第35話 底辺配信者、5人で探索をする。2

 翌日、俺たち5人は和歌奈さんからの依頼を受け、連携確認のためにダンジョン探索を行うこととなった。


「じゃ、行ってきまーす」


 そう言って家を出ようとすると、「忘れ物だよ!お兄ちゃん!」という声とともに美月が現れる。


 そして女物の服とウィッグを手渡される。


「はい!お兄ちゃん!今日は私が選んだコーディネートでダンジョンを探索してね!」


「余計なお世話だ!」


 俺は美月から服とウィッグを受け取らず、集合場所を目指した。




 アホな美月を放置して、俺は集合場所を目指す。


 ここ最近行った4人とのダンジョン探索では、全てにおいてみんなよりも遅く集合場所に到着したため、今日は集合時間の30分前に到着する。


「これくらい早く来れば誰もいないだろう」


 そんなことを呟きつつ集合場所へ向かうと、近くのベンチに芽吹ちゃんが座っていた。


「あ、裕哉先輩!おはようございます!」


「あ、あぁ。おはよう」


 誰もいないと思っていたところに芽吹ちゃんを発見し、内心驚く。


「早いですね!まだ集合時間まで30分くらいありますよ?」


「芽吹ちゃんもね。俺は遅刻しないよう早めに家を出ただけだよ」


「ウチは先輩たちを待たせるわけにはいきませんので早めに来ました!それに30分くらい待つなんて苦ではありませんし!」


「めっちゃいい子やん」


 自己犠牲精神が強いような気もするが、周りのことを考えて行動できている証拠でもある。


(おかしい。これで俺の妹と同い年なんておかしすぎる)


 朝っぱらから女物の服を押し付けてくるアホな妹と、他人のことを考えて行動できる芽吹ちゃんが同い年だなんて信じられない。


「芽吹ちゃんって本当に19歳なのか?」


 そう思ってしまったため、つい芽吹ちゃんに年齢を聞いてしまう。


「1週間後には20歳になりますが、今は19歳です!」


「マジかよ」


(神様ってのは不平等だな。胸の大きさだって美月とは天と地ほどの差があるぞ)


 ちょっとした動作で“ぷるるん”と揺れる芽吹ちゃんの巨乳と、未だに成長しない我が妹の胸を比べる。


 ちなみに兄の見立てでは美柑といい勝負をしている。


 不憫な妹に心の中で合掌していると「裕哉先輩の妹さんってどんな子ですか?」という質問をされる。


「俺の妹?アホだけど」


「え、そうなんですか?」


「あぁ。しかも兄を敬ったりしないからな。最近なんて口を開けば女装のことしか話さねぇし」


「なるほどです。やっぱり1度会ってみたいですね」


「え、なんで?」


 どの部分を聞いて美月に会いたいと思ったのだろうか。


「あ、いえ。ウチって裕哉先輩の妹じゃないですか」


「初めて聞いたわ」


 なぜか芽吹ちゃんが俺の妹を自称している。


「だってウチとデートした帰りに『俺でよければいつでも芽吹ちゃんのお兄ちゃんになるよ』って言ってくれたじゃないですか」


「いや、そんなこと言ってな………ガッツリ言ってるわ」


 芽吹ちゃんとダンジョン探索を終えた帰り道に、今の言葉を芽吹ちゃんに言ったことを思い出す。


「はい!なので裕哉先輩はウチのお兄ちゃんです!」


「待て、芽吹ちゃん。言葉足らずな俺が圧倒的に悪いんだが、実の兄と思って遠慮なく頼っていいよってことを言いたかったんだ。俺の妹になってとは言ってない」


「でも『実の兄と思っていい』ということはウチのお兄ちゃんになってくれるということですよね?」


「………そうなるのか?」


「はい!なので裕哉先輩はウチのお兄ちゃんです!改めて、よろしくお願いします!裕哉お兄ちゃん!」


 眩しい笑顔で芽吹ちゃんが応える。


 その笑顔を見て…


(芽吹ちゃんが俺の妹を自称するくらい許してやるか。そうすれば困ったことがあれば俺に相談し、芽吹ちゃん自身で問題を抱えることもないだろう)


 そんなことを思う。


 すると、後ろから「なんで可愛い後輩に「お兄ちゃん」と呼ばせてんのよ。変態」という声が聞こえてくる。


 変態呼ばわりされた俺は、変な勘違いをしているであろう人物に、振り返ると同時に訂正を入れる。


「待て!美柑!これは誤解なんだ!落ち着いて聞いてくれ!」


「へぇ、誤解なんだ。どんな言い訳が聞けるのか楽しみね、裕哉お兄ちゃん」


(あ、ダメだ。聞く耳を持ってねぇ)


 一瞬でそう思わせてくれる。


 少し不機嫌そうな顔をしている美柑の顔を見つつ、俺は弁明を図るため、口を開こうとする。


 しかし、その前に芽吹ちゃんが美柑に話しかける。


「美柑先輩!裕哉お兄ちゃんを責めないでください!」


「いやよ。コイツは手当たり次第妹にする変態よ。これくらい言わないと……」


「裕哉お兄ちゃんはウチのためにお兄ちゃんになってくれたんです!」


「………え?そうなの?」


「あ、あぁ。一言で言えばそういうことだな」


 俺が芽吹ちゃんの言葉に同意すると美柑の顔が一瞬で赤くなる。


「ご、ごめん!私、また変な勘違いをして!」


 そしてすぐに美柑が頭を下げる。


「私、思い込みが激しいってよく言われてて!ってこれじゃ、言い訳してるみたいじゃない」


「落ち着け、美柑。勘違いしてたことは分かってるから」


「そうです!なので一度深呼吸です!」


 俺と芽吹ちゃんが必死に美柑を落ち着かせる。


 そして、美柑が何度か深呼吸をして落ち着きを取り戻す。


「ごめん、芽吹ちゃんの希望だったとは思わなくて」


「いえ!ウチは気にしてませんよ!」


「俺も気にしてないぞ。美柑のような勘違いをする人が絶対いると思ってたから」


 誰も芽吹ちゃんが自分の意思で俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでるなんて思わないだろう。


「ありがとう、2人とも」


 俺たちが許すと美柑が安堵した表情となる。


「でも、私ってホント思い込みが激しいのよね。今のやり取りもそうだし、裕哉が女装して配信してた時も変な勘違いしてたから」


 しかし、すぐに曇った表情となり、落ち込んだトーンで話し始める。


(美柑はこのことに悩んでるのか)


 そう思い、俺は少しだけ励まそうと思う。


「俺は今日みたいな勘違いしても迷惑だなんて思わないぞ」


「……え?」


 俺の言葉に美柑が驚く。


「俺なら美柑が変な勘違いをして暴言みたいなのを吐かれても問題ない。だって説明すれば自分の非をすぐに認め、謝ってくれんだから。俺、そういうところが美柑の良いところだと思ってるぞ」


「裕哉………さてはドMね」


「違うわ!」


 なぜそのような解釈になったのかが理解できない。


「ふふっ、冗談よ。ありがとう、裕哉」


 少しだけ悩みがなくなったような表情で柔らかい笑みを浮かべる美柑。


 そんな美柑の可愛い笑顔を見て、俺は咄嗟に視線を逸らす。


「き、気にするな。今は同じギルドメンバーなんだから」


「そうね。ならこれからも裕哉だけに迷惑をかけよ」


「ほどほどにしてくれよ」


「それは自信ないわね」


「えぇ……」


 堂々と自信ないことを宣言される。


「でも、裕哉が同じチームでよかったわ」


「ん?」


「いえ、なんでもないわ」


 最後の方はボソっと言われ、美柑の呟きを聞き逃す。


 すると、芽吹ちゃんの頬が膨らむ。


「むっ、ウチのお兄ちゃんが美柑先輩に取られそうです」


「と、取ったりしないわよ!」


「いえ、今のは危ないサインです。ウチのお兄ちゃんセンサーが反応しました」


「よく分からないセンサーを作動させないで!」


 『お兄ちゃんセンサー』というものがどんなものか分からなかったが、その後、愛菜さんと千春さんが来るまで、2人の仲睦まじい姿を眺めた。

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