第45話 底辺配信者、ギルド対抗戦に参加する。6

「よし、これで5体は討伐完了っと!残り25体!余裕だな!」


 そんなことを呟きつつ、俺は探索を再開する。


 50分後…


「虎がいねぇぇぇぇ!!!!」


 俺はダンジョンの中で叫んでいた。


 最初の5匹は順調だったため、体力温存という観点から小さい声で虎を呼びつつ歩くが、50分くらい歩いても虎に遭遇しない。


 そのため、残り時間が2時間となる。


〈お前から白虎が逃げてんだよ〉


〈S級モンスターが逃げるってヤバすぎww。裕哉ってSSS級モンスターとかだろww〉


〈その説あり得るわww〉


〈モンスターの卵から産まれたって言われても納得できる強さだからなww〉


「おーい!虎さーん!ここに獲物がいますよー!」


 と、全力で叫んでみても現れない。


 現状では1時間で5体しか討伐してないため、このままのペースだと3時間で15体しか討伐できず、和歌奈さんからの罰ゲームが待ってる。


 なにより、愛菜さんたちに迷惑をかけてしまう。


「ヤバい!虎を討伐できてないから全然ポイントを稼げてない!このままじゃ愛菜さんたちの足を引っ張ってしまう!」


〈安心しろ。ポイントの合計はお前が断トツでトップだ〉


〈白虎を30体討伐したら『閃光』ギルドの合計ポイント、凄まじいことになるぞ?〉


〈裕哉以外は80階でA級モンスターのミノタウロスを討伐してるからな。過去最高記録を作り上げる勢いだ〉


「ヤバい!余裕だと思ったけどヤバい!」


 その結果、どんどん焦りが現れる。


「仕方ない!こうなったらアレをやるしかない!」


 そう思い、俺はアレを披露する準備を始める。


〈おい、アレとか言い出したぞ〉


〈何するかは知らんが、理解不能なことをするのだけは分かる〉


〈きたー!お兄ちゃんのアレ!久々に見るよ!〉


〈ん、ユウがアレを披露するのは久々。視聴者のみんなはラッキーだと思って。今日はきっといいこと起こる〉


〈レアイベントかよ〉


〈めっちゃ楽しみなんだがww〉


「自ら殺されに来るのは虎さんにとってお気に召さないらしいからな」


〈そりゃそうだ〉


〈死ぬつもりでお前に特攻してねぇよww〉


「仕方ねぇ、俺から動いてやるよ」


 そう呟いて、俺はドローン型のカメラを手に取る。


「すみません、ちょっとだけスピードを上げます」


〈は?〉


〈え?〉


 俺は視聴者に一言だけ声をかけてドローン型のカメラが揺れないよう細心の注意を払いつつ、ダンジョン内をダッシュで駆け回る。


〈ちょっ!速すぎぃぃっ!〉


〈まるで超特急の新幹線に乗ってるようだ!気分は悪くならないが、違和感が半端ない!〉


〈景色がなんも変わらんからなww〉


 しばらくダンジョン内をダッシュで駆け回ると、ようやく1匹の虎を発見する。


「お!はっけーんっ!」


 そして急ブレーキをかける。


〈止まるんかーいっ!〉


〈新幹線ではありえない急ブレーキ!〉


〈一種のアトラクションだなww〉


〈楽しかった!また今度お兄ちゃんにやってもらお!〉


〈ん、私も気に入った。次はユウにカメラを持ったままずっと走ってもらおう〉


〈鬼だなww〉


〈もはやイジメだろww〉


 俺はようやく見つけることができた虎を視界に捉える。


 虎も俺に気づいたようで、攻撃するために突進してくる。


「さて、アレをするか」


 俺は虎の突進を見つつ、「はぁーっ!」と魔力を解放してみる。


「クゥッ!」


 すると、俺の魔力にビビった虎が急ブレーキをかける。


 そして頭を地面につけ、降伏のポーズをとる。


「クゥ……」


「よしよし、いい子だ」


 そんな虎に俺は頭を撫でる。


〈ちょっと待てww。ツッコミどころ満載なんだがww〉


〈おい!白虎が大人しくなったぞ!〉


〈裕哉の奴、何したんだ!?〉


〈S級モンスターを大人しくさせるなんて普通ありえねぇぞ!〉


〈説明しよう!お兄ちゃんは自分の魔力を解放させることでモンスターに格上だと思わせ、戦意を喪失させたんだよ!〉


〈ん、ユウの得意技。ちなみに私たちは目に見えないオーラ的なものを発してることから『スーパーサ⚪︎ヤ人』と呼んでいる。髪の毛は金髪にならないけど〉


〈いや、おかしいだろ!〉


〈S級モンスターを従わせるとか初めて聞いたわ!〉


〈てか、そもそもモンスターを手懐けることなんてできねぇよww〉


〈な、なに!?戦闘力10,000……15,000……20,000……バ、バカな!まだ上昇してるだと!?〉


〈裕哉の戦闘力を測るなww〉


「ちょっと時間がないから君の力を借りるよ」


 そう言って俺は大人しくなった虎にまたがる。


「よし!虎さん!俺に仲間がいる場所へ案内してくれ!」


「グォゥ!」


 俺に逆らえないことを理解してる虎さんが元気に吠えて走り出す。


〈白虎に仲間がいるところへ案内させんのかよww〉


〈これなら体力を温存して白虎を倒せるが……こんな方法、誰もできねぇなww〉


 俺は虎の背中にまたがり、ダンジョンを移動した。


――残り1時間45分で予選終了――

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