第8話 適材適所3

シュナの父親がアレックスとの結婚に固執してるのは、今以上の権力を手に入れるため。

家族やフェルト家のために、シュナは頑張ってたなら健気だよね。


今まで家族の愛なんて与えられなかった私は、そんなものに期待する事もすがる事もない。

贅沢で我が儘な暮らしが出来ればいい。


悪役令嬢ライフは私にとても都合が良いのである。



さて、授業開始まで後50分もあるし、少し学校を見て回ろうかな。


日本の学校とは全然違う。煉瓦作りの2階立ての校舎。

体育という文化がないからなのか、運動場がない。


いくつか建物があって、その1つから『ヤァ!』とか『負けたー』と声が聞こえてくる。

チラリと覗くと、そこでは男子生徒が剣術の練習をしている。


こんな事をしてるけど、最前線に立たされるのって殆んどが労働者階級の男なんだよね。

練習の意味なし。金と時間の無駄遣い。


「シュナ、ここで何してるんだ?」


私に話しかけてきたのは、栗色の髪と瞳をした男。


誰?

……と聞きたいけれど、シュナの友人だと困るし、当たり障りなく対応しよう。


「見学よ。」

「見学って、朝はアレクと茶を飲む時間だろ。」


アレク…、アレックスかな。

この人、王太子を呼び捨てにしてるし、私にも敬語を使わないという事はそれなりの家柄なのかな。


「今日から朝のお茶の時間は無くなったの。」

「毎日楽しみにしてたのに、いいのか?」

「ええ、時間は有限なんだから、一秒も無駄に出来ないもの。」

「無駄な時間になったのか…」

「そうよ。」


シュナはアレックスの事を本当に好きだったんだ。あんな男、好きになる価値なんてないのに。


「では、私は行くところがあるので。」


漫画と違って小説は一部のキャラしかイラストがないから、顔だけ見ても全くわからないのが困る。


栗色の髪の剣術男を放置して、私は別の建物へ向かった。

壁は煉瓦で床は木…かな。


ドアの上についているプレートの文字は、日本語でも英語でもないけど読むことが出来る。


「化学実験室…音楽室…、この世界にも移動教室はあるんだ。」


2階はいくつか教室があるけど、正門ですれ違った生徒達とは制服やネクタイの色が違う気がする。


そういえば、ミネルバと私の制服が違った気がする。

貴族以外のクラスは区別されてるのかも。


2階は床がギシギシ軋んでるし、格差が凄い。


「危ないっ!」


ドンッ

私は思い切り突き飛ばされて強く頭を打った。


「イタタタ…」

「フェルト様、大丈夫ですか?」


この声は、聖女ミネルバだ。

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