第34話 底辺配信者、5人で探索をする。1

 星野さんとのダンジョン探索を終了する。


「今日はありがとう」


「いえ!こちらこそありがとうございます!星野さんとのダンジョン探索、とても楽しかったです!」


 そんな話をしながら星野さんと帰路につく。


 すると、何かを思い出したかのように「あ、そうだ」と星野さんが呟く。


「アタシのことは名前で呼んでくれ。そっちの方が信頼できる仲間って感じがするだろ?」


「あ、そうですね。なら愛菜さんと呼ばせてもらいます」


「あぁ。これからはギルド対抗戦に出場する仲間だから、遠慮なく話しかけてくれると助かる。まぁ、裕哉くんより年上で気が強そうなアタシには怖くて色々と言えないと思うから、困ったことがあれば千春にでも言ってくれ」


 少し残念そうな声色で語る愛菜さん。


 そのため、俺はすぐさま愛菜さんの言葉を否定する。


「俺、愛菜さんを怖いと思ったことはありませんよ。だから困ったことがあれば遠慮なく愛菜さんに話しかけます」


「……本当か?」


 俺が正直な気持ちを伝えると、愛菜さんが首を傾げつつ聞いてくる。


 普段はつり目でキリッとした愛菜さんが、可愛く首を傾げている様子に可愛いと思ってしまう。


「ほら、今の顔だって怖いというより可愛いくらいです」


「ばっ、ばかっ!そんなことは言わなくていいんだ!」


 そう言って俺を罵倒した愛菜さんがそっぽを向く。


(あ、あれ?励ましたつもりなのに何故か罵倒されたんだが……)


 そう思い、内心ショックを受ける。


 すると、そっぽを向いたまま愛菜さんが「裕哉くんって良い人だな」と呟く。


 その言葉が聞こえてきた俺は過大評価している愛菜さんへ訂正を行おうとするが、愛菜さんの方が先に口を開く。


「アタシ、目つきと背の高さから怖がられてばかりで、まともに話してくれる人が少ないんだ。だから裕哉くんの口から『遠慮なく話す』という言葉を聞いて安心したんだ」


(それって愛菜さんが美人すぎて相手が上手く話せないだけなのでは?)


 実際、美月や紗枝、和歌奈さんといった美女、美少女たちと普段から交流してなければ、愛菜さんと親密に話せなかったと思う。


「あ、アタシはこっちの方だから」


 そう言って愛菜さんは俺とは違う方向へ歩き出す。


「今日はありがと。次は2人でどこか遊びに行こうか」


「………え?それってどういう意味ですか?」


「さぁ?どんな意味があるだろうな」


 そう言って歩き出す愛菜さん。


「………これは素直に喜んでいいのか?それとも揶揄うために言った言葉だから喜んだらダメなのか?」


 そう思い考えるも、一向にわからなかった。




 愛菜さんとのダンジョン探索が終わり、自宅に帰宅する。


「ただいまー」


「あ、おかえり!お姉ちゃん!」


「ユウちゃんおかえり。ずっと帰るのを待ってた」


 すると何故か美月と紗枝が玄関で待っていた。


 女物の服を持って。


「………」


(ヤベぇ、忘れてた。俺、美月から女装癖に目覚めたと勘違いされてたんだった)


 自分の部屋で女装してたところを美月に見られ、変な勘違いされていたことを思い出す。


「なぁ、美月。俺は女装癖に目覚めたわけじゃ……」


「今日はお姉ちゃんのために奮発したんだ!」


「ん、ユウちゃんが女装に目覚めたのなら私たちはサポートするだけ。たくさん買ったから満足いくまで着ていいよ」


「だから俺は……」


「あ!お金なら気にしなくていいよ!いつもダンジョン探索で稼いでるお姉ちゃんへのプレゼントだから!」


「ん、お金はいらない。でも女装した姿を私たちにも見せてほしい」


「お金のことなんか言ってねぇだろ!」


 俺の話に聞く耳を持たない美月と紗枝。


 その後、美月と紗枝が俺の話を聞き、誤解を解くことができたのは、美月たちが買った服を全て着た後だった。




 数日後。


 ギルド対抗戦まで残り1ヶ月を切った今日。


 俺を含め、ギルド対抗戦に出場する5人は和歌奈さんに呼ばれ、『閃光』ギルドに集まっていた。


「今日集まってもらったのは他でもない!ギルド対抗戦について話し合いを行うためだよ!」


「このメンツが集まってることからギルド対抗戦についての話だろうとは見当がついてました」


「むしろ違ったら驚くわ」


 愛菜さんの発言に俺が付け足す。


「そこ!うるさいよ!特に裕哉くん!」


「ピンポイントで名指ししてきましたね」


 相変わらずの和歌奈さんでいらっしゃるようだ。


「明日、5人でとあるダンジョンに潜ってもらうよ!」


 という前置きから和歌奈さんが話し始める。


「そのダンジョンは先日、東京に出現したランク未定のダンジョン!裕哉くんと『雪月花』のみんなが2階層でレッドドラゴンに出会ったダンジョンだね!」


「アタシらが偵察隊として探索して2階層で撤退したダンジョンですね」


「あー、あのダンジョンですか。俺が初めて荷物持ちをした時ですね」


 どうやら俺がキャリーバックを持って愛菜さんたちと潜ったダンジョンを5人で探索してほしいとのこと。


「あのダンジョンってみんなが入ってから誰も入ってないんだ。だからそろそろモンスターが溢れ出るかもしれないんだよ」


「それは大変ですね」


 ダンジョン内のモンスターを定期的に討伐しないとモンスターがダンジョンから溢れることがある。


 それを防ぐためには定期的にダンジョン内のモンスターを討伐しなければならない。


「そのために裕哉くんを派遣しようと思ったんだけど、どうせなら5人で行って連携を確かめてほしいなーって思ったんだ。死ぬ危険はあるから断ってくれてもいいんだけど、どうかな?」


 和歌奈さんが俺たちに問いかける。


「俺は構いませんよ。ギルド対抗戦に向けていい特訓になると思うので」


「裕哉くんがそう言うならアタシらも問題ないです。裕哉くんがいれば死ぬことはないと思うので」


 愛菜さんの発言にみんなが頷く。


「よしっ!じゃあ、明日は5人でダンジョン探索だよ!怪我なく無事に帰ってきてね!」


「「「「「はい!」」」」」


 俺たちは元気に返事をした。

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