第73話 裕哉、テレビに出演する 5

 臨時ボーナスが貰える可能性があることを知り、俺は手を繋いでいる春山さんと一緒に探索を再開する。


「すみません、足を引っ張ってしまって……」


「いえ、気にしないでください。それより、手を繋いだ状態で撮影しても大丈夫ですか?」


「あ、はい!その辺りは編集でなんとかなるはずです!編集さんには私を上手い具合にカットしていただきますので!」


〈やったやん、編集スタッフ!仕事増えたぞ!〉


〈マジでご愁傷様ww〉


〈まぁ、これは仕方ないこと。裕哉と逸れたら死ぬからな〉


〈監督から離れろ的な指示をもらってなさそうだから、監督も容認してるんだろう〉


〈編集スタッフにも臨時ボーナスがいるなww〉


 そんな会話をしながら探索をする。


「監督から何か言われましたか?」


「そうですね。『次の戦闘は解説しながらお願いします』とのことです」


「分かりました!」


〈え、裕哉が解説すんの?〉


〈何を?ww〉


〈めっちゃ楽しみなんだがww〉


 そんな会話をしていると、一体のトカゲが前方から現れる。


「グォォォォォっ!」


「っ!」


 俺と手を繋いでいる春山さんの身体が“ビクっ!”と跳ねる。


「春山さん。俺の後ろに回って俺の服を持っててください」


「は、はいっ!」


 俺の指示通り、春山さんが握っていた手を離し、後ろに回って服を掴む。


「では『空飛ぶトカゲ』の討伐方法を解説します」


 俺は「グォォォっ!」と咆哮しながら特攻してくるトカゲを視認しつつ剣を握る。


「飛んでる点は厄介ですが、このように剣を持って待機すると、勝手に俺のもとへ来てくれます」


 そして大きな口を開けて襲いかかってくるトカゲをギリギリまで引き付け、一気に剣を縦に振る。


「はっ!」


 すると、俺に襲いかかってきたトカゲが顔面から真っ二つに切り裂かれ、魔石だけを残して消滅する。


「なので、剣を縦に振るだけで、このように真っ二つにできます」


〈できるかぁぁぁっ!〉


〈ヤベェ、解説してもらったはずなのに何も理解できなかったww〉


〈相変わらず凄すぎww〉


「こんな感じの解説でいいですか?」


「え、えーっと……監督から『もうちょっと詳しく』との指示をいただきましたので……」


「分かりました。もう少し詳しくですね」


 俺は後ろにいる春山さんに返事をすると、再び前方から『空飛ぶトカゲ』が一体現れる。


「グォォォっ!」


「っ!」


 そして、またしても春山さんの身体が“ビクっ”となる。


「大丈夫です。すぐに終わらせますから」


 俺はそう言って剣を構える。


「先程よりも詳しくとのことで、もう少し噛み砕いて解説します」


 俺は口を開いて特攻してくるトカゲを視認しつつ、解説を行う。


「見ての通り、口を開いて無防備に突っ込んできてます。まるで、この口を狙えと言わんばかりに」


〈そう見えるのはお前だけだww〉


〈レッドドラゴンが口を開いて襲ってきたら普通は回避行動を取るんだよww〉


〈カウンターを狙うなんてお前しかできんww〉


「それに加え、トカゲの弱点である鱗の少ない顔から尻尾までの直線上を無防備に晒してます。そのため……はぁーっ!」


 俺はトカゲをギリギリまで引き付け、一気に剣を縦に振る。


 すると、先ほどと同様、トカゲが真っ二つ切り裂かれ、魔石を残して消える。


「こんな感じで瞬殺することができます」


「………わ、わぁー、すごいですね」


〈だからできんてww〉


〈お姉さん見てみろや!遠い目をしてるぞww〉


〈さすがお兄ちゃん!めっちゃ分かりやすいよ!〉


〈ん、素晴らしい解説。これで誰でも簡単にトカゲを瞬殺できるようになった〉


〈だからできんてww〉


「自ら弱点を晒して突っ込んでくれることに加え、一振りで片付けられるので、楽して稼ぐことのできるモンスターですね」


「あはは……」


〈お姉さん、ドン引きしてるからなww〉


〈マジで、この内容がテレビになるとか想像つかんわww〉


〈絶対、情熱⚪︎陸見るわww〉


「監督は何か言ってますか?」


 一通り解説し終えた俺は、監督の指示を聞く。


「そうですね。『あとは出口に向かいながら、現れたモンスターを瞬殺してくれ』って言ってます」


「わっかりましたー!」


〈監督も裕哉の異常さに気づいたかww〉


〈コイツに常識を求めても無駄だからなww〉


〈ただのアホな子ですからww〉


 俺は監督の指示通り、現れるトカゲを瞬殺しながら出口へ向かった。





 あれから数週間後。


「お兄ちゃん!始まるよ!情熱⚪︎陸!」


「ん、急いで」


 ついに情熱⚪︎陸の放送日となった。

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