第324話 被弾

 俺は先行して現地入りしていた霞部隊の手引きで、浜から奥に周りを注意しながら進んでいく。

 俺の知る上陸作戦って、昔映画で見たあの有名なノルマンディー作戦だったが、あれは本当に命が簡単に零れ落ちるような場所として描かれていた。

 現実はもっと酷かったようだが、映画だったのでエンターテインメントだと知っているので見ることができた話で、自分が経験するとなると絶対に無理なことだが、今回の作戦ではあの映画のような喧騒は一切ない。

 まあ、月明かり一つない闇夜での作戦なのだから、とにかく敵に見つからないように上陸するので、光はもとよりできる限り騒音を出さないよう最大限注意している。

 ベテランの兵士に言わせると、成功すれば確かに被害なく進駐できるが、月明かりも無い状態での作戦実施は自殺行為ですらあるそうだ。

 まあ、今回は霞部隊や海軍さんの精鋭部隊の活躍で、その自殺行為と言われる作戦が今のところは成功している。

 そう、敵に気付かれることなく上陸する作戦は今のところ成功していると言えるが、それでも浜にいるとあの数の小型艇のエンジン音や、浜に乗り上げる時に発する音は相当なものだ。

 それでも霞部隊の兵士がいうには、『あんなのは波音で消されますから問題ありません』だと。

 それよりも海上を警戒する兵士に見つかる方が問題だと、霞部隊が最大限警戒しながら進んでいる。

 俺たちは霞部隊の協力もあって一人の欠員も出さずに浜から脱して、防砂林を超えトロッコレールの敷設されている場所まで来た。

 暗くてよく分からないが、500mおきにトーチカが作られており、その横には帝国軍艦相手に向けて砲台も作られているとか。

各砲台やトーチカ内にどれほどの弾薬を保管しているかは不明だが、それでも各砲台を結ぶトロッコレールは敷設されていると霞部隊は保証してくれる。

 なら、最初の計画通りに、このトロッコレールを辿り弾薬庫を探すこととしよう。

 幸い霞部隊はこの後も俺たちに同行してくれるとのことなので、彼らに俺たちの安全を確保してもらう。

 俺たちは十分に周りを気にしながら進んでいく。

「大尉、この先に砲台があります」

「流石にレール伝いではあまりに目立つな」

「林の中に入りましょう」

「ああ、小隊単位で別れて進む。この先の分岐の近くで落ち合おう」

 俺の指示で、一斉に分かれて林の中に入っていく。

 俺も霞部隊について林の中を進む。

 最初の分岐を見つけた。

「ここに一個小隊を残す」

「え、どういう意味ですか」

 クリリン秘書官が俺に聞いてきた。

「直ぐに破壊して進めればいいが、破壊中の音から敵に見つかっても面白くない。なら、一個小隊を残して、俺たちが弾薬庫を破壊する音、気配を合図に破壊してもらった方が敵がより混乱するだろうし、何よりより安全が確保できそうだ」

「確かにそうですね」

 俺の説明を聞いていた霞部隊の兵士が感心するように声を出していた。

「なら私の所から出します」

 陸戦中隊長が、名乗り出てくれたので、俺は人選を含めて彼女に任せて先に進む。

 こんな感じで5か所の分岐を過ぎた頃にやっと目的とする弾薬庫らしい建物を見つけた。

 当然弾薬庫だから類焼防止のために建物の周りを土塀で囲まれており、またその近くに警戒のための歩哨小屋もある。

 中には不寝番も相当数いる筈だ。

「さてさてどうしたものかな」

「隊長、そろそろおっぱじめてもいいのでは」

 メーリカさんが俺に言ってくる。

「そうですね、流石にここまでは上手くいきすぎておりましたから。ですがこれ以上は」

 時計で時間を確認すると、かなり時間も経っていた。

 遠くの方からはいくつかの銃声も聞こえて来た。

「あっちでも始めたようですしね」

 さも人ごとのようにクリリン秘書官までもが言って来る。

 俺は霞部隊の隊長さんに確認を取った。

 何せ、霞部隊は隠密行動を旨とした部隊だ。

 そんな人たちに派手な戦闘をさせても大丈夫かが心配になり、聞いてみた。

「霞部隊としては戦闘をしても大丈夫なのですか。それともここで分かれますか」

「分かれる?それはどうして。我々も軍人です。いくらでも戦闘はしますよ」

「これは失礼しました。てっきり霞部隊って忍者のように派手な戦闘はしないのかと思っておりましたから」

「何です、その『忍者』って」

「あ、失礼しました。スパイ、エージェント、う~~ん何と言って良いものか。とにかく隠れて決して姿を現さない人たちなのかなって思ったからです。決してあなた方を貶めるような意味はありませんし、私なんかが歴戦の勇士たるあなた方を貶めることなどできようがありませんしね」

「英雄殿にそう思われていたというのなら、こちらとしても光栄です。先行して敵地に入ることが我らの任務ですが、私たちも兵士ですから戦闘行為は認められております。遠慮なくご命令ください」

「なら遠慮なく。ということでおっぱじめるとしようか」

「どうしますか」

「まず身を隠せる場所に兵士を配置してから一斉に歩哨小屋に向け攻撃だ。できれば迫撃砲なんかがあれば、それを使って弾薬庫に対しても同時攻撃」

「え、迫撃砲だと距離が」

「ああ、近すぎるって言いうのだろう。前に移動野戦砲で使った手があるだろう」

「え、迫撃砲で水平撃ちですか、それって無理があるような」

「だから、落とすのではなくて投げ込めばどうにかならないか。ダメなら近づかないと無理か」

「とりあえず配置後に一門で試してはみますが」

「ああ、そうしてくれ」

 俺からかなりしまらないが一応の攻撃命令を出したことになった。

 2個中隊プラス霞部隊で、ここに向かったが、途中で小隊を置いてきたので、一個中隊くらいしかここにはいない。

 その中隊が、弾薬庫周辺に向け攻撃の準備を始めた。

「大尉、兵士の配置が済みました」

「なら、あの作戦を試してはくれないか」

「ハイ」

 暫くしても、静かなものだ。

「やっぱりだめでしたね」

「あれ、どうしますか」

「ああ、失敗した奴はそのまま放置で、その場から離れてくれ。爆発したら危ない。それよりも歩哨小屋への攻撃を始めてくれ。で、手の空いている者は俺に付いてきてくれ」

「え、どこに行かれるので」

「迫撃砲が使えないのなら、近くから手榴弾を投げ込むしかないだろう。攻撃のさなかに近づくのだから、少し遠回りにはなるが、やむを得ない」

 ちょっとばかり反対にあったが、弾薬庫破壊については譲れない気持ちは誰もが等しく持っているので、結局俺の案通りになった。

 アプリコットやクリリン秘書官はもとより霞部隊からも半数が俺たちに付いてきてくれた。

 銃弾が飛び交い始めた戦場から少し離れて、防砂林の中を進んでいくと、急に俺たちを誰何する声が。

 流石に銃撃戦が始まったら、他からも人は来る。

 敵の兵士に見つかった。

 直ぐにここでも銃撃戦が始まったが、なにせ暗い中、しかも防砂林に囲まれた場所での銃撃戦なので、とりあえず誰も怪我することなく、その場を離れることに成功した。

「取り敢えず、けが人は」

「誰も居ません」

「脱落者、はぐれた者も居ません」

「なら急ごう」

 かなり大回りしながら、どうにか土塀に近づく事ができたので、一斉に手にした手榴弾を中に放り投げて行く。

 手榴弾の爆発音は聞こえるが、それ以外の音は聞こえない。

「ここからでも無理だったか」

「土塀に登りましょうか」

「いや、それなら俺が上る。悪いが手を貸してくれ」

 俺はクリリンさん達に手を貸してもらい、やっとこさで土塀の上に登った。

 すると銃声が近く聞こえた。 

 と同時に左腕に激痛が走る。

 銃弾がかすったようで、血は出ているが、それほど重傷という訳ではなさそうだ。

 でも流石に土塀の上には遮るものも無いので、敵からは格好の的だ。

 直ぐに飛び降りても良かったが、ここで欲が出る。

 俺は最後の一つである手榴弾のピンを抜いて、弾薬庫目掛けで放り投げた。

 それと同時にまた銃弾が、今度はかすっただけとはいかず、わき腹に命中したようで、痛みを感じながら俺は土塀から転げ落ちた。

 幸いなことに転げ落ちた先が味方の居る側だったので、直ぐに味方に脇腹の応急措置をしてもらえた。

 しかし、時間が経てば経つほど痛みが増してくる。

 俺の投げた手榴弾や、ここから兵士が投げている手榴弾の効果がやっと出たのか、土塀の向こうでは明らかに手榴弾の爆発音でない爆発音を確認できた。

「どうやら、しばらくここは使えなくなったようだな」

「ええ、完全にとはいかなかったでしょうが、直ぐには使えないでしょう」

「なら、ここを離れて、みんなと合流を急ごう」

 気が付かなかったが俺の左足にも銃弾を受けていたようで、どれもみな貫通したために簡単な応急措置でしばらくは保つとのことだったが、歩くのに不便が出た。

 情けない話だが、アプリコットに肩を貸してもらいながら林の中を仲間を探して歩いて行く。

 俺らを追いかけるような敵兵士の怒鳴り声があちこちから聞こえて来る。

 ひょっとしたらいよいよダメかな。

 流石に俺は良いが、部下たちは。

 嫁入り前のお嬢さんだけはどうにかしないとな。

 そんなことを考えながら林の中をさまよっていく。






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