第2話 孤立

翌日、朝ごはんを食べていると母から声を掛けられる。


「なにがあったのかは知らないけど、あまり思い詰めてはダメよ?」

どうやら未だに表情に出ているようだった。

務めて明るく返事をして、家を出る。


それでも暗くなってしまうのは無理もないだろう。

昨日の今日だ。

すぐに立ち直れるはずがない。


学校に到着し教室に入ると、クラスメイト達が一斉にこちらを向いてくる。

小声で話しておりしっかりと聞き取れるわけでは無いが、どうにも僕が追い出されたことを既に知っているらしい。

現代にダンジョンが現れたといっても、今の世の中は情報社会だ。

情報を共有するためのアプリには事欠かないし、おそらくそのあたりで既に彼らから情報がもたらされていたのだろう。


この様子では新しく所属するパーティーを見つけるのも苦労しそうだ。

現在の学校教育は座学が中心になっている。

体育の授業は基本的になくなっている。

国がダンジョンの攻略を推奨しており、午前中で座学授業を終わらせて、午後からダンジョンに潜るのが基本になっているからだ。


ゆえに冒険者活動をしない中高生は肩身が狭い状況になる。

中には親の承認が得られずにできない人もいるのにもかかわらずだ。


午前の座学が終わりダンジョンへ向かう。

予想していたことだが、僕を見るなり人の波が分かれるように道ができていく。

普通に考えれば僕が取りうる行動は基本的に次の所属パーティを探すことだ。

しかし直接火力や支援攻撃型として機能するならまだしも、戦闘補助職の僕は受け入れられないだろう。

関わりたくないと言わんばかりに相手が避けていく。


ダンジョンは基本的にどこも構成が同じだ10層まではGランク。

以降10層ごとにランクが上がっていく形だ。

勿論そのランクじゃないと下の階層を使ってはいけないということではない。

ただ死なない為の指標というかそういうものがあるわけだ。

1~10 G

11~20 F

21~30 E

31~40 D

41~50 C

51~60 B

61~70 A

71~80 S

81~90 SS

91~100 SSS

101~ EX

という形になっている。

したがって以前の僕が彼らと攻略していた階層は基本的に41~50階のエリアであった。

だがBランクに上がった彼らは51階の攻略に乗り出しているはずだ。

しかし今の僕にはパーティーメンバーがいない。


加えて戦闘には向かない支援系特化型職だ。

そうなると低ランクの攻撃魔法しか使えない。

念には念を入れて2ランクダウンでダンジョンに挑むべきだろう。


ということで僕はEランク推奨エリアの21階に向かうことにした。

ダンジョンには5層ずつにテレポートエリアが存在する。

これを使うことで自分の適性エリアで狩りが円滑に行えるというわけだ。


Eランク推奨エリアは基本的にウルフ、つまり狼系統のモンスターがいる。

28階や29階になればDランク推奨のオークが少しずつ出始めるといった具合だ。

ウルフは基本的にすばしっこい。

そのため剣士をはじめとする接近戦型はここで躓き易いのだが、

このエリアでは僕が無双していたため大して苦労せずに上に上がっていた。


火力に弱いビショップだが、それでも攻撃自体を当てるのが大変な彼らよりは討伐できていたのだ。

単体での火力は確かに弱い。でも塵も積もれば山となるだ。

魔力の消費は激しくなるが、手数で勝負する。


「マジックボルト!」

魔法使い職ならだれでも扱える魔力弾だ。

練度が上がると着弾と同時にごく小規模な爆発を起こす。


ウルフが迫ってくるが今までの場数が生きたのだろう。

とくに焦ることもなく的確に倒していく。

とはいえ油断は禁物だ。

ダンジョンは未だに人類が解明できていない場所だ。

スタンピードがなくなったわけではないし、モンスターハウスというトラップ部屋もある。


そう思って慎重に進んでいると奥から悲鳴が聞こえてくる。

「痛い!いやーー!!誰か助けてーー!」

急いで悲鳴のもとに駆け出す。


女子生徒が一人いる状態だが、ウルフが5体も群がっている。

きわめて危険な状態だ。

「マジックボルト!」とスキルを発動しながら一気に駆け寄る。

ちょうど彼女の上にのしかかり噛みついていたウルフに着弾し絶命する。


突然の襲撃者に驚いたのか残りの4体は慌てて飛びずさった。

しかしあきらめる気が無いのだろう、唸り声を上げながらこちらを威嚇している。


「ホーリーフィールド!」

聖魔が使えるフィールド魔法だ。相手のステータスを下げることで動きを鈍らせて弱体化させる。

発動している間魔力を消費し続けるスキルなので長時間戦闘には向かないし、ボスくらいにもなると微々たる差しかないので、ボス戦には向かないが。

だがフィールド戦で多数の敵に囲まれているときは有効になる。


そのままマジックボルトを再度使用する。

避けられることは前提で撃っているのでその近辺にも続けざまに撃っている。

案の定最初の弾を避けてはいたが、次に来た弾は弱体化の効果も合わさり命中する。


これでの残り3体。

次は正確さで勝負だ。

接近を妨害するなら手数で勝負したほうがいいが、数を減らすのであれば手数を失ってでも正確性を優先すべきだ。


「ホーリーアロー!」

特徴としては聖属性の攻撃であるため、闇属性やアンデット系のモンスターにはこの上ないほどのダメージになる。

反面それ以外のモンスターの場合でなおかつ適正ランクの階層を攻略している最中は、相手の耐久力に対しての攻撃力が低いのでさほど強くはない。

しかし僕の場合は彼らにある程度守られながらとはいえ元々は40階層エリアを攻略していた。

ならば20階層近くもダウンしているこの状況ならば当たれば1撃で倒せる。


加えてこのホーリーアローはある程度の誘導性がある。

完全に相手を追尾するわけでは無いがマジックボルトが発動後直進にしか進まないのに対して、こちらは術者の思うように楕円くらいであれば追尾できる。

そして回避動作を取るも、弱体化により動きが鈍っていた3体目は僕の誘導弾によって倒される。


これで残り2体。

しかしここで残りの2体が接近してくる。

それでも慌てずにマジックボルトを使用し到達までに1体倒す。

距離があれば回避される可能性は高くなるが、相手の方から接近してくれるのであればその分当たりやすくなる。


そして最後の1体に噛みつかれそうかというタイミングで防御魔法を発動する。

「プロテクション!」

自分の指定した方向に壁のような障壁を展開する魔法だ。

これの上位種にエリアプロテクションという球体状の障壁を展開するものもあるが、今は残り1体だ。


続けて魔法を発動する

「ショック!」

魔法使いはもちろんのこと、一部の近接戦闘職も習得できるスキルだ。

効果は相手にノックバックと軽いダメージを与える程度。

魔力の消費もきわめて少なく扱いやすい反面、射程が極めて短い。

そのためゼロ距離戦闘を苦手とする魔法使いが多用したり、体勢を立て直すために一度距離を取ろうとする近接戦闘職がしようするスキルだ。


ショックによって吹き飛ばされたウルフはうまく着地する。

しかしその時には僕のマジックアローが発動し迫っていた。

ホーリーフィールドの範囲内に居たウルフは3体目と同様うまく避けきることができずに喰らい、消滅した。

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