第2話 星野愛菜、S級モンスターが瞬殺される瞬間を目撃する。

〜星野愛菜視点〜


 時は少し前に遡る。


 アタシ、『星野愛菜ほしのあいな』は同い年の『園田千春そのだちはる』、後輩の『足立芽吹あだちめぶき』の3人でパーティーを結成しており、今日は東京にある【奈落】と呼ばれるSランクダンジョンを探索しつつ生配信をしていた。


 Sランクダンジョンだが浅い階は比較的弱いモンスターしか出現しないため、配信しながらでも順調に探索することができていた。


 しかし、ちょっとしたミスで罠に引っかかってしまい、どこかの階へ転移させられた。


 すると目の前にSランクモンスターであるレッドドラゴンが現れ、急遽レッドドラゴンと戦うこととなった。


「愛菜先輩!ここ、多分90階です!Sランクパーティーだった『月牙』が全滅した場所に似てます!」


「ってことは、まだ誰も攻略してない階層に飛ばされたってことか!」


 現在、アタシたちが入っているSランクダンジョンは89階まで攻略されており、90階は攻略されていない。


 理由はこの階にSランクモンスターに分類されるレッドドラゴンが大量に飛び回っているからだ。


〈おい!罠に引っかかって90階に飛ばされたらしいぞ!〉


〈ってことは日本最強パーティーだった『月牙』が全滅した階ってこと!?愛菜ちゃんたちも死んじゃうの!?〉


〈『月牙』が全滅した時の配信は今でも覚えてる。レッドドラゴン1体になす術なく殺されたからな〉


〈俺も覚えてるぞ。あの配信は悲惨だった〉


〈急いで救援要請を!〉


〈無理だ!90階に入れる冒険者なんていねぇよ!〉


「千春!芽吹!遠距離攻撃で牽制しつつ距離を取るぞ!」


「えぇ!」


「わかりました!」


 アタシはレッドドラゴンから距離を取るよう指示を出す。


〈ダメだ!千春ちゃんと芽吹ちゃんの魔法が効いてねぇ!〉


〈嘘だろ!Sランクパーティーの攻撃だぞ!?どんな硬さをしてるんだ!〉


〈多分、魔法耐性が強いんだろう!愛菜ちゃんの斬撃は効いてるぞ!〉


〈いや、愛菜ちゃんの攻撃も傷をつける程度でダメージを与えているとは言えない!〉


 アタシたちの攻撃はダメージを与えることができず、体力だけが消費されていく。


〈このままじゃ『月牙』みたいに愛菜たちも殺されるのか!〉


〈愛菜たちが死ぬところなんて見れない!〉


〈馬鹿野郎!目を逸らすな!俺たちはレッドドラゴンの弱点を探すんだ!〉


(マズイ!このままだとホントに全滅だ!せめて千春と芽吹だけでも帰還させないと!)


そう思い思考を巡らせるが、良い方法を思いつかない。


〈お、おい!画面の端に男が歩いてるぞ!〉


〈マジだ!えっ!あいつ、スマホ触りながら歩いてるやん!〉


〈歩きスマホしてる場合か!目の前のドラゴンが見えねぇのか!〉


 アタシが攻撃を仕掛けつつ思考を巡らせていると、視界の端に1人の男の子が映る。


「君も罠に引っかかってここへ飛ばされたのか!だったらすぐに逃げろ!」


「今すぐ逃げてください!コイツはS級モンスターのレッドドラゴンです!」


「まだ誰も倒したことのないS級モンスターよ!私たちが時間を稼ぐから今すぐ逃げなさい!」


 どうやら千春と芽吹も男の子が視界に映ったようで、千春たちも逃げるよう促す。


「あっ!ごめんなさい!戦闘の邪魔ですよね!すぐに逃げます!」


〈と言いつつも、スマホ見ながら呑気に歩く男〉


〈3人からの「逃げろ!」を聞いても逃げようとしないんだけどww〉


〈もはや自殺志願者だろww〉


〈そして「うるせぇぇぇぇ!!急いで退けばいいんだろ!」と、スマホに向かって叫び出した男〉


〈あ、男の配信を見てる人も遂に逃げるよう注意したか〉


〈いや遅すぎww視聴者は何を見てたんだよww〉


「ちょっ!何を呑気にスマホなんか見てるんですか!死にたいんですか!?」


「す、すみません!」


〈あ、芽吹ちゃんから怒られた〉


〈芽吹ちゃんに怒られてようやく走り出したか……ってレッドドラゴンに向かって走っとる!〉


〈もはや殺されに行ってるわww〉


〈しかもスマホ片手に突っ込んで行ったぞ!アイツが腰にぶら下げてる剣は飾りか!飾りなのか!?〉


(なんでこの人、ドラゴンの方へ走ってきてるの!?)


 そう思い、アタシは慌てて男に指示を出す。


「違う!そっちに逃げるんじゃない!来た道を戻れ!」


「えっ!俺、先に進みたい……」


「はやく!」


「あ、はい」


〈そして次は愛菜ちゃんから怒られとる〉


〈いや、普通この状況で逃げる方向間違えんくね?ww〉


〈マジでレッドドラゴン見えてない説あるww〉


〈そしてスマホに向けて「笑いすぎだ!」とツッコミを入れる男〉


〈いや笑い事じゃねぇよ!あの男の視聴者は全員笑ってんのか!?〉


〈あの男の視聴者のメンタルが知りてぇww〉


〈S級モンスターと対峙するという異常事態なのに俺たちの緊迫感が薄れていくww〉


「だからスマホなんか触らず逃げろ!でないと、レッドドラゴンの標的に……っ!危ない!」


〈ヤベっ!男にレッドドラゴンが特攻してる!〉


〈死ぬぞっ!〉


〈避けろーっ!〉


「あー、これは避けれんな。だから……はぁっ!」


 と、男が呟き、“ザシュッ!”という音が聞こえてくる。


 すると、その攻撃でトカゲが真っ二つとなり、魔石を残して消滅する。


〈へ?〉


〈ふぁ?〉


〈んぁ?〉


 そして男が「ふっ、こんなもんよ」とキメ顔をする。


「は?」


「え?」


「マジ?」


(嘘でしょ!レッドドラゴンを一撃!?え、これは夢!?それとも幻覚!?)


 そう思ったのはアタシだけではないようで、千春や芽吹も驚いた顔をして固まっていた。


〈この男、レッドドラゴンを一撃で倒したんだけどぉぉぉ!!!〉


〈コイツ、まだ誰も討伐したことないS級モンスターを瞬殺しとる!!〉


〈待って、これって合成だよね?こんな強い男、実在しないよね?〉


〈誰コイツ!?こんな奴が日本にいたのか!?〉


〈求む!この男の情報を求む!〉


 アタシたちが男の強さに驚いていると、なぜか正座して…


「君たちのモンスターを横取りしてごめんなさい。魔石は君たちにあげるので許してください」


 訳の分からないことを言いながら土下座し始める。


〈そして謎の土下座!〉


〈待って、このタイミングで土下座する意味がわからんww〉


〈しかも「魔石あげる」とか言ってるぞ!S級モンスターの魔石をあげるって数100万円をプレゼントしてることと同じなんだけど!?〉


〈愛菜ちゃんのピンチを聞き、配信に駆けつけたワシ、男が土下座してる画面を見せられて困惑してるんだけど?〉


〈お、愛菜ちゃんのピンチなら終わったぞ。そこで土下座してる男がレッドドラゴンを一撃で倒したからな〉


〈どゆこと!?ツッコミどころしかないんだけどww〉


 そして、アタシの知らないところで視聴者が盛り上がっていた。

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