第7話 底辺配信者、ダンジョンから帰還する。

「ね、弱かったでしょ?」


「そんなわけあるかぁぁぁぁ!!!!」


 星野さんの大きな声がボス部屋に響き渡る。


「裕哉くんに聞きたいことがある!」


「な、なんでしょうか?」


 星野さんの迫力に押され、詰まりながら返答する。


「あのジャンプはなに!?20メートルはジャンプしてたぞ!?」


「あれは普通にジャンプしただけです。本気を出せば100メートルくらいはジャンプできます」


〈いや跳びすぎww〉


〈普通にジャンプして20メートルかよww〉


「さっき、ドラゴンのブレスを斬ってたぞ!そんなことできるのか!?」


「剣をものすごく速く振ればできます。ただし、失敗すれば「あちっ!」となって火傷するでしょう」


〈火傷じゃ済まねぇよww〉


〈骨すら残さないレベルで燃えるわ!〉


〈あのブレスを見て「あちっ!」で済むと思ってんのかよww〉


「じゃあ剣から斬撃が飛んでたぞ!あれはなんだ!?」


「剣をものすごく速く振れば出ます。『斬撃飛ばせねぇかな〜』と思い特訓しました」


「「「………」」」


〈できるかぁぁぁ!!!〉


〈『斬撃飛ばせねぇかな〜』で斬撃飛ばせんのかよww〉


〈相変わらずツッコミどころしかねぇww〉


(あれ?俺は変なことを言ったのか?)


 固まってる3人の反応を見て、そんなことを思う。


「色々と言いたいことはあるが、言っても無駄だから放置しよう。どうせ、訳の分からない返答が返ってくるだけだ」


「ですね。ウチも放置が正解だと思います。これ以上話すとツッコミで愛菜先輩の声が枯れそうです」


「そうね。裕哉さんって常識が分かってないようだから」


 どうやら俺は常識知らずと思われてるらしい。


「ってそんなことより、裕哉くん。アタシたちの代わりにモンスターと戦ってくれてありがとう。裕哉くんのおかげで無事に帰還できそうだ」


 星野さんの発言にあわせて3人が頭を下げる。


「顔を上げてください!お礼なら帰還した時にいただくので、感謝なんてしなくていいですよ!」


 俺は本心で思っていることを伝える。


「そうだな。帰還した時は最高級のお礼をしよう」


「期待しててくださいね!」


「裕哉さんが貰って嬉しいプレゼントを用意するわ」


「はい!楽しみにしてます!」


 そう言って3人は顔を上げる。


〈おい、最高級のお礼だってよ〉


〈命の恩人へのプレゼントだ。きっと「プレゼントは、わ•た•し♡」的なのだと思う〉


〈な、なんだと!?俺の愛菜ちゃんがこんな男に取られるだと!?ぶっ殺してやる!〉


〈俺が妹のように可愛がっている芽吹ちゃんをお前なんかにやらねぇ!ぶっ殺してやる!〉


〈コイツ!エロエロな身体付きの千春ちゃんからエッチなプレゼントを貰うだと!?ぶっ殺してやる!〉


〈返り討ちにされるわww〉


「あ、そうだ。そろそろ出るから配信を視聴してくれた方に挨拶しないと」


「そうですね。俺もダンジョンを出ることにしますので配信を見てくれた人に挨拶してきます」


 俺は星野さんたちと離れた場所に移動し、カメラの位置を確認する。


 そして、コメント欄を見るためスマホを開くと…


「同接者6000万人!?」


 驚愕の数字が目に入る。


「え!?ナニコレ!?」


 俺が数字の異常さを受け止めきれないでいると「同接者8000万!?なんじゃこりゃ!」という星野さんの声が聞こえてくる。


「向こうも異常な数字を口走ってるなぁ」


 俺の方が少ないということもあり、少し冷静になる。


「今日は配信を見てくれてありがとう」


〈とても面白かったぞー!〉


〈レッドドラゴン亜種の瞬殺、素晴らしかったです!〉


〈カッコよかったです!『yu-ya』さんのファンになりました!〉


〈次の配信も見ます!〉


「ははっ!ありがとう!でも、俺の配信は妹と幼馴染を楽しませるためのものだから視聴者の期待に添える配信ができるか分からないぞ?」


〈妹さんと幼馴染さんが大好きなんですね!〉


〈文句なんて言いませんよ!今日みたいにモンスターを討伐するだけの配信で大丈夫です!〉


〈俺は『yu-ya』がモンスター相手に無双するところを見るだけで満足だ!〉


「そうか。それなら良かった」


 視聴者の期待に応える配信を行うことができる自信がなかった俺は、みんなの言葉に一安心する。


「次の配信は明日の13時から行う予定だ。妹と幼馴染から希望があったからな」


〈おー!明日も『yu-ya』の配信が見れるのか!〉


〈めっちゃ楽しみ!明日も見ます!〉


〈ちなみにどこのダンジョンに行くんですかー?〉


「そうだな。特に決めてはないが多分このダンジョンだ」


〈ってことはSランクダンジョン!明日も今回のように訳の分からないことが起こるぞー!〉


〈ちょー期待!拡散します!〉


〈拡散祭りじゃ!〉


「いや、張り切って拡散しなくても……まぁ、いいか。そんなわけで、また明日会いましょう。今日はありがとうございました」


 俺はカメラに手を振って配信を終了する。


「ふぅ、美月と紗枝以外の人へ向けて配信するって大変だな。変な気を使うよ」


 そんなことを思いつつ、星野さんたちの方へ向かうと「エ、エッチなプレゼントなんかしない!そんなの破廉恥だ!」という発言が聞こえてくる。


(何の話をしてるかは知らないが、時間がかかりそうだな)


 俺は星野さんたちの様子を眺めつつ、LINEを開く。


 そして俺と美月、紗枝の3人グループにメッセージを打ち込む。


『今日も冒険者協会に行ってくる。そこで紗枝のお母さんに会って換金してくるから帰りは遅くなる』


『ん、わかった』


『気をつけて帰ってきてねー!』


 俺は適当なスタンプで返信をして星野さんたちの方を見ると、いつの間にか配信が終了していた。


「あれ?まだ時間がかかりそうだったけど、もう終わったんですね」


「はい!といっても、愛菜先輩が無理やり終わらせたんですけどね」


「えぇ。「破廉恥だっ!」と言って無理やり終わらせたわ」


「視聴者のみんながアタシたちをどんな目で見てるか、少しだけ分かったよ」


(視聴者は何を言ったんだろ……)


 とても気になるが聞かない方がいいと思い、俺はこの話を終わらせる。


「じゃあ、外に出ますか」


「そうだな。帰ってはやく風呂に入りたい」


「ウチもー!」


「そうね。さすがに汗をかき過ぎたわ。後半、何もしてないけど」


 そんな話をしながら俺たちは帰還した。




〜とあるSNS〜


159 名無しの暇人

【拡散希望】

 明日の13時からレッドドラゴンを何体も瞬殺し、レッドドラゴンの3倍も大きいフロアボスを瞬殺した『yu-ya』が配信するってよ。


160 名無しの暇人

 やばっ!それ、絶対見ないといけないやつ!


161 名無しの暇人

 それ。明日は仕事中にトイレ行って配信見よ。


162 名無しの暇人

>>161

 仕事しろよ。


163 名無しの暇人

>>161

 気持ちはわかる。


164 名無しの暇人

>>159

 とりあえず拡散は任せろ!


165 名無しの暇人

>>159

 今日の配信マジ面白かったから拡散手伝うわ!


166 名無しの暇人

>>159

『yu-ya』様のカッコ良さを全国民に知らせる時!私も全力でお手伝いしますわ!


167 名無しの暇人

>>159

『yu-ya』様はいずれこの世界を救ってくれるお方。いえ、神になられるお方。それくらい『yu-ya』様は素晴らしい。私も拡散のお手伝いしよう。


168 名無しの暇人

 熱狂的なファンが付くのはやすぎww


169 名無しの暇人

>>164.165.166.167

 拡散よろしく!




 そんなことが俺の知らないところで起こっており、俺の名前がSNSで広まり続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る