第27話 底辺配信者、美柑とダンジョンデートをする。2

 美柑も大変だなぁと思っていると、さっそくモンスターが現れる。


「さっそくお出ましだぞ」


「えぇ、あれはA級モンスターのミノタウロスよ」


 そこには俺たちよりもはるかに大きくガタイの良い牛が、数100メートル先にいた。


 そして右手には斧を持っている。


「裕哉なら倒したことあるでしょ?」


「あぁ。あの牛なら飽きるくらい倒したぞ」


「そう言うと思った」


 美柑が呆れながら言う。


「ちなみにアレは俺が和歌奈さんに指導してもらった日に倒したことあるモンスターだからA級モンスターではなく最弱であるE級モンスターだな」


「えっ!お姉様に指導してもらうと冒険者初日にミノタウロスを倒せるの!さすがお姉様!素晴らしい指導力ね!」


 今度は俺の言葉にキラキラした目で言う。


「あぁ。頭の悪い俺でも分かりやすく丁寧に指導してくれたからな。おかげで初日にコイツを倒すことができた」


「やっぱりお姉様は天才ね!」


「あぁ。やっぱり和歌奈さんって天才だな」


 そんなことを思う。


〈いやツッコミどころ多すぎぃ!〉


〈お姉様を褒めてる場合じゃねぇよww〉


〈裕哉がぶっ壊れてるだけだから!和歌奈さんでも冒険者初日にミノタウロスを倒せる指導はできないから!〉


〈そんなんできたら和歌奈さん冒険者辞めてねぇよww〉


「なに言ってるの!お姉様は偉大よ!お姉様なら指導初日でミノタウロスを倒せる冒険者に仕立てあげることくらい簡単よ!」


「そうだぞ!和歌奈さんなら指導初日でこの牛を倒せるくらいの冒険者にすることができる!それを俺が証明してるじゃないか!」


「そうよ!裕哉ちゃんが証明してるじゃない!」


〈最悪のコンビだなww〉


〈俺たちのツッコミに反論してくるしww〉


〈和歌奈さんを褒めるついでに裕哉の異常さを肯定してるんだけどww〉


「はぁ。全く、お姉様の偉大さがわからない視聴者が多すぎね」


「和歌奈さんの性格は尊敬できないが、和歌奈さんの実力は尊敬してる。それを分からない人がこんなにいるなんて」


「私がいつもお姉様の凄さを語ってるにも関わらず、この有様。まだまだ頑張らないといけないようね」


〈美柑ちゃんは今以上に頑張らなくていいからww〉


〈毎回のように和歌奈さんの凄い話聞いてるからww〉


〈もう間に合ってますww〉


「そう、なら今日はこの辺りで辞めとくわ」


 そう言って話を切り上げる。


 それを見て俺もコメント欄を見るのを辞める。


〈え、結局、裕哉ちゃんの異常さを訂正できなかったんだが〉


〈美柑ちゃん全然ツッコミせんし!むしろ裕哉の異常さを肯定してるし!〉


〈この2人、絶対組ませたらダメだなww〉


 そんなコメントが多数呟かれていたが、俺たちの目には入らなかった。




 コメント欄を見るのを辞めて、数100メートル先にいる牛に視線を合わせる。


「まずは私の実力を見せてあげるわ」


 そう言って美柑が魔法で弓を作る。


 そして弓を引き、俺たちに気付いていない牛目掛けて攻撃をする。


「ファイヤーアローっ!」


 美柑が火の矢を放つ。


 その矢は寸分違わず、ミノタウロスの脚に当たり貫通する。


「グォっ!」


「おぉっ!この距離で当てるとは!」


 数100メートルは離れているが、糸を通したかのようにミノタウロスの脚に矢が当たる。


 それにより牛が膝をつく。


〈でたー!美柑ちゃんのファイヤーアロー!〉


〈相変わらず正確すぎっ!〉


〈あれって関節の間を狙ってるらしいな〉


〈関節の間なら簡単に貫通できると美柑ちゃんは言ってたが、この距離で関節の間を当てるのはやべぇ〉


〈これを見たかったんだよ!〉


 膝をついた牛へ美柑が特攻をかける。


「今度はコレね」


 そう言って腰に差していた短剣2本をそれぞれの手で持つ。


 そして、素人では視認できないであろうスピードで牛の全身を切り刻む。


「おぉっ!速い!俺には負けるが女の子でこのスピードは速いぞ!」


「グォォォォォっ!」


 なす術なく全身を切り刻まれる牛。


〈でたー!今度は美柑ちゃんの短剣攻撃!〉


〈全く見えねぇが、美柑ちゃんがミノタウロスを攻撃してることだけはわかる〉


〈やっぱり速いな。いつ見ても目で追えない〉


〈小さすぎて空気抵抗がないからだろ〉


〈Bカップだからな〉


〈絶対、肩が凝らない〉


〈あ、そういえば以前、巨乳の千春ちゃんとロリ巨乳の芽吹ちゃんがいる目の前で肩凝るアピールしてたぞ。「肩が凝るわぁ。きっと胸のせいね」って〉


〈虚しくなるだけだろww〉


〈メンタル強すぎww〉


 美柑の攻撃に一方的にやられ続けている牛が突然右手に持っている斧を振り回す。


「いつものパターンね!」


 そう言って距離を取った美柑が弓を構えて…


「ファイヤーアローっ!」


 今度は斧を振り回している右手の肘に弓を放つ。


 すると、放たれた火の矢が右肘を貫通し、痛みに耐えきれず斧を落とす。


「嘘だろ。斧を振り回してる右肘部分をピンポイントで射抜いたぞ」


 弓を使ったことがない俺でも凄いことをしていることは分かる。


〈ヤバすぎ。精度半端ないって〉


〈振り回してる手に当てるだけじゃなく、関節の間を射抜くとか上手すぎだろ〉


「終わりよ」


 そして斧を落として動けないミノタウロスに至近距離から弱点である脊髄の部分に矢を放つ。


「グォォォォォっ!」


 との断末魔を叫びながらミノタウロスが消滅する。


〈これがA級モンスターを1人で討伐できる美柑ちゃんの実力〉


〈和歌奈2世と呼ばれるだけあるぞ〉


〈胸以外はな〉


〈髪も和歌奈さんと同じ金髪で背丈も同じくらいだからマジで和歌奈2世だろ〉


〈胸以外はな〉


〈武器も和歌奈さんの真似して弓と短剣を使ってるからな。和歌奈2世と呼ばれてもおかしくない〉


〈胸以外はな〉


〈くそっ!和歌奈さんほどの立派な胸を持ってたら完璧な2世だったのにっ!残念で仕方ないっ!〉


〈〈〈〈それな〉〉〉〉


〈ここの視聴者、美柑ちゃんの貧乳をイジる人多すぎww〉


〈美柑ちゃんのメンタル、大丈夫か!?〉


〈大丈夫だ。我らのアイドル、美柑ちゃんは俺たちのコメントを見ても何も感じない〉


〈だって……〉


「ふんっ!今に見てなさい!私だって数年後にはお姉様くらいの巨乳になるんだから!そして、貧乳だのちっぱいだの実はAカップだのバカにしてる視聴者を土下座させるわ!」


〈我らのコメントを見て、絶対叶えられない巨乳になることを決意してくれるのだから〉


〈怒っとるやないか〉


〈誰だよ、何も感じてないとか言ったのww〉


(遊ばれてるなぁ)


 コメント欄を見て、そんなことを思う。


「ふんっ!こんな視聴者なんか放っておいていいわよ!」


 そう言ってコメント欄を見ることをやめ、俺に話しかけてくる。


「美柑よ。和歌奈さんのように丁寧な言葉遣いで話せてないぞ?」


「こんな視聴者に丁寧な言葉遣いなんてバカバカしいわ!」


 そう言って美柑が先に進む。


〈いつものことだ。スタートだけ和歌奈さんの話し方をして、次第に荒々しくなる〉


〈まぁ、原因は俺たちにあるが〉


〈これが美柑ちゃんの可愛いところ〉


〈ツンデレってやつだな〉


「いやツンデレではないだろ」


 美柑の視聴者には変人が多いと俺は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る