第66話 シェ⚪︎ロンに願いを叶えてもらおう! 2

「ユウ、女装して98階に行ってきて」


「女装したらドラ⚪︎ンボールが見つかるかもしれないからね!」


 そんなことを笑いながら提案される。


「嫌だね。俺は2度と女装なんてしない」


「またまた〜、私たちが買った女物の服を未だに保管してるくせに」


「ん、美月の言う通り。男のツンデレなんて今どき需要ないから素直になるといい」


「お前らが捨てさせてくれないんだよ!」


 俺が大事に女物の服を保管してるように言わないでほしい。


「お兄ちゃん、よーく考えて。ドラ⚪︎ンボールが見つかるかもしれないんだよ?」


「ユウの脳みそでも考えれば分かる。女装すべきということが」


「よく考えても理解できねぇよ!」


 声をあげてツッコミを入れる。


 しかし、そんな俺を無視して2人が口を開く。


「ユウは以前、ドラ⚪︎ンボールが出現する条件があるかもしれないと言った」


「あー、そういえばそんなこと言ったな」


 初めて美月たちにシェ⚪︎ロンを見せた時にそんなことを言った気がする。


「うん!だから女装したら出現するかもしれないよ!」


「いや、そんなわけない……」


「って言い切れないよね?」


「うっ!」


 美月の指摘通り、完全には否定できない。


 そのため、言葉に詰まり固まってしまう。


「ユウ、この服ならドラ⚪︎ンボールの方から寄ってくるはず」


 そんな俺に紗枝が何処かから取り出した女物の服を俺に手渡す。


「さすが紗枝さん!その服なら似合いすぎて勝手にドラ⚪︎ンボールがお兄ちゃんの前に転がってくるよ!」


「その服は磁石でも仕込まれてるのか?」


 どうやら紗枝が取り出した服はドラ⚪︎ンボールを引き寄せる服らしい。


「はぁ。今回だけだぞ。実際、完全に否定はできないからな」


 俺は2人に負けて渋々女物の服を手に取る。


「やった!これでシェ⚪︎ロンに願いを叶えられるよ!ありがと、お兄ちゃんっ!」


「ありがと、ユウ」


 そんな俺に満面の笑みで感謝の言葉を口にする。


(この笑顔があるから最終的に引き受けてしまうんだよな。ほんと、反則的な可愛さだと思う)


 そんなことを思いつつ、俺は紗枝から手渡された女物の服を持ち、ダンジョンへ向かった。




 近くのトイレで女装した俺はダンジョン配信を始める。


「着替えたぞ」


〈おー!お兄ちゃん、似合ってるよ!〉


〈ん、ユウ。とても可愛い〉


 俺の一言にずっと待機していた美月と紗枝が反応する。


〈お、今日は裕哉ちゃんか。2度と女装しないとか言ってたのに〉


〈久々の裕哉ちゃん!相変わらず似合ってるよ!〉


 そして続々と俺のチャンネルを登録している人たちが視聴し始める。


〈今日はなんで女装してるんだ?〉


「話すと長くなるが、ちゃんとした理由がある。決して俺が女装したかったわけじゃないぞ」


〈でたーっ!お兄ちゃんのツンデレ!女装したくてウズウズしてたくせにっ!〉


〈女物の服を捨てず、大事そうにクローゼットに保管してるくせに〉


「違うわ!お前らが捨てさせてくれないんだよ!」


〈え、裕哉ちゃん、女装したくてウズウズしてたの?可愛いかよ〉


〈それならそう言ってくれよ。俺たちはいつでも裕哉ちゃんを見るからさ〉


「やかましいわっ!」


 そして視聴者が悪ノリしてくる。


「こほんっ!とにかく、今日は女装しなきゃいけないんだ!」


〈ごめんて。もう話を脱線させないから女装した理由ってやつを1から説明してくれ〉


 視聴者から説明を求めるコメントが多く見られ、俺は1から説明する。


「話すと長くなるが、まず今から潜る階層は98階だ」


〈98階かよww〉


〈サラッと言うのをやめてほしいww。98階に行ってる人見たことないからww〉


「で、98階に出てくるモンスターがシェ⚪︎ロンだ。色違いの」


〈ちょっと待てww。ツッコミどころしかないわww〉


〈シェ⚪︎ロン出んの!?世界滅ぶだろ!〉


〈唐突にドラ⚪︎ンボールが混ざってるんだけどww〉


「でだ。ダンジョンでシェ⚪︎ロンが現れたとなればやることは1つしかない」


〈討伐だろ。ダンジョンで出てくるモンスターなんだから〉


〈お願い事してる場合じゃないからな。そんなことしてる間に殺されるわ〉


〈てか、そもそもダンジョンのモンスターだから願いを叶える力なんてないだろ〉


〈だな。ドラ⚪︎ンボールのシェ⚪︎ロンに似てるだけだろ〉


「そう、みんなも思っている通り、願い事を叶えてもらうんだ」


〈〈〈そんなこと微塵も思ってねぇよww〉〉〉


〈誰1人としてそんなコメントしてないわww〉


「だが、98階層に登場するシェ⚪︎ロンには願いを叶える力がない。毎回、願い事を言っても無視して襲いかかってくるからな」


〈当たり前だww〉


〈モンスターなんだから襲ってくるに決まってるだろww〉


「そこで俺たちは考えた。98階のどこかにドラ⚪︎ンボールが落ちているのではないかと」


〈落ちてねぇよww〉


〈7個どころか1個もないわww〉


「そのため、俺たちは必死に探した。だが、1つも見つからなかった」


〈でしょーね!〉


〈探す前に気づけよww〉


「だから今度はドラ⚪︎ンボールを見つけるために条件があるのではないかと考えた」


〈なんでそうなるww。探すの諦めろよww〉


〈相変わらず思考回路が理解できねぇww〉


「そしてその条件に女装があるのではないかと思った。だから俺は女装してるんだ。俺が女装したくてしてるわけじゃないからな」


〈うん、とりあえず、お前たちがバカだということは理解した〉


〈〈〈〈上に同じ〉〉〉〉


 そんなことを視聴者全員が言っていた。

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