3章 間話という名のダンジョン配信
第62話 『木よ、永遠に眠れ』作戦
【3章開始】
「じゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい!お兄ちゃん!」
「ん、あとで美月と視聴するから」
俺は妹の美月と幼馴染の紗枝に一言かけて、家を出る。
今日は掲示板で予告した通り、『木よ、永遠に眠れ』作戦を実行する予定だ。
俺はホームグラウンドと言っても過言ではない最寄りのダンジョンへ足を運び、配信の準備をする。
「繋がったかー?」
〈繋がったよー!〉
〈ん、バッチリ〉
俺の問いかけに待機していた美月と紗枝が返答してくれる。
〈待ってたぜ!裕哉!今日も面白そうなことするらしいな!〉
〈木をひたすら伐採するんだって?そんなの見なきゃ損だろ!〉
そして俺のチャンネルを登録している人たちも続々と視聴を開始する。
「皆さん、視聴ありがとうございます」
〈ん?今日は女装してないのか?〉
〈裕哉ちゃんを見れると期待してたんだが……〉
「当たり前です!女装してダンジョン潜るなんて2度しませんから!」
俺は嬉々として女装してるわけではないので、普段通り男物の服を着て探索に臨む。
「こほんっ!というわけで、今日は木を伐採するだけの配信を行います」
との前置きを言い、簡単に経緯を説明する。
ギルド対抗戦の決勝戦で、木が大量にあったことで俺が美柑のもとに駆けつけるのが遅れたこと。
大量の木がなければ美柑が大怪我を負わなかったことを伝える。
「なのでダンジョンにある木を全て伐採することにしました」
〈うん、言ってることは理解できるが……確かダンジョンの木ってそう簡単に伐採できないだろ?〉
〈あぁ。並の冒険者じゃ傷付けることもできない。強力な攻撃を誇るモンスターが攻撃してやっと傷つくレベルだ〉
〈まぁ、裕哉なら伐採できるだろうが〉
〈さて、どんな配信になるか楽しみだ〉
「というわけで、早速ダンジョンに潜ります」
俺は初めに80階を選択し、牛が大量に出現するエリアに到着する。
「ここには大量の木があります。しかも出現するモンスターは斧を持った牛です。きっと斧を使って伐採の手伝いをしてくれるでしょう」
〈そんなわけあるかww〉
〈ミノタウロスが持ってる斧は木を伐採するためじゃねぇよww〉
〈冒険者を攻撃するための武器だよww〉
「では、さっそく伐採しますか」
俺は目の前にある数十本の木を視界に捉える。
「はぁーっ!」
そして視認が難しいほどのスピードで剣を横に振り抜く。
“ザクザクザクっ!”という音と共に、目の前にある数十本の木が様々な方向に倒れる。
その時の衝撃で“ドドドっ!”という音が鳴り響く。
〈うん、分かってた。ダンジョンにある木を簡単に伐採することは〉
〈いや、すごすぎww。普通できんてww〉
「確かにコレをすればすぐに美柑のもとへ駆けつけることができたな」
さっきまで木が大量にあって動きにくかったが、今は木が転がっているだけの更地になっており、移動しやすさが格段に上がっている。
「さて、この調子でどんどん伐採するか……っと、その前に、音がうるさかったから牛が集まってきたな」
視界も良くなったことで牛が俺を発見し、攻撃を仕掛けてくる。
「せっかく斧を持ってるんだから、俺じゃなくて木を攻撃してくれよ」
「はぁ」と呟きつつ、俺は特攻を仕掛けてくる数体の牛を魔石へと変える。
〈作業のようにA級モンスターを倒してるんだが〉
〈相変わらず半端ねぇな〉
〈危機感なくミノタウロスを倒す奴は裕哉くらいだろうなww〉
「さて、邪魔者も減ったし、伐採の続きをするか」
その後も俺は80階層で伐採の続きを行う。
そして15分ほどで80階層にある全ての木を伐採し終わる。
「よし!80階終了!次だな!」
俺は地道に階段を使い、81階、82階……とフロアにある木を全て伐採する。
順調に進んでいる中、とあるコメントを視聴者からもらう。
〈そういえば、ダンジョンって破壊されても再生するだろ?もしかして、裕哉が伐採した木も再生してるんじゃないか?〉
「な、なんだと!?」
確かに壁や地面を傷つけた際、時間が経過することで回復する。
「も、もしかして、俺がやったことって無駄だった……とか?」
〈可能性はあり得るぞ。木こりの爺さんみたいにひたすら木を伐採する行為が無駄だったかもしれねぇ〉
〈木こりの爺さんは数十本の木を一瞬で伐採しないがww〉
「今日一日が無駄だったとか嫌なんだが!」
俺は確認するため、すぐに80階へと戻る。
すると、見事に再生している木々が視界に入る。
「復活しとるぅぅぅっ!」
〈あははっ!ドンマイ、お兄ちゃん!〉
〈ユウの頑張りが無駄になった……ぷぷっ……それだけでいつもよりお菓子が美味く感じる〉
〈めっちゃ笑われとるやんww〉
〈しかも裕哉の絶望を肴にしとるしww〉
〈というわけで、もう一回、全ての木を伐採してみようね!お兄ちゃんっ!〉
〈ん、もしかしたら次は復活しないかも……ぷぷっ!〉
〈そして再び木こりを命じられとるしww〉
〈お前の妹と幼馴染、鬼かよww〉
「くそっ!良い方法だと思ったのにっ!」
俺は目の前の木を殴り、悔しがる。
すると、とあるコメントが目に入る。
〈伐採した木をダンジョン外に持ち出せば復活しないかもしれねぇぞ〉
「た、確かにっ!」
伐採した木が側に落ちていたから復活したかもしれない。
その可能性があると思い、俺は伐採した木をダンジョン外に持ち出すことを計画する。
急いで目の前の木を伐採し、伐採した木を持つ。
そしてダンジョンから出るために80階層のフロアボスを一瞬で倒す。
「さて、あとはダンジョンから出るだけだな」
俺はフロアボス討伐後に出現する脱出ゲートが現れたことを確認し、ゲートに向かって歩く。
〈おい、実際にダンジョン外へ木を持ち出すことができれば革命的やね?〉
〈確かに。世の木材不足が一気に解消されるぞ〉
〈裕哉はその凄さに気づいてなさそうだがww〉
俺は木を持ってゲート前に行き、一歩踏み出してゲートを通過する。
しかし…
『持ち出し不可の物を所持しております。そのため脱出できません』
というアナウンスが聞こえる。
「っ!やっぱりダメかよ!」
〈だよな。分かってた。持ち出すことができれば革命的なことが起こるからな〉
〈人類のためには持ち出せた方が嬉しかったんだが〉
無理だったようなので仕方なく木を投げ捨てる。
「くそっ!木を全て伐採するのは不可能かよ!」
俺は悔しさのあまり地面を叩く。
〈お兄ちゃん!諦めたらダメだよ!〉
〈ん、木が無限に再生するとは限らない。何度も伐採し続ければいずれ再生しないかもしれない〉
「っ!た、確かにっ!さすが美月と紗枝だ!」
俺は2人の言葉で立ち上がる。
〈いや、無理だろww。ダンジョンのシステム上、永遠に復活するんだよww〉
〈諦めろww。マジで時間の無駄だww〉
「何を言ってるんだ、君たち。かの有名なバスケ部顧問の安⚪︎先生が言ってたじゃないか。『諦めたらそこで試合終了ですよ?』って。だから俺は諦めない。絶対、木を全て伐採してやる!」
そう応えた俺は、嬉々として木こり作業を再開した。
その後、ひたすら木こり作業を行った結果、木が永遠に復活するという事実を痛感した俺は『木よ、永遠に眠れ』作戦を泣く泣く断念した。
俺の24時間を返せと本気で思った。
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