初任務4

「次は彼」


「ばいばーい」と手を振るミアに対しまだ戸惑いが抜けぬまま軽く手を上げ返したエバは、シェーンの後を追い横に並んだ隣デスクへ動した。

 そこでは赤毛に埋もれた犬耳の男性がデスクに突っ伏して寝ていた。


「彼はレイ・フェリルガンド。ウェアウルフよ」


 先に名前と種族を教えてくれたシェーンはレイの傍に置いてあった雑誌を手に取ると、それを使い彼の頭を小突くように叩いた。


「――っつ」

「起きてレイ」


 めんどくさそうに顔を上げたレイは二人の方を向く前に大きな伸びをひとつ。同時にしていた欠伸の際、鋭く伸びた犬歯の双子が顔を覗かせた。服装はノーネクタイに胸元の開いたシャツ、ジャケットは着ている。


「あー。なんだ仕事か?」

「そうよ。新しい仲間と挨拶するっていうね」


 言葉を選ばずに言えば柄の悪そうなレイの顔はエバへと向いた。それは互いにあまりいい目つきとは言えないからか何も知らない人が見れば一触即発の状況と勘違いしてもおかしくない絵面。


「レイだ」


 だがそんな状況を打開するようにレイは手を差し出した。


「エバ」


 それに答えエバも手を握り返す。


「それよりシェーン」


 大きさの違う手が握手を交わし、離れるとレイは視線をシェーンへ向け直した。


「今夜ディナーでもどうだ? 実は昨日いい店教えてもらったんだよ」

「いいわよ」

「マジか! よっし! そんじゃ早速予約を――」


 指をパチンと鳴らし一気に上機嫌になったレイはさっきとは打って変わって子どものような笑顔を浮かべた。そしてスマホを取り出しながらそう張り切っていたが、シェーンの声がそれを遮った。


「だけど今夜は遅くまで仕事しないといけないから、そっちがおいしいご飯を買ってきてくれたらここで一緒にディナーを食べましょ。もちろん、仕事と三人でね」

「んだよそれ」


 さっきの上機嫌は蜃気楼だったと言わんばかりにすっかり落胆としてしまったレイ。


「悪いわね。さぁ、次はこっちよ」


 そんなレイの頭をポンと叩いたシェーンは、視線はエバに向けたまま軽く頭を振り二人のデスクと対面して並んだ向かいのデスクへ歩き出そうとした。

 だが彼女が一歩目を踏み出しながら前を向くとそこには既に莞爾として笑う女性が一人立っていた。シェーンにはそれが予想外だったらしくその姿を見るや否や体をビクッと跳ねさせ「わっ!」と声を零した。直後、心臓の安否を確認するように胸へ手が伸びる。


「ビックリした。いつからそこにいたの?」

「丁度今、来たところですよ。次は私の番かと思って」

「えぇ、そうよ。今からあなたのとこに行こうと思ってたの」


 言葉の後、シェーンは息を大きく吐き落ち着きを取り戻そうとしていた。そして息を整えた彼女は横にずれると女性とエバが互いを見えるようにした。


「彼女は天ヶ瀬 照星あかり。私と同じ人間よ」


 背中まで伸びた艶のある長い髪、スリットの入ったロングスカートからはブーツにショートパンツと白肌の程よく肉付きのある脚が顔を覗かせている。その脚同様に腕や顔などの肌も白くその所為か口紅はより鮮やかに見えた。お淑やかな大人の女性、照星はその言葉がよく似合うそんな女性だった。


「よろしくお願いいたします。エバちゃん」


 ミアが太陽のエネルギーに満ちた面を思わせる笑顔を浮かべるとするなら照星は太陽の優しく包み込む温かな陽光を思わせる笑顔を浮かべた。もしくは眠る人々を優しく見守る月のような笑み。というより彼女は終始そのような笑みを浮かべ続けていた。その表情が彼女にとっての普通であるかと言うように。

 そして共に他の二人同様、手を差し出す照星。


「ども」


 彼女から溢れる温かで柔らかな雰囲気に思わず(微かだが)口角が緩むエバだったが、手を握り返しながら口にしたその声は素っ気ないものだった。


「さて、とりあえずはこれぐらいね。他のメンバーはまた後でになるけど……」


 シェーンは言葉を止めると腕時計を確認し、すぐにその視線をエバへ戻した。


「ここでは基本的に二人一組のチームを組んでるの。扱う事件の大きさによっては二~三チームでってこともあるけど、基本的にはそのチームでやってもらうわ。もちろんあなたにもその相棒がいて、もうすぐ来ると思うんだけど――」


 まるで彼女の声が聞こえていたかのようにドアの開く音が零課に響き渡った。二人はその音に引かれ同時に顔をドアの方へ。

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