第2話


「なぁ、菫姫すみれひめって知ってるか?」


 もうすっかり日が沈み、夜の帷が降りかかった時間帯。とある大学のキャンパスにて、薄暗くなった廊下を歩いている2人組がいた。


「何それ童話?」

「ちげーよ、最近有名な占い師だ」

「なんだ。んなの知らねぇよ。てかお前、占いなんかに興味あったっけ?」

「いや、ないけどさ。でも噂になってんだって」

「噂?」


 高身長の男子は眉を顰める。


菫姫すみれひめって、平安町にいる占い師なんだけどさ、彼女の占いはよく当たるらしいぞ」

「どうせそんなのデマに決まってんだろ」

「いやいや、すごいのはこっからなんだって」

「何が凄いんだよ?」


 黒髪ストレートの質問に対して、癖っ毛の男はなんとも楽しそうに言う。


菫姫すみれひめは占い以外に、いい結果になるように色んなことをしてくれるらしいぞ」

「色んなこと?」

「ああ。例えば無くしたもののありかを教えてくれたり、人に取り憑いた悪いものを綺麗さっぱり取ってくれたり」

「……ただの巫女だろ、それ」


 期待して損した、と言わんばかりに大人びた男は顔を背ける。が、学生らしさを見せる男は気にせず続けた。


「それにな、人を変えることもできるんだってよ」

「……はっ?なんだよそれ」


 初めて、ミステリアスな雰囲気の男が目を見開いた。彼を知らない見れば少しばかり、だが。


「だから、人を変えるんだってば。暴力的な人が急に温厚になったり、1日前にフラれた人が次の日には好きな子と付き合えたり」

「はぁ?」

「人の心とか記憶とかを操って、その人の望みを叶えてくれるらしいぞ」

「そんなのあるわけねぇだろ」

「それがあるんだなぁ」

「何言ってんだお前」


 訝しげな表情の男に、もう一方の男は振り返る。底なし沼のような真っ黒な瞳で、にやりと口角を不気味に歪めて。


「お前さ、覚えてないの?」

「はっ?なにがだよ?」


 もう完全に闇が落ちた、暗黒の中で、は、を口にした。


「俺とお前は、昨日まで赤の他人だったってことだよ」

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