第6話 天啓⑥
リホが神になると宣言してから、数日後。リホの訪問が途絶えていた。リホはもうすぐ小学校を卒業すると言っていたから、よくわからないけれど、中学受験をするのかもしれない。気恥ずかしいのと塾通いか何かで足が遠のいてしまっているのだろう。
「忙しいのなら、仕方ないか…」
そうやって、自分を納得させようと独り言を言っていた。そこへ、携帯電話が鳴る。
「リホからだ…」
電話番号はお互いに交換していたが、電話がかかってきたのは、これが初めてだ。
「…もしもし」
「
そう言うなり、リホは一方的に電話を切る。僕は一応、用意していたお菓子を白いビニール袋に入れ、家を出る。ここから、リホの家までは結構、距離があるのを思い出し、物置小屋から自転車を引っ張り出す。
何と無く、早く行かないと怒られそうな気がした。風を切り、竹林を抜ける。
僕がみたらし団子を持って来たことを告げると、リホは
「それで、今日は何をするの」
「作戦会議よ」
「また、リホは訳のわからんことを…」
リホがいれたての湯飲みを持ち上げようとしたので、阻止する。
「それはだめだって。いくら何でも…」
「わかったわ」
リホは湯飲みを置くと、善治くんの頭を叩いた。
「やっぱり、そう来るか…」
「善治の頭をよく叩くものだから、私の握力、結構強いのよ」
「そんなら、その握力をもっと有効に使うて欲しいもんやなぁ…」
「はいはい」
皆でみたらし団子をほおばる。
「聡明兄ちゃん、おいしい」
「そう? よかった」
「聡明。次はくるみにして」
「えー、黒ごまがええって」
「じゃあ、次はくるみ。その次が黒ごま。で、作戦会議って?」
リホが湯飲みを置く。続いて、僕と善治くんも置く。
「私は新しく宗教を作ることにしたの。教祖はもちろん、私よ」
「やっぱり、訳がわからん…」
「ああ、神ってそういうこと…」
リホが数回、まばたきをする。
「善治のほうは予想通りだったけれど、聡明は…」
「僕もね、同じことをずっと考えていたんだよ」
僕はずっと神になりたかった。人の上に立ちたかった。人を見下さないために、そう在りたかったのだ。
「違ったら、ごめんだけど。リホは他人よりも優位でありたい。でも、実際は違う。だから、許せない。自分よりも優秀な人間が居ることに」
リホは正座から体育座りになり、あごをひざの上に乗せる。
「それは私ではなくて、聡明の話でしょう」
リホの指先は制服のリボンや自分の髪を弄ぶ。
「僕は学校に行かなくたって、いつだって勉強は一等できる。せやから、そういう気持ちってようわからん」
「学校に行けばすぐに解るわよ。かけっこなんてしたらね」
言われた善治くんは天井を見上げる。すぐに眉間にシワを寄せ、首を左右に振る。
「嫌や。絶対に許せへんわ。バカにバカ扱いされるなんて耐えられへん」
リホが善治くんに右手を差し出す。
「善治にも人並みの想像力があったのね。驚いたわ」
握手した手が緩やかに揺れる。
「うわー。信じられへん。何や、今までの僕の言動は。人をバカにするにも程がある…」
「今更、気付いたの」
リホが顔をしかめる。そのまま、視線を落とす。しばらくの間、リホは何事かを考え込んでいたようだ。
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