第28話 底辺配信者、芽吹ちゃんとダンジョンデートをする。1
その後も美柑が弓や短剣を駆使して牛を討伐するところを後ろで見学して、本日のダンジョン探索が終わる。
そして俺たちは視聴者に挨拶をして、帰路につく。
流石に外を女装して歩けないので男物の服に着替えて美柑と一緒に街中を歩く。
「結局、見てるだけで終わってしまった」
「それが目的なんだからいいのよ」
疲労などない様子で美柑が答える。
今回の目的は美柑の実力を知ること。
そのため、俺でも瞬殺できる雑魚モンスターである牛に対して、美柑は手加減をしながら戦っていた。
なぜなら、短剣で首を刎ねればいいのにも関わらず、素早く動いて牛の全身に擦り傷を作り、弓で脳天を射抜けばいいのにも関わらず、難しいヶ所を狙っていた。
このことから、美柑は俺に素早く動けることと弓術の実力を教えていたと思われる。
「で、どうだった?私の実力は?」
「そうだな。素人では追えないであろうスピードで動くことができることに加え、弓の技術は素晴らしいの一言だ」
「ふふん!そうでしょ!」
美柑が小さい胸を張る。
「美柑は独学なのか?」
「そうよ。本当はお姉様に指導してほしかったのだけど、引退したことでお願いできなくなったからね。だからお姉様が昔アップしたダンジョン配信の動画は何千回も見て真似できるよう特訓したわ」
(なるほど。直接和歌奈さんに指導してもらってないが、美柑にとっては和歌奈さんが師匠みたいなものなんだな)
そんなことを思う。
「あ、私はコッチの方だから」
「そうか。今日はありがとう」
「私の方こそありがと。とても楽しかったわ。また2人きりでダンジョンデートしましょ」
そう言って美柑が俺の下から去っていく。
「………また2人きりで?え、社交辞令的なやつだよな?」
発言の真意が分からず、帰宅中、ずっと考えることとなった。
ちなみに帰り着いたら美月と紗枝に女装してダンジョン探索した件をひたすら笑われました。
翌日。
今日も俺は2人きりでダンジョンデートをすることとなった。
相手は俺の1つ年下で小柄な体型に巨乳を兼ね揃えた足立芽吹さん。
年上が遅刻するわけにはいかないので昨日より早めにダンジョンへ到着する。
ちなみに今日こそは男物の服で探索する予定なので、女装用の服など持ってきていない。
「あ、裕哉先輩!お疲れ様です!」
しかし、俺よりも先に足立さんが到着していた。
「ごめん足立さん。待たせてしまって」
「謝る必要なんてありませんよ!ウチのチャンネルで配信するから早めに来て準備してただけです!年上である先輩を待たせるわけにはいきませんので!」
笑顔で足立さんが答えてくれる。
(めっちゃえぇ子やん。これで美月と同い年とか信じられないんだが。俺の妹と交換してほしいわ)
最近、女装の話しかしてこない頭の悪い妹と比べてしまう。
「って、裕哉先輩?年は上だけど俺に先輩呼びなんてしなくていいんだぞ?」
「いえ!同じギルドメンバーですので裕哉先輩は裕哉先輩です!」
そういえば星野さんのことを「愛菜先輩」と呼んでいたことを思い出す。
「そうか。足立さんがそう呼びたいなら……」
「ストップです!」
「どした!?」
話している途中にストップがかかる。
「足立さんなんて呼び方はダメだと思います!ウチのことは芽吹と呼んでください!」
そして俺の顔にグッと近づいて話してくる。
「わ、わかった。芽吹ちゃんでいいか?」
「はいっ!」
俺の返事に満足したのか、ご満悦の芽吹ちゃん。
(思ってた以上にグイグイくるな。大人しい子かと思ってたんだが)
そんなことを思っていると、「配信を始めてもいいですか?」と芽吹ちゃんが聞いてくる。
「あぁ、いいぞ」
「わかりました!では配信スタートです!」
元気いっぱいの声が響き渡った。
「こんにちはです!今日は最近『閃光』ギルドに加入した裕哉先輩と一緒にダンジョンに潜ります!」
「こんにちは。今日もよろしくお願いします」
〈待って、誰この男〉
〈見たことねぇな。最近、こんな奴が『閃光』ギルドに加入したのか?〉
〈俺も知らねぇな〉
〈最近加入した裕哉ちゃんなら知ってるが〉
〈〈〈〈それな〉〉〉〉
「またこのパターンかよ!」
昨日も見た視聴者の反応。
「ということで、せーんぱいっ!」
そしてニコニコしながら紙袋を手渡してくる芽吹ちゃん。
「………」
どうやら今日も女装しなければいけないようだ。
そんなことを思いつつ、俺は芽吹ちゃんから紙袋を受け取った。
着替え終えた俺は芽吹ちゃんとダンジョンに潜る。
今日も美柑と潜った時と同じ80階を探索する。
「今日はウチの実力を裕哉先輩に見せたいと思います!」
「あぁ、よろしく頼む」
「任されました!」
そう言って芽吹ちゃんが杖を取り出す。
「芽吹ちゃんは魔法で攻撃するんだよね?」
「はい!魔法の才能はあったようなので!」
〈芽吹ちゃんって巷では天才って呼ばれてるからな〉
〈19歳という若さでSランクパーティーのメンバーになったんだ。天才と呼ぶに値するだろ〉
〈2年弱で会得することが出来ない魔法を会得してるらしく、一部では年齢詐欺を疑われてるらしいぞ〉
〈そりゃ、あの巨乳は年齢詐欺だろ〉
〈中学生くらいの背丈も年齢詐欺だな〉
〈待って、そう考えると芽吹ちゃんって今、何歳なんだ?〉
〈あの巨乳は20歳を超えてるな〉
〈あの身長だ。15歳くらいだろう〉
〈19歳って公表されてるだろww。なんで疑ってんだよww〉
「すごいな、芽吹ちゃんは。俺、体を強化する魔法しか使えないから尊敬するよ」
「そんなことないですよ!ウチより凄い人なんてたくさんいますから!それこそ愛菜先輩たちや裕哉先輩の方がすごいです!」
「俺の妹に見習ってほしいくらい謙遜するやん」
美月だと絶対に言わないであろう謙遜の言葉を言われ、美月と同い年か疑いたくなる。
「魔法なんて遠くから攻撃するだけです。攻撃力のある魔法を行うには時間がかかってしまいますので、時間稼ぎをしてくれる仲間がいなければ役に立たないんです。だから、もし愛菜先輩たちとはぐれたらウチは生きてダンジョンを出られません」
すると今度は徐々に表情が乏しくなり、声のトーンも落ちていく。
(きっと、このことに芽吹ちゃんは本気で悩んでいるんだ。仲間がいなければ何の役にも立たないことに)
「わかった。その悩み、俺が解決してやろう」
「え?」
驚いている芽吹ちゃんを放置して、俺はこの階層に出現する牛を探す。
「芽吹ちゃんは今、自分を守る方法に悩んでるんだろ?」
「はい。いつもは愛菜先輩と千春先輩のおかげではぐれることもなく、ウチがモンスターと一対一になることはありません。でも、もし強いモンスターと一対一で戦うことになったらウチは負けてしまいます。火力の高い攻撃には時間がかかってしまいますから」
「つまり芽吹ちゃんは一対一でも倒すことのできる火力の高い攻撃かつ、攻撃までに時間のかからない攻撃方法を習得したいということだな?」
「はい。もし愛菜先輩たちとはぐれた時に私は無力ですから」
「それなら俺が芽吹ちゃんにピッタリな攻撃を教えよう。芽吹ちゃん、石ころって魔法ですぐ作れる?」
「あ、はい。どうぞ」
俺の質問に対して一瞬で石ころを魔法で生成し、石ころを俺に手渡す。
そのタイミングで一体の牛が数100メートル先に現れる。
「芽吹ちゃん。火力の高い遠距離攻撃が発動までに時間のかかる魔法しかないと思ってるなら大間違いだ。何故なら……」
と、俺は説明しながら適当なフォームで石ころを牛目掛けて投げる。
すると、牛は避けることなく一瞬で脳天を貫かれ、魔石を残して消える。
「こんな感じで投げれば石ころも立派な遠距離攻撃の手段になるからだ。これなら石ころを生成するだけですぐに攻撃できる。どうだ?参考になったか?」
「………」
〈〈〈〈参考になるかぁぁぁ!!!〉〉〉〉
視聴者がそんなことを言っていた。
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