第8話 底辺配信者、有名人となる。

 ボスを討伐した後に出現するワープに入り、外へ出る。


「まさか無事に外の空気が吸えるなんて」


「そうね。私も信じられないわ」


「レッドドラゴンに出会った瞬間、死を覚悟しましたから」


 3人が外の景色を見て感動している。


「大げさですよ。あのモンスターは雑魚なんですから」


「そう思ってるのは裕哉くんだけだから」


「そうですか?俺の妹と幼馴染も雑魚だと思ってますよ?以前、フロアボスの口から火が出た時なんて『この火で花火ができるねー!』とか言ってましたから」


「2人はドラゴンのブレスをチャッカマンとでも思ってんのか?」


 星野さんから呆れながらツッコまれる。


「まぁいい。そんなことよりも裕哉くん。アタシらとLINEを交換しよ。お礼する時に連絡を取り合えないのは困るからな」


「わかりました」


 俺は星野さんと園田さん、足立さんの3人と連絡先を交換する。


(女の子の連絡先をもらってしまった。しかも同年代の。美月と紗枝以外では初めてだ)


 高校までの学校生活では美月と紗枝しか異性と話さなかったので、同年代の女子と連絡先を交換する機会がなかった。


「では、アタシらは所属しているギルド『閃光』に顔を出しに行く。裕哉くんはどうするんだ?」


「俺はギルドに入ってないので換金場所の冒険者協会に向かいます。でも、本当に良かったんですか?俺が全ての魔石をいただいても」


「当たり前だ。アタシたちは裕哉くんの後ろを歩いてただけなんだから。遠慮なくもらってくれ」


「わかりました。お言葉に甘えて魔石は俺がいただきます」


「じゃあ、またな。今日はありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございました!」


 俺は星野さんたちに別れの挨拶をして、冒険者協会を目指した。




「さて、ここからだと歩いて10分だ。のんびり歩くか」


 俺はいつものように冒険者協会を目指して歩く。


 すると1人の女の子が話しかけてくる。


「あ、あの。もしかして先程まで『yu-ya』というアカウントで配信されてた裕哉さんですか?」


「あ、はい。俺は『yu-ya』ですが何か用事でも………」


――あるのですか?という言葉は女の子の叫び声でかき消される。


「キャァァァァァァ!!『yu-ya』さんに会えるなんて!私、さっきまで配信見てました!とてもカッコ良かったです!」


「あ、ありがとう」


 そして握手される。


 突然の出来事に困惑していると…


「へぇ、お前が『yu-ya』か。思ってたよりヒョロヒョロじゃねぇか。だが、カッコよかったぞ」


「さっきの配信見てました!レッドドラゴンの瞬殺はすごかったです!」


「『雪月花』の3人と探索したんだよね!?今度コラボしたりするの!?」


 俺の周りにたくさんの人が集まっていた。


(さっきの配信効果ありすぎっ!有名人みたいな扱いされてるんだけど!)


 一瞬で囲まれてしまった俺は一歩も動けなくなる。


 今も様々な言葉をかけられるが、俺は聖徳太子ではないので、誰が何を言ってるかが全く分からない。


(くそっ!ここはダンジョン内じゃないから、この包囲網をジャンプして突破することなんてできない!)


 冒険者はダンジョン内に充満している『魔素』に適応できる人間しかなれず、『魔素』を利用しないと自分の身体を強化してモンスターと戦うことができない。


 そのため、『魔素』がないダンジョン外では冒険者といえど、身体能力は一般人レベルとなる。


 俺はたくさんの人に囲まれて困っていると「ごめんなさい、ちょっと通るわ」という言葉が聞こえてくる。


(ん?なんか聞いたことのある声が聞こえてきたぞ?)


 俺が疑問に思っていると、人混みをかき分けて1人の女性が現れる。


「やっぱり大変なことになってたわね」


 そこには紗枝のお母さんで冒険者協会の会長を務める『梅木七海』さんがいた。


 紗枝と同じ赤い髪をショートカットにしており、20歳の娘がいるとは思えないほどの美貌を保っている。


「紗枝から冒険者協会に寄ることを聞いて駆けつけたけど、間に合わなかったわ。今の裕哉くんは有名人なんだから、変装とかしないとダメよ」


「まさかここまで有名になってるとは思ってなくて。来てくれてありがとうございます」


 突然の登場に驚いたが、俺1人ではどうしようもできない状況なので、七海さんの登場に感謝する。


「お、おい!あれって冒険者協会の会長じゃね!?」


「ってことは冒険者とギルドを束ねる冒険者協会の中で1番偉い人ってこと!?なんでそんな人がここに!?」


「そんなの『yu-ya』に用事があるからに決まってるだろ!」


 そして、七海さんの登場に驚いたのは俺だけではないようで、俺の周りにいた人たちも驚きの声をあげる。


「あんな配信が全世界に広まれば有名人になるに決まってるわよ」


「俺は普通に雑魚モンスターを倒しただけなんだけど、みんながS級モンスターを倒したって騒いでるからこんなことになったんだよなぁ」


「そう思ってるのは裕哉くんだけよ。とりあえず、冒険者協会へ行きましょう。君のおかげで話したいことが山ほどできたわ。3時間は帰れないと思ってね」


「えーっと……疲れてるから3分くらいで終わらせてくれるとありがたいです」


「ふふっ、面白い冗談を言うのね。雑魚モンスターのレッドドラゴンを瞬殺したくらいで疲れてるわけないよね?」


「………はい。疲れてないです」


 俺は七海さんに連れられて冒険者協会へと向かった。




 冒険者協会へ辿り着いた俺と七海さんは、会長室に入る。


「さて、言いたいことは山ほどあるけど、まずは『雪月花』の3人を助けてくれてありがとう。といっても、私が何を言ってるかわかってないと思うけどね」


「はい。何言ってるかわかりませんね。俺の助けなんかなくても星野さんたちなら楽勝で勝てたと思いますから」


「言うと思ったわ」


 七海さんが「はぁ」とため息をつく。


「裕哉くんが冒険者としての常識を知ってくれると私が変な苦労をすることなんてないのだけど」


「俺、冒険者としての常識は知ってると思いますよ?」


「知ってる人は100階層のフロアボスをお散歩感覚で討伐しないの。覚えてる?裕哉くんが初めてここに魔石を持ってきた時のことを」


「もちろんです。あの時は初めての換金でワクワクしたのを覚えてます」


 俺は懐かしむように初めて魔石を持ってきた時のことを思い出す。


「私も鮮明に覚えてるわ。裕哉くんが持って帰った魔石の数に驚いたことを。あの時、1日で持って帰る量じゃなかったからね?周りの人、驚いてたからね?」


「あー、あの時は1人で潜る初めてのダンジョン探索だったので張り切って、海外旅行用のキャリーバッグを2つ持って探索してましたからね。おかげで大量の魔石を持って帰れました」


「旅行に行く感覚でダンジョンに潜られても困るのだけど。まぁ、あの時は『今日1日でゲットした魔石じゃない』と説明して大ごとにはならなかったけどね。1人でダンジョンに潜る前、下調べとかしなかったの?」


「もちろんしました。ダンジョン探索は命懸けですから」


「調べてこの有様なのね。ちなみに調べて何を知ったの?」


「今日行ったダンジョンは100階層まで雑魚しかいないってことですね。その文章を見て調べるのをやめました」


「桁を盛大に間違えてるわね。それ、10階層までは雑魚しかいないってことよ。100階層のボスモンスターを雑魚だと思ってるのは裕哉くんだけ………ではないわね。裕哉くんと美月ちゃんと紗枝だけよ」


「でも100階層のボスも弱かったですよ?前回は20秒で倒しましたから。俺の中では戦いすぎて友達の部類に入りますね」


「………これから星野さんみたいなツッコミ役を部屋に常駐させようかしら」


 七海さんが天井を見上げつつ、そんなことを呟いてた。

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