第72話 裕哉、テレビに出演する 4

 そんな感じでさまざまな質問を受けたが、全て春山さんに微妙な顔をされる。


「こんな感じで大丈夫ですか?」


「大丈夫ではありませんが、編集の力で良い感じにします。裕哉さんの視聴者の方たちに見られてますので、裕哉さんの返答を変えるとかはしませんが」


「えーっと……つまり、編集によって面白い感じにするんですね?」


「はい。この返答内容をどのように素晴らしい番組へするかは分かりませんが」


〈裕哉のせいで編集スタッフの長時間労働が確定したな〉


〈ご愁傷様ww〉


〈全ては裕哉が悪いんだ。恨むなら裕哉を恨めww〉


〈てか、絶対人選ミスだろww〉


 そんなやり取りをしていると「グァァァァァっ!」という咆哮が前方から聞こえてくる。


「ひぃっ!」


「大丈夫ですよ、雑魚ですから」


 突然のことでビックリしている春山さんに俺は声をかける。


 すると、前方から赤い鱗に身をまとっている『空飛ぶトカゲ』がやってくる。


「ゆ、裕哉さん!レ、レッドドラゴンですよ!」


 そう言って腰を抜かしたのか、ペタンと地面に座り込む春山さん。


「だ、大丈夫ですか!?」


「む、無理です……う、動けません……」


 どうやら本当に動けないようで、全身を震わせて地面に座り込んでいる。


〈おいっ!あの女性、生きて帰れないんじゃないか!?〉


〈安心しろ。生きては帰れるから〉


〈裕哉がサクッと倒すから安心しろって言いたいが、俺も女性の立場なら安心できず震えてるわ〉


 俺は怪我をしてしまったのではないかと思い「待っててください!すぐに片付けますから!」と春山さんに声をかける。


 そして剣の柄を握り、「はぁーっ!」と声を出しつつ目にも止まらぬ速さで斬撃を飛ばす。


「グォ……ォォ……」


 俺たちまで残り数メートルに迫っていたトカゲが、俺の斬撃を防ぐことができず、顔面から真っ二つに裂かれて魔石となる。


 その様子を確認した俺はすぐに春山さんに駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「………」


 しかし、口を“ポカーン”と開けて固まっている。


〈久々にこのリアクションを見たわww〉


〈裕哉と一緒に潜る人たちは皆、裕哉の化け物さを理解してるからなww。なんか新鮮だわww〉


「はっ!レ、レッドドラゴンは!?」


「トカゲなら魔石になりました。ほら」


 そう言って転がっている魔石を指差す。


 それを見た春山さんが“ガバっ!”と俺に正面から抱きつく。


「!?」


〈〈〈〈はぁ!?〉〉〉〉


「こ、怖かったです……」


 そして涙目になりながら呟く。


「そっ、そうですね。見た目だけは強そうですから……」


 俺は抱きしめられたことにより、セクハラと訴えられないよう、両手を上げる。


「ま、まだ90階で探索を続けるのですか?」


「そ、そのつもりですが……ど、どうしましょうか?」


 俺は涙目になってる春山さんに聞く。


「――を握ってください」


「……え?」


「手を握ってくれたら探索を続けてもいいです……」


 そんな可愛いことを上目遣いで言われる。


〈何この娘、めっちゃ可愛いやん!〉


〈裕哉だけズルくね!?イケメンだからって許されねぇことだってあるぞ!〉


〈お兄ちゃんっ!春山さんにデレデレしすぎっ!〉


〈ん、早急に帰還を命ずる〉


〈裕哉の妹と幼馴染がブチ切れてるぞww〉


〈帰ったら修羅場だなww〉


「わ、分かりました。まだ探索場面の撮影がほとんど終わってないと思いますので……」


 俺は上に上げていた手を下げて春山さんを剥がす。


 そして春山さんの右手を左手で握る。


「こ、これでどうですか?」


「あ、ありがとうございます。これなら怖くありません」


 そう言って春山さんが微笑む。


〈あれ?裕哉たちは何の番組を撮影してるんだ?〉


〈情熱⚪︎陸だぞ。見ればわかるだろ〉


〈恋愛ドラマにしか見えんわww〉


「で、では探索を再開します。モンスターは俺が倒しますので、安心してください」


「はい!」


 先程まで震えていたのが嘘のように元気に応えてくれる。


 その声を聞いて、俺は春山さんに監督からの要望を聞く。


「監督は何か言ってますか?」


「そうですね。『帰ったら臨時ボーナスと特別休暇をやるから、もうちょっとだけ頑張ってくれ』って言ってます」


〈めっちゃ良い上司ww〉


〈これでボーナスがなかったらブラック企業だぜww〉


〈俺たちも応援するから、もうちょっと頑張って!春山さん!〉


「えっ!監督から臨時ボーナスもらえるんですか!分かりました!もう少しだけ頑張ります!」


〈〈〈〈だからお前に言ってねぇよww〉〉〉〉


 そんなことを視聴者がコメントしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る