第63話 初めてのダンジョン配信 1

 これはギルド対抗戦が行われる前。


 俺が初めてダンジョン配信を行った日の話。




「お兄ちゃん!最近毎日ダンジョンに潜ってるね!」


「あぁ。和歌奈さんから1人で潜って良いとのOKが出たからな。合格をもらってから毎日潜ってるぞ」


 少し前に師匠である和歌奈さんから指導を受け、受けたその日に和歌奈さんからOKをもらい、最近は毎日1人でダンジョンに潜っている。


「なら、ダンジョン配信も始めて良いってこと?」


「あぁ!機材もバッチリ買ってるぞ!」


 俺は紗枝からの質問に先日買ったドローン型のカメラを見せる。


「おー!これでお兄ちゃんもダンジョン配信者だね!」


「あぁ!これでお前ら2人にダンジョンがどんなところか、見せることができるぞ!」


 この世界ではダンジョンに入れるのはダンジョン内に充満している魔素に適合した人だけ。


 そのため、適合できずダンジョンに入ることができない妹の美月と幼馴染の紗枝に、前からダンジョンがどんな場所か見せたかった。


「さすがお兄ちゃん!私たちのお願いを叶えてくれるなんて!ありがとー!お兄ちゃんっ!」


「ユウ、ありがと」


 10人すれ違えば10人が振り返るほどの美少女である2人から笑顔で感謝され、嬉しい気持ちとなる。


「2人ともダンジョンの中が見たいって言ってたからな。さっそく、今から行ってくるわ」


「うんっ!チャンネル登録して待ってるね!」


「ん、楽しみにしてる」


「あぁ!行ってくる!」


 こうして俺は初めてのダンジョン配信に向かった。




「こほんっ!聞こえるか?」


〈バッチリだよ!〉


〈ん、ユウの顔も見える〉


「よしっ!成功だ!」


 無事、大手動画サイトに配信できていることに安堵する。


(2人とも、ダンジョン配信を見るなら俺のがいいって言ってくれた。2人が楽しめるような配信をしよう!)


 ダンジョン配信ブームである現在、配信をしている冒険者はたくさんいるが、2人とも初めては俺の配信がいいと言って、頑なに他の人が配信している動画を見なかった。


 そのことを嬉しく思いつつ、俺はチャンネル登録者数を確認する。


 そこには『2』という数字が見えた。


 俺はダンジョン配信で有名になろうとは微塵も思ってないため『チャンネル登録者数2』という数字が全く気にならない。


 むしろ『2』という数字が俺たちだけの秘密のようで、嬉しく思う。


「よしっ!じゃあ、さっそく潜るぞ!」


〈〈おー!〉〉


 俺は2人に声をかけて、80階へ向かった。




 80階へ到着する。


「ここは斧を持った牛が出るフロアだ」


〈斧を持った牛かー。どんなモンスターか全く想像できないね〉


〈ん、4足歩行の牛が斧を持つ時点で理解不能。どこで斧を持ってるの?〉


〈それ私も思った!口で咥えてるのかな?〉


〈案外、尻尾が斧になってたりして〉


 そんな2人のやり取りに自然と笑顔が溢れる。


「ははっ、それは見てのお楽しみだ」


 俺は2人に声をかけて牛を探す。


 すると、簡単に牛を発見する。


「あれが斧を持った牛だ」


〈えっ!2足歩行してる!?〉


〈ん、しかも斧がバカみたいに大きい。ユウ、大丈夫なの?〉


「あぁ。あれは雑魚モンスターだから問題ない。心配するな」


 そう伝えるが、実際のモンスターを初めてみた2人からコメントがなくなる。


(さすがに大丈夫と言っても分からないよな。だから、雑魚だということを証明するか)


 俺は斧を構えて攻撃を仕掛けている牛へ、持てる力を全て発揮して距離を詰める。


 そして、“ザシュッ”と一瞬で首を刎ねる。


「この牛は見た目に反して雑魚なんだ。だから2人とも気楽に視聴してくれ」


 俺がカメラに向けて笑顔で伝えると…


〈さすがお兄ちゃんっ!私、お兄ちゃんの動きが見えなかったよ!〉


〈ん、私もビックリ。もしかして冒険者ってユウみたいにみんな素早く動けるの?〉


「おそらくみんな俺よりも素早いはずだ。だって俺はダンジョンに潜り始めて1ヶ月も経ってない新参者。だからベテランにもなればもっと速く動けるはずだ。まぁ、俺は和歌奈さん以外の冒険者に会ったことないが」


〈へーっ!じゃあ、この牛は新参者でも倒せるくらいの雑魚ってことなんだ!〉


〈そうらしい。ほんと、見た目に反して雑魚かった〉


「ははっ!実際、ダンジョンに現れるモンスターなんてそんなもんだ。『空飛ぶトカゲ』にも出会ったんだが、見た目に反して雑魚かったし」


〈へー!トカゲが空飛んでるんだ!見てみたい!〉


〈ん、私も気になる〉


「よしっ!ならちょっと会いに行ってくるか!」


〈〈おー!〉〉


 俺は80階から出るため、80階フロアボスを倒しにフロア内を歩く。


 すると、俺の足が罠を踏んだことを察知する。


 そして“ドカンっ!”という激しい音と土煙が舞う。


〈お兄ちゃんっ!〉


〈ユウっ!〉


 そんな光景を見て、俺を心配するコメントをあげる。


 しかし、俺は傷など負っていないので、大丈夫なことを伝える。


「2人とも大丈夫だ。俺は無傷だから」


 2人に怪我がないことを伝えるため、カメラの正面へ移動してその場でジャンプする。


〈良かったぁ。かなり大きな爆発だったから〉


〈ん、ユウが怪我したかと思った〉


「ははっ、あれくらいじゃ怪我なんてしないよ」


〈もしかして、あの爆発を喰らってダメージゼロだったの?〉


「いや、そんなことはないぞ。俺は『罠を踏んだっ!』と思った瞬間に前方へダッシュしたんだ。それで罠を回避した」


〈へー!そんな回避方法があるんだ!〉


〈ん、私はてっきり罠を発見したらトレジャーハンターみたいに解除するのかと思ってた〉


「その方法も教えてもらったんだが、全く理解できなくてな。だから和歌奈さんから『“罠が作動した!”と思った時はダッシュで逃げてね』って教わった」


〈へー!和歌奈さんが言うんだったら、その回避方法が1番正しいんだね!〉


〈ん、勉強になった〉


「そんわけで地面で大爆発が起きても安心してくれ」


〈わかったー!〉


〈ん、これからは慌てない〉


 そんな感じで、俺は80階フロアボスを瞬殺し、『空飛ぶトカゲ』のいる90階を目指した。

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