第24話 底辺配信者、命令を言い渡される。

「お姉様!この人は直ちに脱退させるべきです!特に師弟の縁は今すぐにでも切るべきです!」


 挨拶しかしてないのにものすごく嫌われてる俺。


 挨拶も聞いてもらえてないので挨拶をしたとはいえないが。


「えーっと、一回落ち着いて、美柑ちゃん。なんで裕哉くんを脱退させたいのかな?」


「そんなの、女装が好きな男だからに決まってます!私は今も女装している変態と一緒の空気なんて吸いたくありません!」


「違う!俺は女装好きじゃない!信じてくれ!」


「鏡見てから言って!」


「………」


 ぐうの音もでねぇ。


 しかし、このまま黙っているわけにもいかないので、俺は神谷さんに話しかける。


「待って!これには深い事情があるんだ!」


「事情?」


「あぁ!」


 俺は頷き、神谷さんに事情を説明する。


 ギルド対抗戦のために和歌奈さんが俺を勧誘したこと。


 『閃光』ギルドが男子のいないギルドだから、簡単に加入することが難しいこと。


 男性である俺を加入させるために和歌奈さんが『ウチのギルドに入れる男性は女装好きな人だけ』という条件を作ったこと。


 そして俺が女装好きということをアピールするために今日配信を行ったことを説明する。


 俺の話を黙って聞いていた神谷さんが、俺が話し終えたタイミングで口を開く。


「つまり、お姉様のお願いで女装したと言いたいの?」


「そうだ」


「師匠であるお姉様を脅し、可愛い女の子しかいないギルドに入りたかったわけじゃなくて?」


「そんなつもりはない!」


「ギルドに入る条件が女装好きしか入れないということになったのは、裕哉が本心から女装好きだからじゃないの?」


「違う!本当は女装なんかしたくないんだ!」


「じゃあ、なんで女装好きしか入れないという条件になったの?」


「知らん!和歌奈さんに聞け!」


「私が裕哉くんの女装を見たかったからだよ!」


「………え、じゃあお姉様の指示で女装してたってことですか?」


「そうだよー」


「………裕哉はお姉様の要望に応えるために女装したのですか?」


「そうだよー」


「………ご、ごめんなさい!」


 和歌奈さんの言葉を聞き、すぐさま謝る。


「まさかお姉様の指示で女装してたなんて知らず変態とか言ってしまって!しかも女装好きだからギルド脱退や師弟の縁を切るようなことも言ってしまった!ごめんなさい!」


 まさか自分に非があることをすぐに認めて謝ってくるとは思わず、固まってしまう。


「私、お姉様の弟子が女装好きということを知り、お姉様の株が下がってしまうと思って……」


「あ、いや、いいんだ。そう勘違いする人は絶対いると思ったから。俺は気にしてないぞ」


「そ、そう。ありがと」


 少し気まずそうに感謝を伝える神谷さん。


(自分の非をすぐに認め、言い訳せずに謝ることができる人は少ない。和歌奈さんの言った通り、良い子なんだな。俺がこのまま説明し続けても信じてくれそうになかったが)


 その点、和歌奈さんの言葉を疑うことなく信じているところを見ると、かなり和歌奈さんを信頼しているようだ。


「よし!無事、美柑ちゃんの誤解を解くことができたし、ギルド対抗戦についての話し合いを再開するよ!」


 誰のせいで誤解されたんだよ、という言葉は飲み込む。


「すみません。話し合いの途中だったんですね。私は今すぐ部屋から出ますので……」


「あ、美柑ちゃんにも話し合いに参加してほしかったから、このままここにいていいよ!」


「お姉様がそう仰るなら」


 そう言って神谷さんが空いてる椅子に座る。


「さっき言ったことの繰り返しになるんだけど、美柑ちゃんにはこのメンバーでギルド対抗戦に出てほしんだ!」


「私が愛菜さんたちとですか?」


「うん!どうかな!?」


「はい!お姉様の要望ならば参加します!」


「よしっ!」


 神谷さんの返答に満足したようで、ご満悦の和歌奈さん。


「それじゃあ、5人全員が揃ったし、ギルド対抗戦のルールを説明するよ!特に裕哉くんと芽吹ちゃんはギルド対抗戦に参加したことがないからね!」


「そういえば詳しいルールは知らないですね」


「ウチも毎年ギルド対抗戦は見てますが詳しくは知らないです」


 俺の発言に足立さんが同意する。


「まず、参加できるのは20歳以上の冒険者のみ。今回、裕哉くんは20歳だし、芽吹ちゃんは来月開催されるギルド対抗戦までに20歳を迎えるから2人とも今年から参加することができるよ」


 このルールによって俺は去年、ギルド対抗戦に出ることはなかった。


(まぁ、ギルドに所属してなかったから、どの道出ることはできなかったが)


「出場するギルドが多いため、まずは予選が行われるの。予選ではダンジョン内にいるモンスターを3時間でどれだけ倒すことができたかを競い、上位4ギルドが決勝に進むことができる」


 予選では討伐したモンスターのランクによって討伐した際のポイントが増え、S級モンスターを倒せば100ポイント、A級モンスターを倒せば50ポイントと決まっている。


 そして、その合計ポイントの多い上位4ギルドが決勝へ進むらしい。


「決勝は4ギルド総当たりでのバトルロイヤル。決勝に進んだギルドメンバー全員が同じフィールドに立ち、メンバー同士で攻撃し合うの。一定数のダメージを受けた場合、フィールドから強制的にリタイアする魔法を施すから、死ぬことはないよ」


「なるほど。それで最後まで生き残ったギルドが優勝になるんですね」


「うんっ!何か質問あるかな?」


 俺は和歌奈さんのルール説明に質問などないので首を横に振る。


 どうやら、俺以外のメンバーも質問事項はないようだ。


「よしっ!なら、来月開催のギルド対抗戦に向けて私から1つ命令を与えるよ!」


「命令ですか?」


「うん!私はギルド対抗戦に勝つために最も大事なことはチームワークだと思ってるの!今回、裕哉くんがチームに加わったことは喜ばしいけど、裕哉くんはみんなのことを知らないと思う!もちろん、みんなも裕哉くんのことを知らない!」


「そうですね。俺は皆さんのことをほとんど知りませんね」


「アタシらも裕哉くんとは2回ダンジョンを探索しただけだから、ほとんど知らないな」


「私は今日初めて会いましたね」


「うんうん!だから、私はみんなに1つ、命令を与えるよ!」


 どんな命令になるか検討もつかない俺は和歌奈さんの言葉を待つ。


「明日から裕哉くんはメンバー全員とダンジョン探索という名のデートをしてくること!もちろん、デートなので2人きりでね!」


「はぁ!?」


 俺の困惑した声が部屋中に響き渡った。

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