第316話 最前線基地での会議
連れて行かれた会議室には既にメンバーが集められている。
応援で駆けつけて来た空挺団からも中隊長が一人参加しており、まあオブザーバーだからお気になさらずにとは言われたが、海軍空挺団の本気度もうかがえる。
本気で、この先の補給港を狙うつもりのようだ。
その他の参加者は俺の他は連邦軍からマリー幕僚が連邦を代表している。
彼女はこの基地の責任者でもある。
なにせこの基地は連邦の持ち物で、俺たちは連邦からの依頼により応援で詰めているだけだから当然といえば当然の参加だろう。
それ以外としてサクラ閣下の名代として、俺を出迎えてくれたアート連隊長とその幕僚。
本来ならば、当然のようにこの席にいなければいけないはずの帝国との共同軍である防衛軍からは一人の参加者が居ない。
これは、連邦軍幕僚長が、俺に対する防衛軍の扱いを正確に掴んでおり、完全に信用していないためだ。
下手をすると、まだ正式にこの基地を落としたことを通告すらしていないなんてこともあったりして。
正式な通告がなければ、防衛軍からどんな立場の人もここに寄こすことはできない。
まあ無理くりの策として、この基地を攻撃する体を取りながらの進軍しかない。
なにせ防衛軍では、記録上まだここは敵地になっている……いや、俺の報告があるから未確定地域になっている。
となると調査にこそ人を出せるが、出せる人としては精々俺クラスの尉官だ。
なにせジャングル内の敵地の調査だもんな。
佐官なんか出したら今後調査に佐官が出せる状況になるから、まずいことになっても部下に押し付けて自身は逃げるなんかできなくなるから、そこまで肝の座った者もいないだろうし、その佐官だが今更出てきても将官の名代としての大佐もいるから相手にならないだろう。
そう、調査に来ているのだから、情報を仕入れることはできても一切の発言権は無い。
誰が考えたのか、ずいぶんえぐい事をするものだ。
まあ、話が逸れたが、そんな会議なのだから俺なんか出しても意味無いだろうとは思うのだが、結構中央に近い席に座らされている。
この席での居眠りは俺でも無理だ。
その会議もさっきからかなり佳境に差し掛かってきている。
「直ぐに手を付けないといけない案件として、この基地の防衛だが、現在も最大限のリソースを注いで基地南側のジャングルの開削を行っている。しかし、まだまだ十分な成果は出ていない」
そこで空挺団から手が上がる。
「今回機材を持ってきた。それが有用であると分かれば、海軍として更に追加でかなりのものをここに投入する準備がある」
「それは助かります。その、持ち込んだ機材はいつから使えますか」
「今、準備させているが、早ければ直ぐにでも、遅くとも明日一番から使えると考えている」
「それは助かる。それなら、最大の案件も直ぐに……」
「ちょっと待ってほしい」
「何ですか、海軍さん」
「今回は空挺団の投下作戦で機材を持ち込んできたが、全てを故障無く持ち込めるかは不透明だ。投下による搬入は危険を伴うし、投下時における衝撃による破損もある。そこで提案なのだが、南の開削と同時に北側に飛行機、いや、できれば輸送機を降ろすことのできる場所だけでもいいから準備させたい」
「それは、北に飛行場を作らせるということですか」
「いえ、流石に私もそこまで無理を言うつもりはありません。場外発着場、それが無理なら、滑走路、いや、それに代わるような平地だけでも良いんです。北斗が下りることができれば、それで十分ですので、それを至急用意してもらえないかと」
「海軍の要求は分かりました。だが、それがどれだけ大変かお分かりですか」
「それもよく存じております。が、ものすごい短期間で連邦首都にある飛行場を整備したのはあなた方では。我々は、あの奇跡をもう一度できないかと考えております」
「そういう話なら、直接専門家に聞いた方が早いでしょう」
専門家??
おやっさんのことか。
ならここからなら無線で届く距離かもしれないが、それはあまり褒められた話ではない。
なにせ、ここは敵と直接接する基地だ。
ここからの無線は当然目標としている補給港から傍受が簡単にできる距離にある。
暗号を使うとしても、暗号作成及び解読に時間がかかるし、今やることでは無いだろうに、会議に出席している面々は何を考えているのか分からない。
流石に、俺からひとこと言っておこうか。
そう思って挙手をしようとしたら、議長役のマリーさんの隣で座っているアート連隊長と目が合った。
「ということで、グラス大尉。お言葉を」
さも冗談でも俺に言わせようとするような軽い感じで、俺に話を降って来る。
そんなことなら自分で言えばいいのに。
「なら、私からひとこと言わせていただきます。あいにく、ここにはおやっさん、失礼、サカキ工兵連隊長がおりませんし、連隊長を補佐する人もおりませんから、無線での問い合わせになるかと思います。しかし、ここからの無線での問い合わせは敵に傍受…」
「ちょっと待ってくれ、大尉。私が聞いているのは、大尉はこの提案に対してどう考えるかだ」
「は?この提案??飛行場でしたっけ」
「場外発着場だ」
「なんで??」
ここまで漫才のようなやり取りをしていたら、流石にアート連隊長もしびれを切らしたのか、語尾がきつくなる。
「今までお前が作ってきたのだろう。首都の飛行場だって、最初にとっかかったのはお前だと聞いているぞ。しかも、どこからも命令も要望も出る前からだともな」
「は~~?」
「だから、貴様だったら作れるのかだ」
「作れと言われましたら、作れると思います。しかも、滑走路の部分だけというのなら、それこそ工数仕事だと思いますから、投入する工数次第ですね」
「大尉。我々は今回小型だがブルドーザーを持ち込んできた。しかも、5台あると聞いている。尤も全て使えるかは現在調査中だが、どうだろうか。 ブルドーザー1台を使うとして、どんな感じになりそうか聞かせてほしい」
「ブルが使えるのなら話が違ってきますね。私に小隊を一つ預けて頂けましたら1週間もあれば十分かと」
「大尉。なら、小隊でなく中隊ならどうだろうか。3日くらいで……」
「ブルが使えないのでしたら、それこそ大隊位ほしい所ですが、ブルドーザーの数に制限がある以上、人ばかり投入してもそれこそ無駄になりますし、ブル1台に就き小隊一つくらいが妥当かと思います。それに、どれだけ投入してもそれほど時間は変わらないかと。作業のほとんどが、地固めと確認になりますから」
「ありがとう、大尉。どうだろうか議長。大尉に2個小隊を預けて作ってもらえないだろうか。何なら2個小隊はうちから出してもいい」
え?
そういう事なの。
作れと言われれば作るけど。
実際、木を切ったりするよりも何かを作る方が楽しいから俺にとってはうれしい話だが。
あ、開墾も嫌いじゃ無いよ。
でも、やはりシムシ●ィプレーヤーとしては、作る方が断然楽しい。
それから、会議は飛行場を作る方向で話がまとまり、早速俺にその命令が出された。
俺のところから陸戦中隊から新人ばかりを抽出して、空挺団のベテラン兵士の小隊を付けてもらい、作業にかかることとなった。
残りは、今の作業を継続する。
基地付近のジャングル内のパトロールと安全帯の整備だ。
開削作業はやっとこ1kmくらいまでは済んでいる。
残り半分だ。
それが終わると、地ならしして地雷を設置するかどうかは上の判断によるが、正直北側に地雷が無くて本当に助かった。
もし地雷平原にでもなっていたらと考えると飛行場なんか夢物語だ。
まあ、敵さんとしてもここは補給基地で、後方にあるべき基地だということが幸いしたのだろう。
まさかいきなり襲われるとは考えてもいなかったようだ。
俺でもそう考えるよ。
何でここがいきなり襲われたのかな。
あ、命令だったんだ。
だけど、今度は何故そんな命令を……そういえば帝都での軍事法廷でその理由も言われていたな。
俺を部隊ごと滅するためだとか。
敵としても、まさかこんな無謀な命令が出されるとは思わなかったのだろうな。
敵さんも気の毒に……
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