第71話 裕哉、テレビに出演する 3
結局、95階に行きたい俺と40階に行きたい春山さんの間を取って『空飛ぶトカゲ』が出現する90階に行くこととなった。
〈間を取って90階に行くことになったらしいが……間を取ってんのか?〉
〈取ってねぇよww。どう計算しても90階にはならんww〉
〈その証拠にスタッフの女性を見てみろよ。生気を失ってんぞ〉
〈まぁ、裕哉がいれば死ぬことはないだろう〉
〈死ぬことはないが……死ぬような目には遭うだろうなww〉
俺は90階に来てから一言も喋らなくなった春山さんに話しかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫かと言われれば大丈夫ではないです。本当に私を守ってくれるのですか?」
「もちろんです。春山さんでもトカゲ程度なら倒せると思いますが、今回はスタッフとして俺に付き添ってます。危険な目には遭わせませんし、武器も使わせません。だから、いつでも剣を振り回せるように構えて歩かないでください」
俺はダンジョンに入ってからずっと剣の握っている春山さんに言う。
「わ、分かりました……裕哉さんの実力は把握してますので、裕哉さんの言葉を信じます」
ようやく俺の言葉を信じてくれた春山さんが剣を鞘に納める。
「さて、さっそく探索を始めようと思いますが……監督からは何か指示がありますか?」
「そうですね。『生きて帰ってこいよ』って言われてます。マジトーンで」
〈めっちゃ良い上司ww〉
〈同情してくれてるやんww〉
「俺たちの身を本気で心配してくれるんですね。監督さんに伝えてください。『俺、絶対無傷で帰りますから安心してください!』って」
〈お前のことは心配してねぇよww〉
〈スタッフの女性に言ってるんだよww〉
「え、えーっと……裕哉さんの声はドローンカメラが拾ってくれるので私が伝える必要はありませんよ?」
「あ、そうですね。うっかりしてました」
自分が配信している時もドローンカメラが音声を拾ってくれることを完全に失認していた。
「で、では、早速質問させていただきます。早くお家に帰りたいので」
「思ってることをストレートに言いますね」
普通、仕事が面倒で帰りたくなっても口にはしないと思う。
しかし、そんな俺の発言を無視して春山さんは質問をする。
「こほんっ、ではさっそく質問させていただきます。ダンジョンで気をつけていることとかありますか?」
「ありませんね」
「………」
〈コイツ、ダンジョンに設置されてる罠にビビってないからなww〉
〈モンスターと出会い頭に鉢合わせても瞬殺できるぞww〉
〈そりゃ、ダンジョンで気をつけることなんかなんもないわなww〉
「え、えーっと……本当にないのですか?」
俺の返答が取れ高的にダメだったのか、再度質問される。
そのため絞り出すように考えると、1つだけ注意してたことを思い出す。
「あ、1つありました!」
「はい!なんでしょうか!?」
「ダンジョンでトイレはできないので、絶対に探索する前にトイレへ寄ることですね。毎回、心の中で『トイレ大丈夫か?』って問いかけるよう心がけてます」
「………」
〈求めてた返答と違うって顔してるぞww〉
〈コイツに一般的な答えを求めるなww〉
〈映画館で映画を視聴する前の注意点かっ!〉
「え、えーっと……ありがとうございます。次に探索中に魔石を獲得し過ぎて持参したカバンに入りきらないということがあると思います。そんな時はどうしてますか?」
「特大のキャリーバックを持参して出直します」
「………」
〈旅行かっ!〉
〈ダンジョンにキャリーバックを持ってく人はお前くらいだww〉
「え、えーっと……今日はカバンを持参されず、剣しか持ってませんね。なぜでしょうか?」
「そうなんですよ!よく気がつきましたね!」
「剣だけ持ってダンジョンに行く人なんて裕哉さんか自殺志願者しかいませんよ」
〈ホントそれww〉
〈普通はポーションや予備の武器を持ってるからなww〉
〈それにバックに魔石を入れる必要もあるぞww〉
「カバンを持ってませんので、獲得した魔石はどうされてるんですか?」
「放置してます。もしくは投げ捨ててますね」
「数千万の魔石を……」
俺の発言に絶句している春山さん。
〈高純度な魔石があれば現代日本に莫大な利益を生むんだが……コイツのせいで日本が衰退してるなww〉
〈誰か裕哉にキャリーバックを持たせろやww〉
〈てか、投げ捨てるってなに!?〉
そんな感じでさまざまな質問を受けたが、全て春山さんに微妙な顔をされた。
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