ら!」


 中から怒鳴り声を上げたのは黄色いヘルメットを被り作業着を着た男。耳からはイヤホンがポケットへ伸びている。


「ここは立ち入り禁止……うわぁぁぁ」


 怒りを露わにしながら外へ出ようとした男だったが振り返った部下が銃などの武器を手にしているのを目にした途端、情けなさを感じる叫声を上げながら腰を抜かした。そしてそのまま縋るようにドアを閉じるボタンへ手を伸ばす。

 一方、部下の視線と意識が僅かだがエレベーターへ向いたその瞬間。二人はここぞとばかりに行動を開始。リサは武装した部下へと走り出し、同時にエバはダストシュートへと全速力で向かった。


「おい! 撃て!」


 二人に気が付いたゴブリンがそう叫びながら引き金を引くと先行した銃声を追い銃弾の雨がリサに襲い掛かった。だが茶碗一杯分のお米よりは数の少ない弾丸の中、掠ることすら許さず彼女はあっという間に一人目の銃を持つゴブリンの元へ。左手で刀を抜きながら流れるようにそのゴブリンを斬り上げた。

 一方、その一部はエバの方にも飛んできていたが彼女も足を止めること無くダストシュートへ一直線。そしてリサが血を宙へ舞い上がらせるのとほぼ同時に滑り込んだ。壁に足や体を押し当て勢いを調節しながら先にエレベーターで下へと向かったベック・タガールを追う。


「くそっ! こんなんならあっちの方を選ぶんだった」


 一人目を斬ったリサは鞘を腰に差すとすぐさま隣の犬頭獣人スキロボスへ接近し銃口を他所に向けながら足を掬いその場に転ばせた。その衝撃で緩んだ手から銃を奪うと後方へ放り投げ横から振り下ろされた剣を受け止める。

 その間に仲間への誤射を考えたのか銃を持っていた者は全員、武器を接近戦用へと持ち替えた。

 攻撃を受け止めている最中、複数で同時に、背中から。圧倒的な人数有利を活かしながら彼らはたった一人のリサへ襲い掛かった。容赦などあるはずもなく彼女を殺すことだけを考え次から次へと武器を振るう。だがどれだけ隙を突いたと思った攻撃でもリサの息の根を止める事は出来なかった。それはおろか血に触れる事さえも。

 それに比べかき乱すように動き回っては刀術、体術を駆使し戦うリサの前に部下らは一人また一人と鮮血と共に倒れていった。依然と思わず手を伸ばしたくなるような肌には掠り傷ひとつなかったが頬には口紅のように赤い血。そんな自由自在に動き回っては美しく舞い、鋭利に刀を振るっては敵を薙ぎ倒すリサのその姿は、さながら狂気的だが美しく見る者を魅了する妖刀。

 そんな彼女は人数の大差など物ともせず淡々と自分の役目を果たしていた。

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