第4話 先輩と一緒に狩り

その日はいろいろなゴタゴタが起きてしまったため一度お開きになった。

明日の午後に再びダンジョンに潜る約束をして別れる。


それにしてもダンジョンで仲間を囮に使って逃げるとは・・・


確かに僕が属していたパーティーも酷いと言えば酷い。

僕があまり火力が高くない代わりに戦闘補助職であるビショップを選んだのは、彼らが回復や防御などを気にせずに戦えるようにという考え方の下であって、決して僕自身の為に選んだ職では無い。

それでも彼らはあくまでも安全地帯で僕を追放しただけだ。


だが先輩の状況は違う。

一歩間違えれば・・・いや、僕でも誰でもいい。あの時偶然通りかかる人がいなければ彼女は、ほぼ確実に死んでいたはずだ。

ダンジョンのモンスターは基本的にその死骸の全てを残すわけじゃ無い。

アイテムドロップという形で残すのであってどの部位が残るかは基本ランダムだ。


だがどういうわけか、ダンジョンのモンスターは冒険者餌として食べようとする。

当然であるが、餌食になってしまった冒険者はその地面に血肉のかけらを残して食べられてしまうわけだ。


つまりそれは、交通事故などのようにある程度、骨などの遺品が残るわけじゃ無い。

餌食になった者は何も残らない。

ダンジョンは確かに一攫千金が狙えるし、国の政策によってすべての国民にとってある程度は身近な存在になったと言える。


それでも子供の帰りを待つ親が

「あなたの娘さんはダンジョンで死亡しました。骨のかけらも回収できませんでした」

と言われれば、どんな気持ちになるかなど、言うまでもないことだ。


僕に全てを守る力などない。

だけど新しく僕の仲間になってくれそうな、先輩だけは守ろう。

その結果僕自身が死んでしまうことになったとしても・・・だ。

誰かを見捨てて得た『生』に縋り付いて生きるよりも、

誰かを必死に守って発生した『死』に誇りを抱いて死にたい。


そう思いながら帰路についた。



SIDE:百川 明美

危ないところだった。

同じクラスになった生徒とパーティーを組んでいつも通りダンジョンアタックを始めた私たちは20階層のボスモンスターを倒して、なんとか21階層に出ることができた。

とはいえボス戦で疲れがたまっていた私は、これ以上の無理は危険だと判断して彼らに今日のところは引き上げようと提案した。


だが彼らの反応は

「どうせ20階層も21階層も大して変わらねえよ」

「そうそう、今日下見しておけば明日潜るときにはある程度準備してアタックできるんだからさ~」

「なーに?明美ったらビビっちゃってんの?」

などと口々に言いあい決して私の意見を聞いてくれなかった。


だから私は警戒しつつも彼らと共に21階層に潜った。

しかし最初に出るのが1匹2匹だと勝手な幻想を抱いていた私達は絶望に突き落とされた。

そこに居たのは速いことで有名なウルフだ。

1匹2匹であればなんとかなるものの、5匹にも纏わりつかれれば最早絶望的と言ってもいい相手だ。


「や・・・やべえ!」

「逃げろ!!!」

途端に逃げ出す私たち。


次の瞬間私は信じられないものを見てしまった。

私の足に怪我ができている。

太ももには剣が刺さり血が流れ始めている。

認識したとたんに激痛が襲い掛かってくる


「痛!!!な・・・何をするの!?」

「へへ・・・悪いな、明美。お前はここに残って俺たちが逃げる時間を稼いでくれよ」


「何を言ってるの!?」

「なーに心配するなよ。お前のことは仲間を助けるために必死に殿を務めて死んだ英雄ってことにしておいてやるからな!」


そう言って彼らは行ってしまう・・・


い、嫌!

死にたくない!

誰か・・・誰でもいいから助けて!


でもここには私以外誰もいない。

恐怖しながら私はなけなしの勇気を振り絞って剣を抜き、構える。

でも私ができたのはそこまでだった。


データに合った通りウルフはとても早かった。

そのうえこちらを惑わせるような動きを・・・連携した動きが取れている。

焦りのままに振った剣は空しく何もないところを切っただけだった。


そして私は襲われ始める。

どんなモンスターにしてもまともな死に方はしない。


スライムであれば激痛に苛まれながらじわじわと体を溶かされて捕食される。

ゴブリンであれば、男子はなぶり殺しにされる。女子は心が壊れるまで犯され、その後も生ある限り慰み者として使われて死んだら食われる。


そしてこのウルフもそうだ。

こいつらにとって私はただの獲物。

必死に手足を激しく動かすが刺された足の方は最早うまく動かない。

その足の脛のあたりにウルフが思いっきり歯を立てて噛み付いてくる。


「痛い!いやーー!!誰か助けてーー!」


思わず叫ぶことしかできなかった。

無駄なことだとはわかっている。

私はもう助からない。こいつらに体のほとんどの残さずに食われて死ぬ。

絶望に浸りながらその時が来るのを待っいたときにあり得ないことが起きた。


私に跨りながら脛に噛みついていたウルフに何かが当たった・・・

それでそのウルフは絶命した。

あれは・・・?魔法使いの魔力弾?

涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると一人の男子生徒が走ってくる。


ダ・・・ダメ!このままではあなたも・・・!

本当ならそう叫ばなくてはいけない。

でも助かりたい一心で何も言えなかった。


その後はすごかった。

本来魔法使いは接近戦が苦手だ。

ウルフなどを相手にするときは原則として前には出ないで、中遠距離から攻撃するのがセオリーのはずなのに・・・


その魔法使いが何かの範囲系魔法を使うとウルフの動きが一気に悪くなった。

白い矢を飛ばすと何かに導かれるかのように曲がり敵に当たる。

接近されすぎても防護壁で的確に防御しつつ衝撃を与えて飛ばす。

そうして5匹のウルフは瞬く間に殲滅された。


た・・・助かったの?

思わず礼を言おうとして立ち上がろうとしたところで、激痛を思い出す。

そうだ、私はあいつに刺されて、ウルフに噛みつかれた。

まずは応急処置をしてここから出なければ・・・


そう思いつつ礼を言うと彼は回復魔法をかけてくれた。

するとたちまち傷だらけだった私の体は元通りになっている。


嘘!?なんでヒーラーがこんなところに一人でいるの?

だってヒーラーは誰もやりたがらない職だけど、基本的にどこのパーティーも喉から手が出るほどに欲しがる存在よ!?

そんな回復役を一人で出歩かせるパーティーなんておかしいわ!


他のパーティーメンバーの存在を聞くと『彼は一人』だという。

ありえない・・・なんで・・

と、思っていた時に一つの情報を思い出した。


つい昨日のこと。

1学年の魔法使い職の男子生徒がパーティーから強制的に追放されたという噂だ。

真偽のほどは確かではないが、かなりの高ランクパーティーにおいて、大した火力も持たない極つぶしであるが故の追放だと聞いている。


もしかしてこの子が?

頭が追い付くと同時に納得できない気持ちになった。

そのパーティーは馬鹿なのかしら?

回復役の火力が低いのは当たり前のことでしょう?

回復の真骨頂はパーティーメンバーに対するバフと、敵に対するデバフ、

そして何より回復なのだから。





すぐに納得できない気持ちに襲われながらも私は彼と共にダンジョンから一度脱出することにした。

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