第3話 出会い

戦闘が終わり静寂が訪れる。

「大丈夫ですか?」

普通に考えれば大丈夫ではないが、他にかけようがない。


「うぅ・・痛い。けど助かったわ、ありがとう・・・」

ゆっくりと立ち上がろうとしたため押しとどめる。


「まだ動かないで。回復を掛けますからそのままじっとしててください」

「ヒール!」


すると彼女にあった切り傷のすべてが瞬時に治る。

「回復魔法・・・あなたもしかしてBランクパーティーを追い出されたっていう・・・」


そうか。僕が追放された件は同じクラスだけでなく、他学年にも伝わっているのか。

嘲笑われることを覚悟しながら肯定を返す。


「そう・・・あなたもなのね・・・」

「も?」

「私もよ。といっても私の場合は明確に追放されたわけでは無いけど、対処しきれないと思ったのか私を囮にメンバーは逃げたわ」

「そんな・・・」


あり得ない。

ダンジョンは遊びでは無いのだ。

ゲームのようにリセットボタンがあるわけじゃ無い。

一歩間違えれば死んでしまう。

それだけに学校はパーティーに登録していないソロの冒険者は基本禁止している。

僕の場合においてもソロとはいえ20階層下のランクで狩ることを条件にして許されたくらいだ。


やむを得ず逃げられるメンバーが逃げ出したとしても、ダンジョンを管理している受付に報告義務が発生するし、

その報告がでれば周辺にいる冒険者に緊急クエストとして原則拒否権のない救援クエストが発生する。

ましてや囮に使ったとなれば学校だけで見ても良くて停学処分になるし普通は留年になってしまう。

悪ければ退学処分だし、最悪の場合は刑務所送りになる。


ダンジョン管理部においても厳しい沙汰が下される。

良くて1か月など長期間の活動禁止処分。普通ならランクの降下。悪ければ冒険者登録を取り消されるし、最悪の場合は永久取り消し処分となる。


国にとって冒険者とはスタンピードを防いでくれる防波堤だ。

定期的に間引くことによって発生リスクを抑えるだけでなく、いざスタンピードが発生しても、ある意味専門家が対処することによって被害を最小限に抑えられるからだ。


特に日本の場合元々が国有面積として小さい国家だ。

何かあれば逃げ場を失くして国が消滅することは避けられない。

それだけに日本は諸外国に比べて冒険者を守るための基本的な法律が厳しくなっている。


おそらくだが今回の件は学校として留年を下し、ダンジョン管理部はランクの降下を決定するだろう。

幸いにも死者は出ていないかったが、結果論の話であり、僕が救援に入らなければかなり危険な状態・・・いや、ほぼ間違いなく死んでいただろう。


「それで?あなたの今のパーティーメンバーはどこにいるの?姿が見えないのだけれど」

「えーと僕一人です」

「・・・・驚いたわね。それでよく許可が下りたわね。まあお陰で助かっている私が言うのも変な話なのだけれど」

「それまでは40階層あたりで狩りをしていましたから。20階層付近で狩りをすると言ったらそれなら大丈夫だろう・・・と」

「なるほどね」


そんな話をしていたが、ここままだフィールドエリアだ。

いつモンスターが発生してもおかしくはない。

ウルフが落とした魔石を回収し僕はダンジョンから一度出ることを提案した。

そして彼女もそれを受け入れてくれた。


ダンジョンの入り口にある受付に到着し、事情を説明する。

ダンジョン管理部はすぐに動き出してくれて、同時に僕は管理部からも感謝される。

裁定はすぐに決定し、彼女を見捨てたパーティメンバーは1週間の活動禁止処分と1ランクの降下処分。

そして1週間後より3か月の21階層以上の立ち入り禁止処分が下されることになった。


理不尽にも感じるが妥当なラインだとも感じてしまう。

国として大切にしているとは言え、基本ダンジョン内で起こることに関しては自己責任となる。

加えて今回はけが人は出ているが、犠牲者は出ていない。

そして今回の要因は身の丈に合わないダンジョン階層の攻略だ。

ランク降下や立ち入り階層の制限は妥当と言える。


しかし事はこれで終わりではない。

彼女を見捨てたパーティーメンバーは同級生だという。

となれば学校の方は軽い処分で済むはずがない。

結果的に間に合っただけだ、あの状況は普通に考えれば死んでいた。


最低でも長期間の停学処分が下されるだろうし普通なら留年処分が下される。

仮に長期間の停学処分でも、座学の単位が足りずに自動的に留年が確定する。

加えて一度でもそういうことをやってしまえば他の生徒たちからは厄介者扱いされる。

仮に復学しパーティーメンバーを再度募集したところで、メンバーを囮に逃げ出すパーティーに自分から入る人はいないだろう。

必然的に今の学校で座学を勉強しダンジョンでの活動実績を何も残せないまま卒業するか、

一度退学してゼロから他の学校でやり直すしかなくなるわけだ。


僕と彼女は学校に戻り事情を説明した。

やはり学校側も直ぐに懲罰委員会を開き裁定を下した。

5か月の停学処分という、思った通りの長期間停学だ。

これで留年は免れない。


この学校にはラウンジがある。

このラウンジはもっぱらダンジョンに行く前の集合場所や、帰ってきたときの解散場所として使われる。

もちろんここで休憩を取ってからダンジョンに行ったり、帰宅する生徒もいる。

その隅の方に僕らは座る。


「改めてお礼をさせてちょうだい。助けてくれてありがとう。

想像したくないけれど、あのままであれば私は死んでいたと思う。

私は百川 明美ももかわ あけみ2年生よ」


「初めまして、百川先輩。

1年生の古川 武と言います。今回は間に合ってよかったです」


大したことのない話をしていると、彼女が聞いてきた。


「失礼かもしれないけど、なぜ前のパーティーを追い出されてしまったの?

あれだけしっかりと戦えて回復もできるというなら理解ができないのだけれど」


確かに失礼な質問だ。

追い出されたのは昨日の今日だ。

まだ心に傷を負っている。

だけどこの人は僕を評価してその疑問を投げかけたのだ。

ならば正直に話すことにしよう。


「答えは簡単です。僕が彼らから見て弱いからです。

僕が選び取った職はビショップ。

本来は戦闘支援特化型の職業であり、単体としてはさほど戦闘力はありません。

今回しっかりと戦えたのにしたって、今まで40階層付近で戦っていた経験が生きただけのこと。

20階層も下の階層であれば余裕をもって対応できるというだけの話です。

彼らからすれば僕は落ちこぼれの足手まといだったというわけです」


「そう・・・ごめんなさい。つらいことを聞いてしまったわね」

「いえ・・・」

言葉を濁すことしかできなかった。

気まずい雰囲気が流れる中、再度彼女が口を開く。


「それなら一時的でもいいから私とパーティーを組んでくれないかしら?」

「え?」


「寄生するようで申し訳ないけど、私もしばらくはあなた以外とは組みたくないのよ。

一人で戦うなんて私はできないくらい弱いし、パーティーを組むにしてもまた囮として見捨てられるんじゃないか・・・って怖いのよね。

その点あなたなら見ず知らずの私を助けてくれたことだし、よほどのことでも起きない限り見捨てたりしないだろうから信用できるのよ」



「わかりました。よろしくお願いします。百川先輩」

「・・・・・・・・・・・」

「どうしました?」

「いえ・・・なんでもないわ。よろしくね古川君」



こうしてダンジョンで助けた先輩とパーティーを組むことになった。

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