第33話 底辺配信者、愛菜さんとダンジョンデートをする。2

「お前らの目は節穴かぁぁぁ!!!」


 俺はカメラの前で叫ぶ。


〈おい、なんか叫び出したぞ?〉


〈ストレスが溜まってて叫びたかったんじゃね?〉


〈きっとカルシウムが不足してるんだろう。牛乳を飲んだほうがいいぞ〉


「やかましいわ!」


 俺は視聴者のコメントにツッコむ。


「落ち着け、裕哉くん。ここは諦めていつもの格好になるんだ」


「だからいつもの格好ってなんですか!」


「さっき叩きつけたウィッグを被れってことだな」


「女装がいつもの格好じゃないんだけど!」


 と、俺は色々と抗議するが聞いてもらえず、結局今日も女装してダンジョンを探索することとなった。




 今日も女装して80階を探索する。


「今日はアタシの実力を裕哉ちゃんに見せようと思う」


「星野さんはみんなへ指示を出しながら近接戦闘を行ってると聞いてます。大変じゃないんですか?」


「裕哉ちゃんが思ってるほど大変じゃないぞ。指示を出さずとも千春や芽吹がアタシの動きに合わせてくれることが多いからな」


「それはすごいチームワークですね」


〈当たり前のように言ってるが、コミュニケーションなくスムーズに戦っているチームなんて『雪月花』くらいだけどな〉


〈『雪月花』のチームワークが凄すぎて可能にしてることだから〉


〈それだけ仲間を信頼してるってことだろう。実際、千春ちゃんや芽吹ちゃんを信頼してないとできないような動きを愛菜ちゃんはしてるからな〉


「あぁ。最高の仲間だ。アタシは千春と芽吹、美柑ならダンジョンで背中を預けてもいいと思っている。それくらい信頼してるからな」


「なるほど。それがチームワークの良さの秘訣ですね」


「アタシはそう思っている。そして、アタシは裕哉ちゃんも背中を任せられると思っている」


「俺もですか?」


「あぁ。アタシらは今日を入れて3回目のダンジョン探索と少ないが、これだけ一緒にダンジョンを探索すれば裕哉ちゃんを信頼していいか、背中を預けるに相応しい人かは理解できる。そして、アタシは裕哉ちゃんを信頼するに値する人だと思った」


「星野さん……」


 星野さんの言葉を嬉しく思う。


「だから今日は裕哉ちゃんが『星野さんなら背中を任せることができる』と思ってくれるよう、アタシの実力を知ってもらいたい」


 そう言って星野さんは剣を抜き、近くにいる牛を見据える。


 牛も星野さんに気づいたようで、星野さん目掛けて突進してくる。


「星野さん!」


「わかってる」


 そう返答した星野さんは牛の突進を剣一本でいなす。


 そして牛の連続攻撃を、後方へ下がりながら剣一本で防ぎ続ける。


〈でたーっ!愛菜ちゃんの得意技っ!愛菜ちゃんなら、どんな攻撃も剣一本で簡単に防ぐことができるぞ!〉


〈愛菜ちゃんがダメージ受けることなんて滅多にないからな。相変わらず、洞察力と反射神経が異常だ〉


〈愛菜ちゃんがモンスターのヘイトを集めて攻撃を防ぎ、千春ちゃんが2人をサポートしつつ芽吹ちゃんの一撃に繋げる。これが『雪月花』の戦い方だ〉


「おぉ!簡単そうに攻撃を防いでるぞ!あれだけの体格差があるにも関わらず防ぎ続けてる!これってそう簡単にできないぞ!」


 女性の筋力では牛の攻撃をまともに防ぐと、攻撃力を完全に抑えることができず体が吹き飛んでしまうが、星野さんは綺麗に牛の攻撃を受け流している。


 これは並大抵のことじゃできない。


「そろそろミノタウロスの動きに慣れてきたな」


 そう言って星野さんは牛の攻撃を防いだ瞬間に後方へ大きくジャンプする。


 そして身体と剣に雷を纏い、牛目掛けて突っ込む。


 雷を纏っていることで先程よりも速いスピードで星野さんが動く。


 その動きに牛が反応し、右手に持っている斧で防ごうとするが、ほんの少し間に合わない。


「紫電一閃」


 星野さんの声が響き渡ると同時に牛のお腹に傷が生まれる。


「グァァァァァっ!」


 ダメージを負った牛は叫び声を上げる。


〈おおっ!愛菜ちゃんの紫電一閃!〉


〈素人の俺たちだと愛菜ちゃんの動きが少ししか追えねぇ!〉


〈だが裕哉ちゃんより動きが遅いから辛うじて見えるぞ!裕哉ちゃんは消えたと思ったらモンスターが消滅してるからな!〉


〈人間辞めてる奴と比べたらダメだ。愛菜ちゃんが可哀想だろ〉


〈そう考えると裕哉ちゃんの異常さが分かるなww〉


 ダメージを負い、声をあげている牛へ星野さんが追撃を行う。


「紫電一閃〜10蓮〜」


 そう呟いて星野さんが牛の身体全身に攻撃を行う。


 牛が叫び声を上げつつ斧を振り回すが、星野さんには掠りもせず、ダメージを受け続ける。


「これで終わりだ」


 そしてトドメに星野さんが首筋へ剣を振る。


「グァァァァァっ!」


 という断末魔を上げながら牛が消滅し、魔石をドロップさせる。


「ふぅ。こんな感じだな」


「すごいです!星野さん!」


 俺は星野さんの剣技を手放しで褒める。


〈さすがSランクパーティーのリーダーだ。A級モンスターを無傷で倒すとは〉


〈この実力を持っていてもS級モンスターには勝てないんだ。いかにS級モンスターが化け物かがわかるな〉


〈てか、今年の『閃光』ギルドの対抗戦メンバー、やべぇだろ。去年ギルド対抗戦に優勝してる『牙狼』より強くね?〉


〈視聴者の間で「貧乳」といじられる女の子に、妹にしたいランキングNo.1のロリ巨乳、そしてエッチな巨乳お姉さんとスラッとした体型と美乳が魅力的なリーダーがいるチームに女装大好きな男が加わるんだ。ヤベぇチームだぜ〉


〈女装大好きな男がいる時点でヤベぇチームだけどなww〉


〈てか、この説明を聞いてもヤバさが全く伝わってこないんだがww〉


〈この人、おっぱいの大きさしか説明してないからなww〉


〈風俗店の宣伝みたいな説明だなww〉


「俺は星野さんのように剣を扱えないので羨ましいです!」


「そ、そうか。ありがとう」


 星野さんが若干顔を赤くしながら返答する。


「俺、星野さんなら……いえ、美柑や芽吹ちゃんに千春さん、それに星野さんなら背中を預けてもいいと思いました!」


「それなら良かった。ギルド対抗戦ではお互いを信頼することが大事だからな。来月のギルド対抗戦は和歌奈さんのために優勝するぞ!」


「はい!」


 俺は元気に返事をした。

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