第69話 裕哉、テレビに出演する 1

 ギルド対抗戦を終え、女装してドラ⚪︎ンボールを探した数日後。


 俺のもとに、とあるお話が届く。


「え、テレビ出演ですか?」


「そうだよー!裕哉くんに出演してほしいって番組からお願いされたんだー!」


 俺が所属する『閃光』ギルドのマスターで、俺の師匠である和歌奈さんが言う。


「仕事内容は裕哉くんの一日密着取材!裕哉くんを1日密着して番組を作るんだって!ちなみに出演番組は情熱⚪︎陸だよ!」


「おぉ!情熱⚪︎陸ですか!」


 情熱⚪︎陸とは1人の人物にスポットを当て、その人物・グループの魅力・素顔に迫る人間密着のドキュメンタリー番組だ。


「是非お願いしますって言われたんだけど、どーする?」


「もちろんやります!」


「裕哉くんならそう言うと思ってたよ!私が了承した件を伝えるから、詳しいことはまた連絡するね!」


 とのことで、俺の情熱⚪︎陸の出演が決まった。




 その後、日程等の調整が終わり、撮影日が近づく。


「お兄ちゃん!明日、スタッフさんが来て撮影を始めるんだよね!」


「あぁ!ビシッとした服装でカメラに映る予定だ!」


「………このスカートとか?」


「うん、流れ的に女物の服を持ってくると思ってたよ」


 紗枝が持っているスカートにジト目を向ける。


「とりあえず今回の撮影は女装なんかしない方向だ!」


「番組側が要求してきたら?」


「…………着ないな」


「コレは絶対着るね」


 俺の反応にクスクスと笑う美月と紗枝。


「う、うるさいっ!とにかくお前たちは黙っとけよ!」


「ん、ヤジは任せて」


「完璧にこなしてみるよ!」


「黙っとけって言ったんだよ!」


 そんな感じで撮影当日を迎えた。




〜春山静香視点〜


 私の名前は春山静香はるやましずか、25歳。


 情熱⚪︎陸のスタッフを務めており、今回の仕事は中島裕哉さんのサポート。


 つまりマネージャーのような仕事となる。


「初めて任された大役です。失礼のないように振る舞いましょう」


 出演者をサポートする仕事は初めてということで緊張してる私。


「よしっ!頑張るぞ!」


 私は自宅にある鏡の前で自分の頬を叩き、家を出た。




 私は監督やスタッフなどの人たちと一緒に裕哉さんの自宅を訪れる。


 そして監督たちと同じように自己紹介を行う。


「私は春山静香です。撮影終了まで裕哉さんの身の回りのお世話をさせていただきます。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。春山さん」


 そう言ってお辞儀をした後、爽やかな笑顔を見せる裕哉さん。


 巷で女装すれば美少女と呼ばれている裕哉さんだけあって、顔立ちは整っており、とてもカッコいい。


「うわぁ。なんかユウが別人に見える」


「お兄ちゃん、朝から鏡の前で髪の毛のセットと爽やかな笑顔の練習をしてたからね。控えめにいってドン引きしてるよ」


 しかし、裕哉さんの妹と幼馴染には不評のようだ。


「今日の予定を説明させていただきます」


 私は2人のドン引き具合を疑問に思いつつ、裕哉さんに撮影の流れを説明する。


「裕哉さんにはダンジョンに潜っている場面の撮影と、インタビューをさせていただきます。さっそくですが、ダンジョンに潜っていただいてもよろしいでしょうか?」


「問題ありませんよ。事前に聞いてましたので準備もできてます」


 裕哉さんが頷き準備した荷物を持つ。


「ダンジョンに潜る時は春山さんが俺と一緒に潜ってくれると聞いてます。カメラは春山さんが持つんですか?」


「いえ、カメラはドローンが担ってくれますので、カメラマンはいません。私は裕哉さんのサポートと、別の場所で見ている監督からの指示を裕哉さんに伝える役割を担います」


 私は耳につけているインカムを裕哉さんに見せつつ話す。


 ダンジョンに潜ってる際はインカムを監督と繋ぎ、適宜監督の出す指示を裕哉さんに伝えることとなっている。


「大人数でダンジョンに入るのは危険ですからね。潜るのは私と裕哉さんだけです」


 そう伝えると「たしかに」と言って納得する裕哉さん。


「私はある程度なら戦う力を持ってます。なので裕哉さんは私のことを気にせずダンジョンを探索していただきたいと思います」


 今回、私がマネージャーに抜擢された理由はコレだ。


 自慢ではないがC級モンスター程度なら1人で倒せる力を持っており、情熱⚪︎陸のスタッフとして働きながら、小遣い稼ぎとして休みの日はダンジョンに潜っている。


「分かりました」


 そう私に返答した後、妹と幼馴染へ一言声をかける裕哉さん。


「じゃあ、行ってくるよ。今回のダンジョン探索で俺も配信していいって許可をもらってるから、あとで視聴してくれ」


「ん、気をつけて。春山さんに迷惑かけないように」


「お兄ちゃん、張り切りすぎないでね!」


 私と裕哉さんは妹と幼馴染の言葉を聞きながら家を出た。

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