第74話 裕哉、テレビに出演する 6

〜星野愛菜視点〜


「今日らしいですね。裕哉くんが収録した情熱⚪︎陸が放送される日って」


「らしいよー!楽しみだね!」


 アタシは『閃光』ギルドにいる和歌奈さんと、そんな話をする。


「そういえば、18時からって言ってたから、もう始まるね」


「ちょっと見に行きますか?」


「うん!弟子のテレビデビューだからね!録画してるけど、リアルタイムでも見てみたい!」


 とのことで、アタシらは仕事を切り上げてテレビの前に移動し、テレビを付ける。


 そのタイミングで情熱⚪︎陸の有名なオープニング曲が流れ始め、放送が始まる。


――今日は1流冒険者として活躍されている中島裕哉さんを密着取材。


「始まりましたね」


「うん!」


 ナレーターの声を聞きながら、アタシらは始まったことを確認し、テレビに集中する。


――さっそく、1流冒険者である裕哉さんのダンジョン探索にお邪魔させてもらった。


Q.『今、探索している階層の説明をお願いします』


『今は90階にいます。これから『空飛ぶトカゲ』の討伐を行います』


 テレビの中に映っている裕哉くんがダンジョンを探索しながら、画面に映る質問に対して答えている。


Q.『空飛ぶトカゲとは?』


『空を飛んでるトカゲですね。おそらく、地上で生息しているトカゲの変異種だと思います。いずれ地上にいるトカゲが空を飛ぶかもしれませんね』


「んなわけあるかっ!」


 開始早々、ツッコミを入れたくなる返答が聞こえてくる。


「え、裕哉くん。そんなこと思ってたの?」


「あははっ!さすが私の弟子だね!」


「いや、褒めてないから」


 始まって1分ほどで、この放送に不安を覚える。


Q.『ダンジョンで気をつけていることは?』


『ありませんね』


――1流冒険者にもなれば、気をつけるところは何もないようだ。


「それは裕哉くんだけだ!」


 またしてもツッコミたくなる返答が聞こえてくる。


「1流冒険者だからこそ、気をつけるべきところがたくさんあるんだけど!」


「そうだね。罠や連携、その他いろいろ、気をつけなければいけないことはたくさんあるけど……裕哉くんにはないんだから、いいんじゃないかな?」


「師匠がそんなこと言ったらダメだろ……」


 アタシは隣で視聴している和歌奈さんにボヤく。


Q.『探索中に魔石を獲得し過ぎて持参したカバンに入りきらない時は?』


『特大のキャリーバックを持参して出直します』


――1流冒険者にもなれば旅行気分でダンジョンを探索するようだ。


「だから裕哉くんだけだって!旅行気分でダンジョンに潜ったら普通死ぬわ!」


「魔石を入れるバッグってことはお金を入れるためのキャリーバッグってことだよね?なら旅行気分じゃなくてバイト気分じゃないかな?」


「どっちでもいいわ!」


 真剣な顔で悩んでいる和歌奈さんにアタシはツッコむ。


Q.『今日はカバンを持参されてませんね。なぜでしょうか?』


『今日は収録が目的です。金を稼ぎに来たわけではありませんので、収録以外のことに時間を使うわけにはいきません。だから魔石は放置する、もしくは投げ捨てる予定です』


――さすが1流冒険者。お金よりも収録を選んでくれる心意気に天晴れをあげたい。


「めっちゃ褒めるやん」


「むっ!お金よりも収録を選ぶなんて!レッドドラゴンの魔石は数千万するのに!」


「弟子が素晴らしいこと言ったんだから自慢するところだろ。なんで噛み付いてんだよ」


 和歌奈さんが裕哉くんを誇るタイミングが分からない。


Q.『ダンジョンには罠がある。どうやって探知、もしくは回避してる?』


『探知?罠如きに探知なんてしませんよ。罠が作動したって思ったら避けるだけですから。実際、罠なんて大したことありませんし』


――1流冒険者にもなれば、罠にビビらないようだ。


「だから裕哉くんだけだぁぁぁっ!」


 アタシの声が『閃光』ギルド内に響き渡った。


【まだまだ星野さん視点が続きます】

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