第23話 神谷美柑、怒りをあらわにする。
〜神谷美柑視点〜
私は『閃光』ギルドに所属する冒険者。
19歳という若さで愛菜さんや千春さんとパーティーを組む芽吹ちゃんほどの天才ではないが、『雪月花』の3人と同じくらいの実力を持っているため、冒険者としての才能は持っていると思う。
そんな私は今、とある配信を見て怒りをあらわにしていた。
「こんな女装大好きな男がお姉様の弟子なんて許せない!」
私が尊敬している和歌奈お姉様のたった1人の弟子が女装好きな変態ということに。
「きっとこれからお姉様は『女装好きな男を弟子にした女』や『弟子が変態なら師匠も変態なんだろう』とか、一生言われ続けるに違いない!お姉様が可哀想!」
そう思うとお姉様を守らなければと思ってしまう。
「昨日、メッセージを貰った時に詳しく聞いておくべきだった!」
昨日の夜、ギルドメンバー全員に裕哉が加入することと、配信することは聞いていた。
だが、『ウチのギルドに入れる男性は女装好きな人だけ』という条件を新たに作ったことは聞いてなかった。
「お姉様の弟子になりたかった私を差し置いて弟子になったお前が、まさか女装好きの変態だったなんて!こんな変態が弟子だなんてお姉様の顔に泥を塗るだけ!」
私は高校生の頃、冒険者として活躍するお姉様が好きで、お姉様が出演するテレビや配信は欠かさず視聴していた。
それほどお姉様大好きな私は、密かに叶えたいことがあった。
それは『お姉様の弟子になること』
私はお姉様の弟子になるため、高校生を卒業すると同時に冒険者となり、お姉様に弟子にしてもらうよう、直談判しようとしていた。
その矢先、お姉様の冒険者引退が報道された。
その報道を知った時は悔しかったが、すぐにお姉様が『閃光』ギルドを立ち上げたことを知り、私はすぐに加入した。
そして最近になってお姉様に弟子がいるとこを知った。
その人は中島裕哉という。
私は裕哉という人物が羨ましくて仕方なかったが、嫌いになるほどではなかった。
しかし裕哉は女装好きな変態ということで、今回の配信でお姉様の顔に泥を塗った。
「許さない!私は裕哉の加入を認めない!」
そう呟いて、私は家を出る。
「待っててください、お姉様!私が裕哉という変態からお姉様をお守りします!」
私はそう声に出しつつ、『閃光』ギルドを目指して走り出した。
〜中島裕哉視点〜
和歌奈さんの声に合わせて配信を終了する。
「いやー、無事に配信が終わってよかったよ!これで裕哉くんをギルドに勧誘する人はいなくなったね!」
「なにか大事なものを失った気がしますが、勧誘が減るのなら嬉しい限りです」
手放しに喜べないが。
「それにしても、裕哉くんの女装、似合ってるって好評だったね!」
「嬉しくないんだけどなぁ」
そんなことを話しながら俺たちは配信の片付けを行う。
しばらく、みんなで片付けを行い、片付けが終わると、俺と『雪月花』の3人は和歌奈さんに呼び出される。
しかし、和歌奈さんからの呼び出しに応じる前に俺はやりたいことがあるので、和歌奈さんに1つ提案をする。
「和歌奈さん。先に着替えてもいいですか?」
ギルドメンバーが片付けてる中で着替えに行くのは申し訳ないと思い、着替えず女装した格好で片付けを行なっていたため、着替えても良いか確認する。
「もちろんダメだよ!」
「ダメなんかい」
なぜか却下される。
「そんなこと言わず、先に和歌奈さんの話を聞こうぜ。和歌奈さん、ああ見えて結構忙しいんだから」
「ああ見えてって言葉は余計なんじゃないかな?」
和歌奈さんが星野さんの言葉にツッコミを入れる。
「はぁ、分かりました。着替えずに和歌奈さんからの話を聞きます」
女装に慣れたのか分からないが、話を聞くくらいなら女装した格好でいいやと思ってしまう。
感覚が麻痺してるせいだろう。
「じゃあ、さっそく今後について話すよ!」
俺たちは和歌奈さんの部屋に集まり、ソファーに座った状態で和歌奈さんの話を聞く。
「まずは、ギルド対抗戦について話すよ。今回のギルド対抗戦は1つのギルドから5人参加できるの。そのメンバーは裕哉くんと『雪月花』の3人、それと神谷美柑ちゃんの5人でエントリーしようと考えてるの」
ギルド対抗戦はギルドに所属している20歳以上の冒険者なら誰でも参加できるため、今回はこの5人で挑むらしい。
ちなみに、芽吹ちゃんは対抗戦の日には20歳になってるから参加できるとのこと。
「俺、神谷さんという子に会ったことないのですが、対抗戦までに仲良くなれますかね?」
「大丈夫だと思うよ!素直でとっても良い子だから!」
「そうですか。それなら良かったです」
その言葉に胸を撫で下ろす。
すると、突然、部屋の扉が勢いよく開き、「お姉様!大丈夫ですか!?」との言葉が聞こえてくる。
何事かと思い扉を見てみると、そこには金髪の髪をサイドテールに結んだ気の強そうな美少女がいた。
「あ、美柑ちゃん!ちょうど良かったよ!美柑ちゃんにも用事があったんだ!」
「私にお姉様が用事を!私、お姉様からの用事なら宇宙にでも行きます!」
「今のところ宇宙まで行かせる用事はないかな」
(なかなか癖のある女の子だなぁ)
初対面でそう思わせてくれる。
「この人は誰ですか?」
俺は気になったため、近くに座っている星野さんへ質問をする。
「あぁ、この子は神谷美柑。『閃光』ギルドに所属する冒険者だ。ソロでA級モンスターと渡り合えるくらいの実力を持っている。歳は裕哉と同じ20歳だな」
「なるほど……なぜ和歌奈さんをお姉様呼び?」
「知らん。本人に聞いてくれ」
「あ、はい」
結構気になることのような気はするが、星野さんにとっては気にならないらしく、知らないとのこと。
星野さんが知らないようなので、これ以上の詮索はやめ、俺は神谷さんに話しかける。
「こんにちは、神谷さん。俺、中島裕哉って言うんだ。今回、ギルド対抗戦で一緒の仲間になるらしいからよろしくね」
同い年ということで敬語を使わずに話しかける。
すると、ものすごく嫌そうな顔をして…
「私に話しかけないで、変態!」
「………え?」
なぜか罵倒される。
「聞こえなかった?話しかけないでって言ったの!」
「………」
(えぇ、めっちゃ嫌われてるやん)
すると、俺のことなど眼中にないかのように、和歌奈さんへ話しかける。
「お姉様!私は今日、あることをお願いしに来ました!」
「嫌な予感しかしないけど一応聞くよ。何かな?」
「私は裕哉とかいう変態を今すぐこのギルドから脱退させるべきだと思います!そして、師弟の縁を切るべきです!」
「うん、そんな気がしたよ」
(和歌奈さん。素直でとっても良い子という評価、考え直した方がいいと思いますよ)
そんなことを思った。
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