第36話 底辺配信者、5人で探索をする。3
愛菜さんと千春さんが集合場所に到着したため、美柑と芽吹ちゃんを呼ぶ。
「で、お前らは何してたんだ?」
「ウチのお兄ちゃんが美柑先輩に取られそうだったので、問い詰めてました!」
「だから取ったりしないわよ!」
未だに美柑が芽吹ちゃん相手に騒いでいる。
「あれ?芽吹ちゃんってお兄さんがいたの?」
そんな中、芽吹ちゃんの発言に疑問を感じた千春さんが質問をする。
「はい!さっきできました!」
「「………」」
事情を何もわかっていない愛菜さんと千春さんが固まる。
「なぁ、千春。お兄ちゃんって突然できるものなのか?」
「そうらしいね。私もお兄ちゃんが欲しかったから、芽吹ちゃんが羨ましいわ。私にも突然、お兄ちゃんができるかしら?」
「できるわけねぇだろ」
俺も星野さんのツッコミに同意見だ。
「で、芽吹は誰の妹になったんだ?」
「裕哉お兄ちゃんです!」
ニコニコしながら芽吹ちゃんが言う。
「………裕哉くん、説明してくれ」
「ですよねー」
その後、芽吹ちゃんがなぜ俺の妹を自称しているかを懇切丁寧に語った。
芽吹ちゃんと美柑が配信の準備をしている横で愛菜さんと千春さんに説明をする。
そして、2人が納得したところでダンジョン探索に移る。
セットしたカメラの前に愛菜さんが立ち、視聴者へ挨拶をする。
「おはようございます。今日はアタシたち『雪月花』の3人と美柑、そして裕哉くんの5人でダンジョンを探索したいと思います」
〈おはよー!今日もダンジョン探索、頑張って!〉
〈今日の愛菜ちゃんも可愛いよ!〉
〈今日はどこのダンジョンに行くんですかー?〉
等々、愛菜さんの挨拶にさっそく返信がたくさんくる。
「今回、以前撤退することになったダンジョンを改めて探索したいと思います。そのダンジョンは2階層でレッドドラゴンが出現しました」
〈マジか!今日はそのダンジョンに潜るのか!〉
〈そのダンジョンは裕哉が居ても行かない方がいい!〉
〈でも、誰かが探索しないとダンジョンからモンスターが溢れてくるぞ?〉
〈マジやん。そのダンジョンからモンスターが溢れ出たら日本終わりだろ〉
「視聴者の中には気づいた方がいらっしゃいますが、このダンジョンはアタシたちが入って以降、誰も入っていません。なので、モンスターが溢れないようアタシたちはこのダンジョンを探索しなければなりません」
愛菜さんが視聴者へ簡単に事情を説明する。
〈くっ!誰かが探索しないとダメなのか!〉
〈そうなると裕哉がいる『閃光』ギルドのメンバーが適してるな〉
「今回、皆さんも理解しての通り、危険が伴うダンジョン探索となります。配信を気にして探索はできませんので、コメントに対して返信することはできません。その点はご了承ください」
〈当たり前だ!こんなダンジョンで配信なんか気にしてられねぇぞ!〉
〈マジで無事に帰ってきて!〉
等々、視聴者が俺たちの身を心配してくれる。
(こういうことを言ってくれるから視聴者の存在ってありがたいよな。『絶対、無事に帰ろう!』って気合いを入れることができるからな)
視聴者の反応を見て、そんなことを思う。
〈特に愛菜ちゃんと千春ちゃん、芽吹ちゃんに美柑ちゃんは無事に帰ってくるんだぞ!〉
〈俺も愛菜ちゃんたち4人の身が心配だ!全員、可愛い女の子だから大怪我なんかしないようにね!〉
〈最悪、裕哉を囮にして逃げてもいい!俺が許す!〉
〈むしろダンジョン内に裕哉を置き去りにして、モンスターを全て討伐するまで出てこられないようにしてくれ〉
〈〈〈〈名案すぎるっ!〉〉〉〉
「………」
(前言撤回、視聴者なんていない方がいいかもしれん)
俺の身を心配してる人は1人もいませんでした。
視聴者に挨拶をした俺たちはダンジョン内に入り、モンスターのいない1階層に到着する。
どのダンジョンも共通して1階層はモンスターが出現しない仕組みとなっており、このダンジョンも1階層にモンスターは出現しない。
「この階段を降りればレッドドラゴンがいる。気を引き締めていくぞ」
真剣な表情の愛菜さんに千春さんと美柑、芽吹ちゃんが頷く。
しかし、愛菜さんの話を聞いてる場合ではない出来事が起こっていた俺は愛菜さんの話を聞いておらず…
「裕哉くん、聞いてるのか?」
と、愛菜さんから注意される。
「あ、すみません。なんか違和感しか感じなくて」
「ダメよ、裕哉さん。これからいつもより危険なダンジョンに行くのだから気を引き締めないと」
「そうね。私もいつもより気を引き締めて臨むつもりだから、裕哉も気を引き締めてよね」
千春さんと美柑からも注意される。
〈裕哉の奴、気が緩みすぎだぞ?愛菜たちを守れるのはお前だけなんだから〉
〈美少女4人に男1人という状況で浮かれてるんだろ〉
〈ハーレム満喫中ってことか。死ねばいいのに〉
「いえ、気は引き締めてるんですが………俺、女装せずにダンジョンを探索するの、久々だなーって思いまして」
「今回は女装させてる場合じゃないからな」
「えぇ。ふざけてる場合ではないのよ」
「あ、ふざけてる自覚はあったんですね」
ふざけてる自覚があるにも関わらず俺を女装させてた事に対して、今すぐ小一時間くらい話したい。
〈今回のダンジョンに関してはお前に最高のパフォーマンスをしてもらわないと困るからな。女装してる場合じゃないだろ〉
〈レッドドラゴンよりも上位のモンスターが出現する可能性があるんだ。女装して戦わせるわけにはいかん〉
〈てか、そもそもの話、女装してダンジョン探索してる時点でヤバい〉
〈それは気づくの遅すぎww〉
〈えーっ!今日はお姉ちゃんにならないの!?お兄ちゃんの女装姿、楽しみだったのに!〉
〈ホントそれ。私も楽しみにしてた。それこそ楽しみすぎて昨夜は一睡もできなかったのに〉
〈小学生かww〉
〈この2人、裕哉の女装目当てで配信見てるんかよww〉
〈あ、その2人の発言は無視してくれ〉
〈その言葉、久々に聞いたわww〉
いろいろ聞きたいことはあるが、俺は女装することなくダンジョンを探索することとなる。
(長年の夢が叶ったかのような嬉しさだ。もはや悲願達成と言っても過言ではないだろう………こんなことで悲願達成と言ってる時点で悩みがなさそうな人間に感じるな)
この調子で2度と女装せずに済むことを切に願った。
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