第5話 天啓⑤

「おまけにうじうじしている」

ミユキ兄ちゃんかて、そうや」

 リホがいとこを睨みつける。

「そんなんやから、いつまでたっても学校にも行かれへん」

 リホが手をあげそうになったので、慌てて止めに入る。

「リホ、止さないか」

 リホはしきりにまばたきする。

聡明そうめい。私に意見する気なの?」

 リホは僕を見定める。実際に行動に移ってしまっていたのだから、否定する訳にもいかない。僕は押し黙るしかない。

「別にいいのよ。私なんかただの小娘で、聡明は大学生なのだから。年少者が間違ったことをしたら、叱るのが年長者の役目というものよ」

「それで言うと、リホは自分を正当化しているようにしか聞こえへんのやけど。気のせいやろか?」

 リホは思いきりいとこの頭を叩く。

「リホの悪いとこは短気なとこや…」

 涙目で言ういとこは、頭をさする。リホは顔を真っ赤にして、俯いている。正直、僕は驚いている。リホにもこんな子供っぽいところがあったのかと。実際にリホはまだ小学生なのだから、当たり前と言われればそれまでだが。

「リホ…?」

「私は少なくとも、善治よしはるよりは自分が大人だと思っていた。なのに…」

 リホが歯を食いしばり、大粒の涙をこぼす。

「もうすぐ小学校を卒業するはずのリホが、入学したての僕より子供やった」

 リホは俯いたまま、頷く。

「だから、私は決めた」

「何を?」

 リホがやおら、立ち上がる。

「私は、カミになる」

 そう言い放つと、リホはさっさと退出してしまう。残された僕はいとこと顔を合わせ、訝しがる。

「カミ。カミって、神様…?」

「いくら何でも、字ぃや絵を書く紙にも、頭に生える髪の毛にもなられへんし…」

 と言うことは、やはり、リホは「神」になるということか。

「でも、一体、どうやって…?」

 いとこは肩をすくめる。

「僕が、リホのプライドを傷つけてしまったのだろうか…?」

 独り言のつもりだったが、いとこが首を横に振る。

「僕が悪い。…きっと。よう、わからへんのやけど、僕はいっつも、他人を嫌な気持ちにさせてしまう」

 いとこの目が光る。

「大丈夫だよ」

 いとこの手をとり、笑顔を見せる。

「ほんまに?」

 僕は頷く。いとこも笑顔を見せる。やはり、かわいらしい子だ。

「ねぇ、聡明兄ちゃんって呼んでもええ?」

「いいよ。僕も、善治くんって呼んでいいかな?」

 離れの出口まで、善治くんに送ってもらう。

「門まで行かなくてもええん?」

「大丈夫だよ」

 リホの姿を探したが、どこにも見えない。そのまま、下宿に戻る。

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