第318話 海軍航空隊
作業を開始してから約束の一週間が過ぎた。
結論から言うと、もうこれ以上ないレベルにできた。
滑走路になる場所の整地を約2kmに渡り整備できた。
2kmもできるとは思ってもみなかったが、ブルドーザーの威力は偉大だ。
あっという間に整地が終わった。
本当にただの整地だけなら2日で終わり、整地面の強度を増すために小石などを撒いて、その上からブルドーザーで何度も往復させて、飛行機の離着陸に問題ないレベルの硬さを作ることに成功したのだ。
流石に2km全部を滑走路としては使えない。
滑走の前後にもある程度のスペースを用意しないといけない筈だと俺は前に聞いたことがあったので、今度もきちんと作りこんだ。
なんでもここから滑走路という印に当たるあの横断歩道のようなものから外側にも滑走路はあった。
誘導路などに使われているとか言っていたので、それも併せて作りこんでみたが、流石に2kmもあるとまだ余るので、前に羽田で見たような矢印のような場所も作ってみた。
そして、ここで初めての試みとして、拾ってきた石を使ってあの矢印やら、横断歩道やらも作ってみたが、これは非常に見栄えが良く出来上がった。
うん、これなら、中央を示すラインも作ってみるか。
え、時間がない。
ここまで作りこんでいたら、海軍さんからテストのために後一時間もすれば飛行機が来ると言われて、俺たちは滑走路から外に出た。
まだやることはいっぱいある。
なにせ、基地から滑走路までの道の整備は最初に行ったので、出来上がっているが、駐機場やら誘導路やらはまだできていない。
駐機場の工事については着陸に影響がないので、俺たちはそのまま駐機場の整備に取り掛かる。
元々弾避けと言うか、基地防衛のために平地に整備されている場所だけあって、広さは問題無い。
ただ、駐機場の敷地にと考えている場所に大穴が3つもある。
別に避けて駐機場を作ればいいのだが、とりあえず避けて作っているが、こうなってくるとあの穴は邪魔だ。
埋めようにも、大きさが大きすぎてかなり時間がかかりそうだ。
そうこうしているうちに海軍航空隊の艦載機が一個小隊三機編成で上空を飛んできた。
俺は手を振って歓迎の合図を送る。
艦載機は、そのまま滑走路上空を通り過ぎ、また戻ってきたが、今度はかなり低空で飛んでいる。
航空ショーなどのニュースで見るデモフライトのようだ。
そしてまた遠ざかると、今度は一機降りて来た。
いや、滑走路に車輪は付けていたが、ほんの少し滑走してすぐに離陸していった。
すると別の一機が今度は完全に着陸する。
その後すぐに、次々に残りも着陸してきた。
多分、初めての着陸なので、慎重に滑走路面を確認した行動なのだろうが、ずいぶん慎重だ。
俺は、空挺団の小隊長と一緒に着陸して滑走路上に停止している艦載機が止まっている所に向かった。
「ご苦労様です」
すると、パイロットが艦載機から降りてきて俺たちに敬礼してくる。
「グラス大尉です。今日は、我々の整備した滑走路の確認していただき感謝します」
「いえ、ここでの飛行場整備は海軍の悲願でもあります。ここまで整備された滑走路は帝国内でもそうそうありません。しかも、あの短時間での整備だと聞いております。流石、グラス大尉だと私が所属している空母内でもその話でもちきりでした」
「え、そんな話が出ていたのですか」
「海軍内の他の空母や基地の話は分かりませんが、我が空母ではぜひ会いたい軍人の一人になっております。でしたから、今回のテストフライトは、正直熾烈な競争がありました。私が無事にその権利を勝ち取りましたから、お邪魔した次第です」
「そうですか、これから基地に案内しますので……」
「いえ、それには及びません。直ぐに戻らないと艦長から……」
「そうですか、ならどうしますか。車で滑走路の端まで持っていきましょうか」
「いえ、それには及びません。まだ中央にも来ておりませんし、ここから滑走しても十分に離陸できます。短い時間でしたが、お会いできて光栄です」
「ぜひ、ここが完全に完成したら、またお越しください」
そう言って、確認に来ていた飛行小隊は離陸していった。
驚いたことに、翌日早々にまだ完成と云えない状況にもかかわらず、ジャングル中央飛行場に配属されていた海軍飛行隊から、局地戦闘機の一個中隊12機がやってきた。
まあ、広さだけは十分にあるから問題ないが、なんでも本日付けでここに配属されてきたとか。
明日にでも整備員などの地上勤務者もやって来るのだと言っていた。
当分は滑走脇にテント生活と聞いたので、早速一棟のログハウスを近くに急いで作った。
その後やってきた地上勤務者の要望を聞いて、やぐらを組んで、管制機能を持たせたり、更に事務用にもう一棟のログハウスを作って置いたら、非常に喜ばれて抱き着かんばかりに感謝された。
美女に抱き着かれるのは役得だと思うが、むさい男に、しかも汗と油のにおいを漂わせて抱き着かれてもいったい誰得だと言いたい。
そこからは、地上施設の整備やら、駐機スペースの整備を急いだ。
一月もしないで、すっかり立派な飛行場が出来上がる。
まだ、補給路が確保できないなどの問題を残すが、あの大型の輸送機までもが楽々着陸できるとあって、ガソリンなどの物資はもっぱら空輸だよりの状況だ。
それでも南ジャングル飛行隊をして、局地戦闘機中隊が2つ駐屯するまでの基地になった。
あとはあの3つある大穴だけだ。
まだ幸いに大穴に落っこちるドジは一人も出ていない。
埋めようにも手間がかかるし悩んでいたら、飛行隊基地の参謀の一人から相談を受けた。
「大尉、あの大穴の件ですが」
「すみませんね。私としても埋める算段を尽くしているのですが、いかんせん穴の大きさに問題が……」
「いえ、相談は格納庫として使えないかということなんです。スロープさえあれば戦闘機を格納できそうに思えますし、その上に頑丈な屋根を作れば立派な格納庫になりませんか」
「スロープですか……」
そこから話が始まり、あの大穴の上に基地本部建屋を作ることになった。
だが、それだけでない。
海軍がかなり前に敵から鹵獲した航空母艦があるが、はっきり言って、沈没寸前の老朽艦で、廃船待ちの状態だと聞いた。
おやっさんも交えて一大プロジェクトが始まった。
敵の空母の解体作業をゴンドワナにある鎮守府で行うように手配して、甲板の一部とエレベータをこちらで利用して、穴の中に飛行機を格納できる格納庫を作ることになった。
外から見たらレンガ作りの立派な建屋だが、地下には飛行機が1個中隊12機が格納されている。
飛行機の出し入れは海軍ならではで、空母のエレベーターを使う、そんな格納庫が3つもある一大海軍航空隊の基地に変貌していくことになった。
海軍から相当の予算と資材の投入も決まり、おやっさんの連隊が一丸となって作る。
その先遣隊としてあのシバ中尉率いる部隊も先日到着して、大穴の中の整備をあのブルドーザーを使って行っている。
しかも、急ピッチに飛行場と、海軍基地までの道路整備もシノブ少佐の大隊が責任をもって行っているそうだ。
聞くところによると、おやっさんの受けていた仕事は全部中断中なのだとか。
大丈夫なのかと思うが、あのおやっさんも芯の部分は俺と同じ趣味人だ。
正直地上に空母を作るようなものだから面白いのだろう。
連邦の各村々にレンガ作りも指導して、今ではレンガ作りは連邦の大事な仕事の一つにまでなっている。
そのレンガを海軍が全て買い上げて、今もせっせとこの飛行場まで運んでいるから、本気になった帝国の底力は恐ろしい。
いや、帝国でなく、おやっさんと海軍だけか。
そういえば、海軍の中にもおやっさんの知り合いもいたことだし、うん、俺もお友達になれそうだな。
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