第42話 底辺配信者、ギルド対抗戦に参加する。3

 作戦会議が終了した俺たちは会場となるダンジョンに入ることとなる。


 その道中、俺は和歌奈さんに気になっていたことを聞く。


「そういえば、俺はここのダンジョンをクリアしてるので95階層から始めることができますけど、他のチームはどうなってるんですか?1度もこのダンジョンを探索したことのないギルドだと2階層から攻略することになると思うのですが……」


 ダンジョンは一度攻略した階層なら、その階からスタートできるようになっている。


 しかし、一度も探索したことのない人は好きな階層から始めることができず、実力のある冒険者でも2階層から探索することとなるため、不利になるのではと思った。


「あ、その点は大丈夫だよ!希望の階層には行けるようになってるから!」


「え、どーやってですか?」


「それは一度クリアした人がワープ担当みたいな形で配置されてるからね!」


「なるほど。その人と一緒にダンジョンに入れば、好きな階層からスタートできるってことですか」


「そういうことだね!90階は裕哉くんと『雪月花』の3人しか攻略したことないから、行ける階層は89階までだけどね!」


 もちろん、何度もギルド対抗戦の会場となるダンジョンで探索したギルドの方が地の利やモンスターの種類等を知ってる点では有利だとは思う。


 しかし、和歌奈さんに聞けば、どのギルドもギルド対抗戦に出場するメンバーは、あらかじめ会場となるダンジョンを探索してるとのことなので、その辺りで不公平と文句を言う人は少ないらしい。


 そんな話をしていると、俺たちはダンジョン1階層に到着する。


 そこには大勢の冒険者がおり、たくさんの話し声が聞こえてきた。


「俺、他の冒険者が配信してるところを見たことないので、知らない人ばかりですね。有名な冒険者はいますか?」


 俺は近くにいる愛菜さんに話しかける。


「そうだな。やはり昨年優勝した『牙狼』ギルドは有名人ばかり出場してるな。例えば、あそこにいるガタイのいい男は要注意だ。名前は『広瀬龍馬』さん。あの人は『牙狼』ギルドの中でトップの実力を持っている。『牙狼』ギルドのリーダーと言ってもいいくらいだ」


 愛菜さんが教えてくれた男は背中に馬鹿でかい斧を背負っており、見るからに脳筋のような体格だ。


「『牙狼』ギルド以外なら、『霧雨』ギルドも厄介だな」


 そう言って今度は和歌奈さんくらいの年齢でスラっとした美女を指差す。


「あの人は『水瀬ハルカ』さん。和歌奈さんと同い年で和歌奈さんと一緒に探索をしたことのある実力者だ。和歌奈さんと同じくらい強いと思え」


「それは強いですね」


「あぁ。昨年は3位で『閃光』ギルドの方が順位は上だったが、昨年はハルカさん1人で3位になったと言っていい」


「へぇ、1人で3位まで登り詰めたんですね」


「そうだ。今回は昨年よりも実力者を揃えてると聞いてるから、侮れないギルドだな」


 そんな感じで愛菜さんが丁寧に実力者を教えてくれる。


 すると、先程は話したハルカさんが俺たちに話しかけてくる。


「やぁ、君たち。活躍は配信で見させてもらってるよ」


 髪をショートカットにしているためか、近くでハルカさんを見るとボーイッシュな印象を受ける。


「あ!ハルカちゃん!久しぶりだね!」


「久しぶり、和歌奈。相変わらず、バカなことをしてるようだね」


「む!私のことをバカって言ったね!どの辺がバカなのか言ってみてよ!」


「君の弟子である裕哉くんに無理矢理女装させたところかな。女しかいない『閃光』ギルドに男である裕哉くんを加入させるために」


「うっ!」


(バレとるやないか)


 和歌奈さんと一緒に探索したというだけあって、和歌奈さんの性格を良く理解している。


「君が裕哉くんだね?」


「あ、はい」


「ギルド対抗戦も女装して出場しなよ。どうせ、和歌奈が服を持って来てるから」


「え!持って来てるんですか!?」


「うんっ!女装したくなったらいつでも言ってね!」


「準備いいなぁ!」


「昨日から『絶対持ってくるぞー!』って思ってたからね!」


「………」


 その努力を他のところに回してほしい。


 そんなことを思っていると「あ、そうそう」と、ハルカさんが口を開く。


「和歌奈、昨日僕が持ってきてってお願いした物、持って来てるよね?はやく欲しいから今、貰っていいかい?」


「………」


 ハルカさんの言葉に反応しない和歌奈さん。


「和歌奈?」


「………てへっ!家に置いて来ちゃったよ!」


「「「………」」」


(なんで俺の服を持って来て、ハルカさんからお願いされた物を忘れてんだよ!)


 そう声に出して言いたい。


「はぁ。和歌奈がバカだったことを忘れてた。僕が念を押して持って来るようお願いすればよかったよ」


「ごめん!ハルカちゃん!裕哉くんの服を持って来ることで頭がいっぱいで、完全に忘れてたよ!」


「優先順位がおかしすぎるわ!」


(俺たちのギルドマスターはダメかもしれん)


 本気でそう思った。

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