第6話 底辺配信者、フロアボスを瞬殺する。

 その後、俺たちはフロアボスを目指し先へ進む。


「はーい、1体目ー!」


“ザシュッ!”


「ほーい、2体目ー!」


“ザシュッ!”


「はい、3、4体目ー!」


“ザシュッ!”“ザシュッ!”


「お!あそこに5体目ー!」


“ザシュッ!”


 俺は進む先々に出現する『空飛ぶトカゲ』を出会い頭に瞬殺する。


「アタシら、裕哉くんの後ろを歩いてるだけなんだが」


「さっきから裕哉さんが瞬殺するので、ウチらの出番がなくて平和ですね」


「ここまでくるとレッドドラゴンが可哀想だわ」


「だな。いろいろ言いたいことはあるが全て気にしないようにしよう」


「ですね」


「そうね」


 後ろからそんな会話が聞こえてくる。


〈いや、おかしいだろ!ツッコミどころ満載だわ!頼むから気にしてくれ!〉


〈レッドドラゴンが現れたと思ったら一瞬で魔石になってるんだが!?〉


〈しかも『yu-ya』が攻撃するところを視認できないんだけど!俺だけ!?俺だけなのか!?〉


〈安心しろ。俺も『yu-ya』が消えたと思ったらレッドドラゴンが魔石になってる〉


〈ふっ、雑魚どもが。こんなのも見えないのか〉


〈奴はおそろしく速いスピードで動いて、おそろしく速い斬撃を繰り出してる。俺でなきゃ見逃しちゃうね〉


〈でしょうね!それくらい俺でもわかるわ!〉


 そんな感じで俺がモンスターを瞬殺していると、一際大きな扉に辿り着く。


「着きました。ここがフロアボスの部屋です」


「こ、ここが90階のフロアボスか」


「な、なんだか緊張しますね」


「そうね。裕哉さんは何度も戦ってるようだけど、私たちは初めてだもの」


 3人は扉の前で緊張した面持ちとなる。


〈90階のフロアボスは敵の名前すら分かっていない。俺が戦うわけじゃないが、ドキドキしてきたぞ〉


〈わかるぞ、その気持ち。俺もドキドキしてる〉


〈『yu-ya』は雑魚モンスターと言ってるけど、フロアボスは討伐難易度が上がる。おそらくレッドドラゴンの数倍は強いから負ける可能性もある。愛菜たちが無事に帰還できることを祈ろう!〉


〈そうだな。俺も無事に帰還できることを祈ろう〉


〈星野さんたちは無事に帰って来れるから祈る必要なんてないよ!私のようにポップコーンでも食べながら気楽に見ようよ!〉


〈その通り。ユウが雑魚モンスター相手に負けるはずない。私なんてベッドの上でお菓子食べながら見てる〉


〈くつろぎすぎだ!〉


〈俺たちとの温度差がありすぎだろww〉


「では作戦会議です。ここのフロアボスも雑魚モンスターですので、俺1人で十分です。なので、星野さんたちは戦わなくて大丈夫です。部屋に入ったら、その辺に突っ立っててください」


「待て!相手はフロアボスだぞ!アタシたちが戦力にならないのは分かってるが、少しでも裕哉くんの手助けがしたい!」


 星野さんの発言に園田さんと足立さんも頷く。


「その申し出はありがたいのですが、これくらいのモンスターなら星野さんたちの手を煩うほどではありませんよ」


「ダメだ!裕哉くんが頑張ってる最中に突っ立ってるだけなのは申し訳ない!何かしてほしいことはないか!?」


 星野さんからお願いされる。


(おそらく俺だけが戦闘をしてることに対して罪悪感を感じてるんだろう)


 そう思い、俺は一つ提案をする。


「わかりました。なら、帰還した時、何かお礼をしてくれれば大丈夫です」


「え?」


「これで戦闘を全て俺に任せたことに対して罪悪感を感じる必要はないですよね?」


「ま、まぁ、裕哉くんがそれでいいなら」


「ならそれでお願いします」


「わかった。裕哉くんの要望通り、部屋に入ったら安全なところで突っ立ってる。念の為、戦闘準備はしてるから、何かあればすぐ声をかけてくれ」


「わかりました。では開けますね」


 俺の声掛けに3人が頷き、俺は扉を開ける。


 すると、そこには先ほどのモンスターが可愛く見えるほどの大きなトカゲが上空を飛んでいた。


「デ、デカいっ!」


「このモンスターって新種じゃないですか!?」


「そうね!ここまで大きなドラゴンは見たことないわ!容姿はレッドドラゴンと変わりはないけど、レッドドラゴンの3倍は大きいはずよ!名付けるなら『レッドドラゴン亜種』ね!」


「グォォォォォォォッ!!!」


 俺たちを発見した大きなトカゲが咆哮を上げる。


〈お、おい!めっちゃ強そうじゃねぇか!レッドドラゴン亜種!〉


〈これが【奈落】と呼ばれるSランクダンジョンの90階ボス!レッドドラゴンを瞬殺した『yu-ya』でも危ない戦いになるんじゃないか!?〉


〈俺もそう思う。きっとギリギリの戦いになるはずだから『yu-ya』でも瞬殺は無理だろうな〉


〈今回は何秒かなー?〉


〈私は10秒。今日は動きが良いからいつもより速く終わるはず〉


〈なら私は15秒ー!負けた方がジュース奢りだからね!〉


〈問題ない。ユウなら10秒で終わるから〉


〈この状況で賭けごと始めとる奴がいるんだけど!愛菜たちの身が心配じゃないのか!?しかも10秒で終わるとか言ってるし!〉


〈あ、その2人のコメントは無視してくれ〉


〈無視できるかぁぁぁぁ!!〉


「皆さんはここにいてください」


「わかった。何かあったらすぐに命令してくれ。サポートに入る」


 俺は3人に指示を出し、空を飛んでるトカゲを見る。


「一応、コイツの特徴と弱点を教えます。コイツは知性があって自分がピンチになると飛んで逃げます。それに自分から弱点を晒して突っ込んでくることもありません。なので、まずは両翼を潰します」


「両翼を潰す?どーやって?」


「こんな感じです。よっと!」


 俺は20メートル上空を飛んでるトカゲの目の前までジャンプする。


「は?」


〈え?〉


「グォッ!」


 突然、目の前に現れた俺に驚いたトカゲが、俺に噛みつこうと攻撃動作に移る。


 しかし、驚いたことによって次の行動が遅れたため…


「遅い」


 俺は腰にある剣を引き抜き、2回ほど剣を振る。


 そして、左右にある翼を綺麗に切り落とす。


「グァァァァァァ!」


 空中で両翼を失ったトカゲは飛ぶことができなくなり、地面に落下する。


〈えぇぇぇ!!!レッドドラゴン亜種が落下してるんだけど!〉


〈待て待て!何があった!?〉


〈『yu-ya』の姿が消えた瞬間、『yu-ya』とともにレッドドラゴン亜種が空から落ちてきた。以上だ〉


〈だよな!〉


「こうなればあとは鱗の少ない顔へ攻撃するだけです」


 俺はトドメの一撃を加えるため、俺と一緒に落下しているトカゲに向けて剣を振りあげる。


 すると、体勢の整ったトカゲが俺の方を向いて口を開ける。


「っ!ブレスが来ます!!避けてください!」


「無理よ!落下中の裕哉さんに逃げ場はないわ!」


「裕哉くん!」


 下の方では俺に身の危険を感じたのか、3人が叫び出す。


「大丈夫ですよ。勝負ありです」


“ゴォォォォォォッ!!!”


トカゲの口から赤いブレスが放たれる。


〈やべぇ!死ぬぞ!〉


〈避けろーっ!〉


 視界いっぱいに広がる巨大なブレス。


 俺は迫り来るブレスめがけ、振りあげていた剣を目にも止まらぬスピードで振りおろす。


「はぁーっ!」


 すると剣から斬撃が飛び出し、トカゲのブレスを一刀両断する。


 そして、放った斬撃は勢いをそのままにトカゲを真っ二つにする。


「グ……ォォォ……」


 俺の斬撃を防ぐことができなかったトカゲは魔石だけを残して消える。


〈は!?『yu-ya』の奴、ブレスを斬ったのか!?〉


〈ガッツリ斬ってた!しかも剣から斬撃みたいなのが飛んでたし!〉


〈俺も見えたぞ!斬撃がブレスとレッドドラゴン亜種を斬ったところを!〕


〈だよな!冒険者って剣から斬撃飛ばせるのか!?〉


〈そんなわけないだろ!斬撃飛ばす冒険者なんか聞いたことないわ!〉


〈今回の討伐時間は8秒。だから私の勝ち〉


〈くそー!討伐タイムが日に日に良くなってる!初めての討伐は30秒かかったのに!〉


〈おい、8秒で討伐したらしいぞ〉


〈瞬間移動してたからな。それくらいの時間だろう〉


〈『yu-ya』強すぎっ!〉


 トカゲを倒した俺はトカゲの魔石と一緒に地面に着地する。


 そして、“ぽかーん”と口を開けて固まってる3人に話しかける。


「ね、弱かったでしょ?」


「そんなわけあるかぁぁぁぁ!!!!」


 星野さんの大きな声がボス部屋に響き渡った。

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