第25話 底辺配信者、4人の女の子とデートをすることになる。

「明日から裕哉くんはメンバー全員とダンジョン探索という名のデートをしてくること!もちろん、デートなので2人きりでね!」


「はぁ!?」


 俺の困惑した声が部屋中に響き渡る。


「なに言ってるんですか!?チームワークの件は理解できましたけど、何故そこからデートになったんですか!?」


「そんなの、男女が集まればデートしかないからね!」


「………」


(やべぇ、なに言ってるか全く理解できねぇ)


 どうやら他のメンバーも俺と同じ考えのようで困惑した表情をしている。


 1人を除いて。


「さすがお姉様です!私のような未熟者には考えつかない素晴らしいアイデアです!私、お姉様の考えには毎回驚かされてばかりです!」


「でしょ!私くらいのギルマスになると、これくらいのアイデア一瞬で閃いちゃうんだよ!」


「さすがお姉様です!」


「………」


(俺も毎回驚かされとるわ、違う意味で)


「千春。今すぐ美柑の口を塞げ。和歌奈さんが今以上に調子に乗るぞ」


 星野さんの言葉を聞いた園田さんが一瞬で神谷さんの口を塞ぐ。


「んんーっ!んん!」


 園田さんに口を塞がれた神谷さんがジタバタしながら何かを言っている。


「て、手慣れてますね」


「あぁ。和歌奈さんと美柑がセットでいると毎回話しが変な方向にいくからな。その度にこんな感じで美柑の口を塞いでるんだ」


(頑張ってるなぁ、星野さん。もうギルマスを星野さんに譲った方がいいんじゃないか?)


 そんなことを思う。


「和歌奈さん、裕哉くんも言ったようにチームワークが必要なことは理解できます。でも、裕哉くんと2人きりでデートというのは理解できません。むしろ5人でダンジョンを探索した方がいいと思います」


「それは今すぐやるべきことじゃないよ!まずは4人が裕哉くんのことを知り、裕哉くんがみんなのことを知るほうが大事なの!でないと、連携なんて無理だからね!」


「………一理ありますね」


 俺も和歌奈さんの言葉に納得してしまう。


「でしょ!だから、2人きりでダンジョンデートをすべきなんだよ!」


「………あれ?もしかして、和歌奈さん。めっちゃ良いこと言ってる?」


「俺もそんな気がしてきました」


 何故かとても魅力的な案に思えてくる。


「ぷはっ!お姉様の命令、私は素晴らしいものだと思います!私も裕哉の実力を知るためには一緒にダンジョンを探索すべきだと思ってたので!」


 園田さんから塞がれていた口を無理やり解除し、自分の意見を言う神谷さん。


「美柑ちゃんならそう言ってくれると思ったよ!美柑ちゃんは本当に良い子だね!」


「えへへ〜、お姉様に褒められちゃいました〜」


 嬉しそうに神谷さんがクネクネする。


「神谷さんが和歌奈さんの発言を全肯定するマシーンと化してますね」


「そうなんだよ。美柑なんて和歌奈さんが悪と言ったら悪と決めつける勢いだからな。これで『閃光』ギルド内でトップ3の実力を持ってるんだから困ったものだ」


「………胃薬あげましょうか?」


「………裕哉くんってダンジョンが絡まないと常識ある人だよな」


「なんですか、その褒め言葉は。まるでダンジョンが絡んだら常識がない人のように言ってますよ?」


「そう言ってんだよ」


「………」


(もし星野さんとダンジョンに潜る時は、俺の知ってるダンジョンでの常識を片っ端から教えよう)


 そう思った。




 その後いろいろあり、結局俺はみんなとダンジョンデートをすることになった。


 2人きりで。


 そして1番手が神谷さんとなった。


「トップバッターは私!お姉様の素晴らしい命令を1番最初に受けるのは私よ!」とか言って1番手をもぎ取っていった。


 そのため、俺は明日、神谷さんと2人きりでダンジョン探索をすることとなった。


(どうしてこんなことになったんだろ……)


 そんなことを思いつつ、俺は自宅を目指して歩く。


 しばらく歩くと自宅に到着し、玄関を開ける。


「ただいま〜」


 俺は帰ったことを知らせつつ玄関に入ると、“ドタドタッ!”と忙しない音とともに美月と紗枝が現れる。


「おかえり!お兄ちゃん……じゃなかった、お姉ちゃん!」


「ユウちゃん、おかえり」


「………」


 一瞬で悟る。


(コイツら、俺が女装した時の配信を見てるぞ)


「あ、あぁ。ただいま」


 俺はぎこちなく美月たちに返事をすると、ニヤニヤした顔で2人が俺に近づいてくる。


「お兄ちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも……じょ•そ•う?」


「………」


(なんだよ、女装って。可愛く言っても意味不明だから)


 俺は訳の分からない選択肢に固まる。


「あれ?聞こえてないのかな?」


「ん、聞こえてないみたい。今度は私が言う」


 そんなやり取りの後、今度は紗枝が話しかけてくる。


「ユウちゃん、化粧をする?ウィッグを被る?それとも……じょ•そ•う?」


「聞こえとるわ!」


「聞こえてるなら返事してよ!」


「ん、私たちの言葉を無視するのはよくない」


「無視したくなるんだよ!なんだよ女装って!」


「だってお兄ちゃんの女装姿を間近で見たいもん!」


「そのためにユウに似合う服まで買ってきた。褒めてほしい」


「行動はやっ!」


 配信が終わってから数時間しか経っていないにも関わらず、もう女装用の服を買ってるらしい。


「お兄ちゃん!私、お兄ちゃんに女装趣味があるなんて知らなかったよ!」


「ん、そんな趣味があるなら言ってほしかった」


「いや、アレは和歌奈さんのせいで女装しただけで俺に女装趣味なんかない……」


「はやくこの部屋に入って」


「私、実はお姉ちゃんも欲しかったんだー!」


「って聞けよ!」


 結局、俺が女装好きじゃないことを美月と紗枝が理解したのは、買った服を全て俺が着た後だった。

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