初任務2

 それからも人々の間を縫うように進んだスケボーは少し年季の入った(正面が長辺の長方形の)建物の前で脇に抱えられた。


「少し遅刻ですが……まぁいいでしょう」


 その建物の前に立っていたのは、綺麗に伸びた背筋のスーツ姿に髪型は七三分け程よく鍛えられた体格の男――四阿哲志。彼は相手の姿を確認すると腕時計へ一度視線を落としてからそう言った。


「では行きましょうか」


 言葉の後、振り返った四阿は後方にある(建物の左端に設置れた)ドアへと足を進めた。それにスケボーを抱えたその人物は相変わらずフードもヘッドホンも付けたまま続く。

 四阿の開いたドアから中へ入るとそこに広がっていたのは外観とは相反し、壁も床も綺麗に塗装された空間。まるで外観と屋内で時間の流れが異なっているかのようだった。

 そしてドアから右手に進み(四つでひとグループになった)デスクの並んだ場所まで足を進めた四阿。合計十のデスクは疎らに席が埋まっていた。


「皆さん。少しこちらをお願いします」


 全てのデスクが見渡せる場所で立ち止まると四阿は軽く手を上げながら注目を集めた。その声に各々動かしていた手を止めると彼の方へ顔を向け始める。


「先日お話しましたが、本日からここの一員となります。武蔵……」


 四阿は横目で未だにヘッドホンが両耳を塞いでいるのを見ると名前を途中で止め、そのヘッドホンを外し首まで下げた。


「武蔵・G・エバさんです」


 ヘッドホンを外した手でそのまま隣を指しながら紹介をした四阿の声が部屋の空気に溶けていくと、全員の誰かが何かを言うのを待つ状態が重なり合い静寂が辺りを包み込む。その場にふらっと迷い込んできたその沈黙の中、四阿は顔をエバの方へ近づけた。


「一言どうぞ」


 その小声にエバがフードを外したことで露わになったアップバングのショートヘア。遅れて気の強さを感じさせる目がゆっくりと開き深紅の瞳が光を浴びる。その瞳だけを動かし辺りを一見した彼女は内面を知らなければ近づくのを躊躇ってしまうような雰囲気を身に纏っていた。


「ども」


 瞳が再び正面に戻ると全員に聞こえたか怪しい小声と共に彼女の顔は微かに上下した。


「彼女はこれから皆さんの良き友人であり同僚となりますので他の方同様に仲良くお願いしますよ。では私からは以上です。――シェーン」


 エバの紹介を終えた四阿は右端の二組になっていない例外のデスクに(壁に背を向け他のデスクへ向いている)座る女性を軽く手を上げながら呼んだ。「はい」と返事をし椅子から立ち上がった彼女はヒールの音を響かせながら早足で二人の前までやってきた。

 それはパンツスーツを着て頭の後ろでお団子を作ったダークブロンドの美人な女性。更に所謂モデル体型をした彼女は雑誌の表紙を飾っていても不思議ではないそんな女性だった。


「彼女はシャノン・コールオン。ここでは主に事務と皆さんのサポートを担当してくれています」

「シェーンでいいわ。みんなもそう呼んでるから」


 気さくな笑みと共に差し出されたその手をエバは何も言わず握り返した。


「それでは私はこれから会議がありますので後はよろしくお願いします」

「分かりました」


 四阿はシェーンからの返事を受け取ると踵を返したが足を踏み出す前にエバの肩へ手を乗せた。


「まずはメンバーと仲良くするのがあなたの最初の仕事ですよ」


 それを伝えると「頑張って下さい」と最後に付け加えドアへと歩き出した。

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