第65話 シェ⚪︎ロンに願いを叶えてもらおう! 1

 初めてのダンジョン配信から数日後。


「みんな、シェ⚪︎ロンへの願い事は決まったか?」


「うん!バッチリだよ!」


「ん、一つに絞るのが大変だったけど、なんとか決まった」


「よし!なら、今から俺がシェ⚪︎ロンに会ってくるから、その願いを叶えるぞ!」


「「おー!」」


 俺は美月と紗枝に見送られてダンジョンを目指した。




「見えるかー?」


〈見えるよ!〉


〈ん、声も聞こえる〉


 まだ配信を始めて数回程度なので、繋がっているかをしっかり確認する。


 ちなみに俺のチャンネル登録者数は未だに『2』だが、有名になろうとは思ってないので全く気にしてない。


「今からシェ⚪︎ロンがいる98階に行く。そこで98階層のどこかに転がっているドラ⚪︎ンボールを7個集める。2人とも探すのを手伝ってくれ」


〈りょーかいっ!〉


〈ん、注意深く見とく〉


「よし!じゃあ98階へ行くぞー!」


〈〈おー!〉〉


 俺は98階層へ向かった。




 98階層へ到着する。


「ここにはたくさんのシェ⚪︎ロンが存在する」


〈ってことは、シェ⚪︎ロンに会うことは簡単にできるんだね!〉


「あぁ。だが、シェ⚪︎ロンに出会っても願いを叶えてくれない。だから、まずはドラ⚪︎ンボールを7個集めるぞ」


 というわけで俺たちはドラ⚪︎ンボールを探しに98階を散策する。


 しばらく歩くと…


「グァァァァァっ!」


 と、前方から青い龍が現れる。


〈わっ!お兄ちゃん!シェ⚪︎ロンだよ!シェ⚪︎ロンが現れたよ!〉


〈ん、本当にシェ⚪︎ロンだ。でも突然夜になったり雨が降り出すとかの演出はないんだ〉


 色は青と緑で違いはあるが、シェ⚪︎ロンに似てる龍ということで盛り上がっている。


 また、2人とも強力なモンスターといった風格をしている青い龍を見ても俺に逃げるよう注意喚起しない。


 それどころか、2人ともシェ⚪︎ロンを見て色々コメントしている。


 以前俺が言った「見た目に騙されるな」との言葉を信じ、俺が慌てない限り初見のモンスターでも雑魚モンスターだと思うことにしたようで、最近の配信では一度も逃げるように注意喚起されていない。


「夜になるとかの演出はドラ⚪︎ンボールを7個集めたらあるんだろう。現れる度に雨なんか降られたら誰もこのフロアに来なくなるからな」


〈確かに、誰も来なくなる〉


 そんな感じでシェ⚪︎ロンを目の前にして呑気に会話をしている。


 そんな俺にブチ切れたのか「グァァァァァっ!!!」と先ほどよりも大きな咆哮をあげる。


〈お兄ちゃん!シェ⚪︎ロンがキレてるよ!〉


〈はよドラ⚪︎ンボールをよこせって叫んでる。ユウ、あとで来るからそこで待っててって伝えて〉


「そうだな」


 俺は紗枝のコメント通り、シェ⚪︎ロンに一言伝える。


「シェ⚪︎ロンよ、またあとで来るからそこで……っておいっ!いきなり炎を吐くのはなしだろ!」


 シェ⚪︎ロンと対話を行うも、無視して俺にブレスを放ってくる。


 それを俺は間一髪で躱す。


〈あははっ!お兄ちゃん弄ばれてるよ!〉


〈ユウ、シェ⚪︎ロンは神様。そんな態度じゃ失礼。もっと礼儀を持って接しないと〉


「た、確かにっ!」


 戦闘中にも関わらずコメント欄を見た俺は、さっそく実行に移る。


 紗枝の提案通り、剣を鞘に納めた俺は丁寧な言葉で話しかける。


「シェ⚪︎ロン様。どうか我の願いを……って!だから炎を吐くなよ!」


 丸腰の俺に容赦なくブレスを吐いてくるシェ⚪︎ロン。


〈お兄ちゃん!ドラ⚪︎ンボールを集めろってよ!〉


〈だから、このシェ⚪︎ロンは放置してドラ⚪︎ンボール探しに行こ〉


「そうだな。ドラ⚪︎ンボールを持ってこないと話すらしてくれないみたいだ」


 といった結果になったので、シェ⚪︎ロンを放置することにする。


「またあとで来るから……うん、分かってた。俺を放ってはくれないよね」


 踵を返してその場から離れようとするが、シェ⚪︎ロンはそんなことをさせてくれない。


〈お兄ちゃん、シェ⚪︎ロンが突っ込んで来たよ!〉


〈ん、トカゲみたいに瞬殺よろしく〉


 俺は突っ込んでくるシェ⚪︎ロンを視認し、鞘に納めている剣の柄を握る。


 そして引き抜く。


「はぁーっ!」


 すると、シェ⚪︎ロンが顔面から真っ二つに割れ、「グォ……ォォ……」という弱弱しい声をあげて力尽きる。


〈すごいよ!お兄ちゃん!シェ⚪︎ロンって強そうなのに瞬殺だよ!〉


〈冒険者成り立てのユウに瞬殺されるって弱すぎ。コイツ、本当に願いを叶えてくれるの?〉


「ははっ、確かに弱くて叶えてくれるか分からんが、見た目はどこからどう見てもシェ⚪︎ロンだ。きっと条件が整えば願いを叶えてくれるさ」


〈確かに、まだユウはドラ⚪︎ンボールを集めてない。さっそく集めに行こ〉


〈だね!〉


 その後、俺たちはドラ⚪︎ンボールを探しに歩き回る。


 その際、ボール探しの邪魔をしてくるシェ⚪︎ロンをたくさん魔石へと変える。


 しかし…


「だぁーっ!ドラ⚪︎ンボールが落ちてねぇ!」


〈こんなに探しても一個もないってことはドラ⚪︎ンボールなんて落ちてないのかな?〉


〈その可能性はある。それか、まだ達成できてない条件があるとか〉


「達成できてない条件か……」


〈ん、例えば裸でドラ⚪︎ンボールを探すとか〉


「そんなのできるかっ!」


 俺はすぐさまツッコミを入れる。


〈今のは冗談。でも、こんな感じの条件があるかも〉


〈お兄ちゃんが女装するとかね!〉


「それもしねぇよ!」


〈例えばだよ、お兄ちゃん!これも冗談だから!〉


〈でも面白そうだからやってほしい〉


〈ねー!〉


 “ゲラゲラ”と笑っていることが容易に想像できる。


「まぁ、条件は追々考えるか。とりあえず今日は諦めて帰ろう」


 98階層をひたすら歩き、シェ⚪︎ロンをひたすら魔石へと変えただけのダンジョン配信だった。





 時は現代に戻り、ギルド対抗戦が終わり、裕哉ちゃんとして有名になった頃。


「ユウ、女装して98階に行ってきて」


「女装したらドラ⚪︎ンボールが見つかるかもしれないからね!」


 そんなことを笑いながら提案された。



【まだまだ続きます】

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