第317話 楽しい土木作業
「♪えっほ。えっほと野良仕事♬ 今日も朝から野良仕事♬ 楽しい楽しい……」
「大尉、何を今朝から変な歌を……」
「ヘンとはずいぶんな言い草だな。アプリコットさんはこんな気持ちの良い日に何かを感じないのかね」
「確かに良く晴れましたね。でもね~~」
「まあ良いか。年頃の娘が気持ちの良い朝に何も感じないとは嘆かわしい」
「なんですか、それよりも皆さんお集まりですよ」
そう、俺はアプリコットを連れて基地内のグランドに向かっていた。
昨日の会議で、今朝から滑走路だけは急ぎ作ることが決まり、海軍空挺団から一個小隊回されてくることにもなっている。
俺のところからはジーナに新人を30人ほど付け作業させるように昨日の間にアプリコットを通して命じてある。
俺が集めたメンバーがこれから向かうグランドに集合している筈だ。
グランドに着くと、あ、いましたよ。
昨日聞いていたブルドーザーが、しかも3台もある。
聞いているところでは投下作戦で6台落としたという話だから成功率として50%といったところか。
「大尉。今日から大尉の指揮下に命じられました小隊を指揮するマーケット少尉です。お約束のブルドーザーは3台お持ちしました」
「少尉、帝都からの輸送に続き、お手伝い頂き感謝します。ブルドーザーですが、3台が使えましたか」
「ええ、6台投下しましたが、今現在点検の済んでいるのがこれだけになります。この後、点検が済み次第順次投入できますが、今日のところはこれでお願いします」
「ありがとう、少尉。ジーナも、おはよう」
「おはようございます、大尉」
「え~と、ならいつものからはじめようか」
「え、あの変な体操からするのですか」
「変とは何だ、変とは。基地にログハウスを作っている時からやっていることだろう。君もいい加減慣れたらどうかね」
「慣れって言いいましても。学校では習いませんでしたし、基地でも他の兵士からはいつも変な目で見られていましたしね」
「え、そうなの。 おやっさんは『これいい』とか言っていなかったっけ。確かシノブさんにも命じてやらせていたような」
「シノブ少佐は、連隊長が居ないところでは恥ずかしいからやりませんと言っていましたよ」
「それはまずいでしょ。まあ、良いか。よそはよそ、うちはうちということで、始めるよ、ラジオ体操」
「は~い。では適当にみんな広がって。これから体操を始めます」
「いっち、にい、いっち、にい」
海軍空挺団の皆さんは俺たちが体操を始めたのを見ると、俺たちに合わせて体操をしてくれた。
無理に強制はするつもりはなかったが、連帯感が生まれるので、俺としては満足だ。
体操が終わると、一度みんなを集めて朝礼を始める。
今回の目的を簡単に説明した後に、今日やる事を指示していく。
「ということで、今日はここにあるブルドーザ1、2台を使って空挺団の皆さんは簡単に整地してください。ジーナは私と一緒に残り1台を使って、このブルドーザーの習熟にあたります。すみませんが、マーケット少尉。どなたか講師として1名お借りできませんか」
「そうですね、ならうちのニーナ軍曹をお貸しします。軍曹、大尉殿に丁寧に操作の説明を」
「了解しました少尉。大尉、本日はよろしくお願いします」
一連の連絡を済ませて、それぞれが仕事にかかる。
空挺団の皆さんには、まず道の整備をお願いしてある。
とりあえず基地から北側に広がる平原中央付近まで直線の道を作る。
何を置いても道が大切だ。
まだ、この辺りの風向きを調べていないので、滑走路の向きを決めていない。
飛行機は向かい風で離着陸するのが良いとされているので、普通飛行場を作る際には長い時間を通して建設予定地の風向きを調べる。
だが、流石にそんな時間も余裕もない。
まあ、離着陸時に横風の時が一番難しいとされているが、それでもできない話ではないので、風向きを無視しても問題は多少あるが使えない話ではない。
せいぜい、パイロットたちから『誰がこんな飛行場をつくったんだ。責任者出てこい』と陰口を言われるくらいだろう。
一応数日調べてはみるが、地形などの関係を考えると、できれば東西に滑走路を作りたい。
でないと、少々面倒だ。
で、俺たちはと言うと、中央付近でブルドーザーの運転を学ぶ。
これくらい周りに何も無ければ、ブルドーザーをぶつける恐れが無いので、思い切って練習ができる。
最初は俺が教わる。
「うほほ~~い、ブルドーザーだぜ、ブルドーザー。前にパワーショベルも使ったが、土木にはやっぱりこれだろう。これとパワーショベルがあればもう鬼に金棒だ」
「大尉。なんだかうれしそうですね」
「ああ、軍曹。初めての機械って、触るだけでも楽しいもんだ。それが実際に運転できるなんて、これ以上の楽しみは無いよ。大砲やら鉄砲やらをいじるよりなんぼも良い」
「大尉。貴方がそれを言ったらだめでしょ」
あ、ヤバイ。
俺の独り言をアプリコットに聞かれた。
よそ様の見ている前で、最近は一切の遠慮なく小言を言ってくる。
流石に、よそ様の前で、正座は無いがそれでも、しっかりお小言だけは忘れない。
俺の運転教習中、軍曹の邪魔にならないように配慮はしていたが、お小言をしっかり言い切るなんて、あなたのスキル、何故だか最近向上していませんか。
一時間ばかり講習を受け、交代で、運転の練習を始めた。
ジーナやアプリコットにもさせたが、アプリコットはほとんど練習をせずに、他に譲っていた。
効率を考えているのだろう。
まあ、彼女の場合、俺の傍から離れないから、実作業など今までだってほとんどしていない。
昼に食事休憩を取り、夕方まで俺たちは練習をしていた。
「大尉、そろそろ」
「ああ、そうだな。時刻も三時か。今日は一旦やめようか」
「分かりました」
アプリコットはそう言うと、ジーナに命令を伝え、軍曹から空挺団にも撤収を命じてもらった。
全員怪我一つなく、無事に集まる。
俺は皆に朝集まってもらったグランドで、終礼を行う。
「今日は一日ご苦労様でした。皆怪我一つなく作業できたことを私はうれしく思います。明日も、同じ要領で作業を行うが、明日は、我々も作業に入るからそのつもりで。今日はゆっくりと休んでくれ」
俺の挨拶で終礼を終え解散させた。
で、俺もゆっくりと……はできない。
俺の部下たちは彼女らだけではないからだ。
俺が帝都に行っている間も部下たちは作業をしているので、流石に基地にいる時くらいは無視できない。
山猫のリーダーであったメーリカさんに預けているが、皆俺のやり方に慣れたようで、問題無く開削を続けている様だった。
「どんな感じだ?」
「隊長。久しぶりですね」
「いきなりの嫌味か。それよりもどうだ」
「どうだも何もないよ。皆慣れたので、問題無く作業している。ただ……」
「ただ、何だ?」
「効率がどうもね。やはり何か機材を持ち込んで一挙にやりたいかな。それが無理ならダイナマイトでも使いたいところですかね。一々切り倒していたら、後どれだけ時間がかかるか」
「前にも同じようなことしただろう」
「だからなのですよ。あの時は本当に時間がかかりましたからね。まあ、隊長がやれと言うのならこのまま続けますが」
「そうだな。明日、ブルドーザーを1台回そう。少なくとも切り倒した後の切り株には有用になる筈だ」
うれしい誤算というのもたまにはある物だ。
翌朝に朝礼をする前に、空挺団から、更に3台のブルドーザーの提供を受けた。
「大尉。 全て点検が終わりましたので、持ってきました。これは、大尉がご自由にお使いくださいということです」
「そういう事なら、ありがたく使わせて頂こう。ジーナ、今日は数人連れて、南に回ってくれ。ブルドーザーを1台もって行き、切り株の処理に使ってくれ。パワーショベルのようにはいかないが、それでも格段に処理が早まる筈だ」
「了解しました。以後、メーリカ少尉の指揮下に入ります」
「指揮権がごちゃごちゃになって申し訳ないが、しばらくは臨機応変によろしく」
ここに来る前に、きちんと中隊ごとにしっかりと組織を作ってきたが、とにかく工数仕事が多いために、新人だけをこちらに回してもらった関係で、色々とごちゃませになっているが、その辺りはメーリカさんも含んでくれているので、どうにかなっている。
「さあ、今日からは俺たちも、海軍さんからお借りしたリソースを使って整備していくぞ。今日からは、いよいよ滑走路に取り掛かるから、そのつもりでな」
「「「ハイ」」」元気の良い返事が変えて来たので、一安心。
今日も楽しい工作のお時間だ。
いや違った、土木のお時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます